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<ミャンマーで今、何が?> Vol.107
2014.08.13

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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■ハウス・ウォーミング

 ・01:モンスーンと雨安居(うあんご)

 ・02:ハウス・ウォーミング

 ・03:もうひとつのハウス・ウォーミング

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01:モンスーンと雨安居(うあんご)

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赤道近くの海洋で熱せられた海水が沸騰し、水蒸気となって上空に急上昇する。その中心気圧は非常に低くなる。水蒸気がエネルギー源となった熱帯低気圧の誕生である。メキシコ湾・カリブ海ではハリケーン、太平洋では台風、そしてインド洋ではサイクロンと呼ばれる。南半球オーストラリア北部のティモール海域ではウィリーウィリーと名称が変わる。北半球ではストレートに北上する場合もあるが、大半は右・左にスライス・フックしていく。その軌跡は初心者のゴルフ同様で気象衛星が解明するまでは気象庁にも読めなかった。

今頻繁にこの熱帯低気圧がインド洋上で発生し、インド洋東部のベンガル湾に長い海岸線を曝すミャンマーはその影響をもろに受ける。だが、今のところ左(西)へ曲がるフック玉がほとんどでミャンマーへの上陸は報じられていない。それでも、朝昼晩と頻繁に襲う驟雨で沿岸地方を中心に洪水や山崩れの被害が続発している。モンスーン雨季も佳境に入ったようだ。

タクシーやサイカーの運ちゃんにとっては、まさに天からの贈り物の慈雨である。ちゃっかりと割増料金を吹っかけて、イヤならいいよと前方で待つお客をさらって行く。雨に打たれ足元を気にしながら考えた。水増し料金の語源はここだと。

そういう訳で、この季節は外出を控え読書とDVD鑑賞で過ごすのが賢明かもしれない。屋根を叩く雨音を聞きながら自分の世界に閉じこもるのである。インドの仏教徒がこの雨季の3ヶ月間、外出せず、洞窟や寺院にこもって経典や修行に専念した雨安居(うあんご)は、南伝仏教のミャンマーでは今でもきちんと受継がれている。僧侶は外出しないのが原則だが、信徒はこの時季、町内会単位で、会社や工場の仲間同士で、あるいは親戚一同で、僧院を訪れ、修行中のお坊さまのお世話をする。早朝から寺院を訪ね、境内や内々を清掃し、食事の準備に大わらわだ。

一段高くなった仏壇の間に僧侶が胡坐をかき勢ぞろいする。住職が有難い講話と経典を延々と語る。信徒たちは横すわりで頭をたれ時折住職に従い唱和し、その問いに応える。唱和も慣れ親しんでいるパーリ語である。応えも多分五戒を守りますとかなんとかいっているのだろう。最前列に座った世話役代表と思える恰幅のよい男性が、窮屈そうな横すわりで、銀に見立てたアルミ製の器に、同じくアルミ製の急須で聖水を注く。これにはちょっとしたコツが必要で、住職の講話が続く間、途切れなく細く注ぎ、講話の終了と共に注ぎ切らねばならない。英語でいうところのライベーション、すなわち聖水を地面に注ぐ儀式で、ユダヤ教やキリスト教の聖油・聖水に比較され、日本では日本酒を用いた御神酒(おみき)に変化する。

一時間ほどの有難い話が終わると、本日のメインイベント、“僧衣の寄進”が全員参加で行われる。壇上にずらりと並んだ僧侶の前に、信徒たちは膝で進み出て、持参した僧衣をそれぞれに寄進する。そして両手を合わせて合掌し叩頭する。僧侶たちの前には寄進された僧衣の箱が見る間に山と積まれる。だが、住職には一万円の、中堅僧侶には5千円の、小坊主たちには3千円の僧衣などというケチな了見は一切ない。信徒たちの精一杯の寄進が平等に行われ、そして平等に僧侶に配分される。若い娘さんも年老いたお爺チャンも何ヶ月間の特別の蓄えを喜捨する。この国では老後のためにとか、子供の将来にとかの、自己や身内を中心とした気持ちは日本と違って非常に希薄である。それをIMFとか世界銀行は世界最貧国と定義づける。街中を歩いていると雨の中、乳飲み子を抱き、幼き子供たちが側を離れない母親が缶カラを前にじっと座っている。モダンな服装をした若者たちですら、通り過ぎた後、戻ってきていくばくかのお金を喜捨する。はるかに裕福な外国人が側を通り過ぎる。まずお金を喜捨することはない。それどころか携帯カメラでパシャである。パシャではなく喜捨(きしゃ)を忘れた外国人は本当に豊かなのであろうか? この国は本当に世界最貧国なのだろうか? と考えてしまう。

僧衣寄進の儀式が終わると、恒例の食事が振舞われる。僧侶は正午前には食事を済ませ、それ以降は就寝するまで固形物は摂取しない。だから、正午前の昼食が一日の最期の食事だ。しかも、時間は限られている。世話役が采配して丸テーブルが堂内一杯にテキパキと幾つも用意される。そしてお坊さんと男性は胡坐をかき、女性は横すわりである。日本では高度成長で姿を消したお茶の間の卓袱台(ちゃぶだい)の雰囲気だ。これもここが原点かもしれない。日本だと精進落としで、まずはビールで一杯というところだが、ここでは厳格にそれは禁止されており、飲み物といえば、お茶・水・ジュースに限られる。だがどこまで厳格かというと、面白いことに、魚・チキン・ポーク・ヤギと肉料理は構わない。
そして、臭気の強いニンニクやネギもOKだ。決して精進料理というわけではない。このあたりがディスカバー・ミャンマーで日本との面白い対比を発見する。そしてそれぞれの料理がテーブル一杯に配膳され、各人のご飯皿に分け合って会話を楽しむ。お手伝いの人たちが、ご飯を含めて、次々に注ぎ足してくれる。お手伝いの人たちは朝早くからの飯炊き、配膳、後片付けまで嬉々として奉仕してくれる。欧米から持ち込まれたボランティアは一見シャレた慈善活動のように聞こえるが、この国では、先祖代々受け継いだ奉仕活動が黙々と行われている。中には、一家総出でこの奉仕活動に従事する人たちもいる。それは貧富には拘わらない善の行いと考えられているようだ。

そして皆晴れ晴れと、すっきりした気持ちで帰っていく。



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02:ハウス・ウォーミング

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どういうわけか、この時季、いくつものハウス・ウォーミングに招かれる。新築祝い、改装祝いなどの自宅お披露目である。僧侶を自宅に招き、上記“僧衣寄進式”のミニ版が繰り広げられる。ただし、各人が持参するのは、僧侶への寄進ではなく、この新居に相応しい絵画・壁掛けなどのプレゼントである。そして例の卓袱台を挟んで、ミャンマー式精進料理を楽しみながら、友人・知人たちとの歓談が始まる。もちろん一番最初に給仕されるのは僧侶たちで、正午前に食事が終わると、手配したミニバスなどで、僧院にご帰還となる。当然、何らかのお布施が包まれ、ホストからそっと手渡される。その後が、友人・知人たちの歓談だが、普通はこのときもアルコール抜きである。だから、遅くても午後2時頃には、三々五々それぞれにお暇する。



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03:もうひとつのハウス・ウォーミング

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親しい仲間から電話があった。今度のハウス・ウォーミングは夕方の6時スタートだという。彼はカトリック教徒で4分の一イタリア人の血が混じっている。駐ヤンゴンの大使館や外国からの駐在員をお客にするビジネスマンである。今、その数は急激に増え、忙しくてしょうがないという。そのビジネスの種類はここでは伏せておく。二階建ての広壮な大邸宅を全面的に改築したという。そのお披露目だ。今回は親しい友人だけの集まりのようだ。

土砂降りの雨の中、自家用車が次々に敷地内に吸い込まれていく。若者が何人か、駐車する場所を指定し、ドアを開けると傘を差し掛けてくれる。玄関からは軽快な音楽が聞こえ、すでに大勢の友人が集まっている。テーブルの椅子を勧められ、まずは飲み物の注文だ。フルーツ・ポンチも、ビールも、そして高級スコッチも何でもありだ。大型の製氷機はフルに回転している。食事もツマミもビュッフェスタイルで揃っている。女性たちは絨毯に横すわりで話に夢中だ。水割りを一息飲んだところで、大柄のこの家の主が、周りの友人たちを紹介してくれる。

ホスト自身も、友人たちも、奥方を含めて、ほとんど全員が流暢な英語を喋る。シャン州の民族も、カレン族も、ラカイン、タニンタリーと、ここにはミャンマーを縮図にしたような人たちが集まっている。映画女優も、プロの歌手も、そして国内では有名な画家もいる。ビジネスマンを含めて、ここには成功した人種が集まっている。

幹線道路に面した広大な敷地を持つ友人は、最近シンガポールのデベロッパーと合弁で、8階建てのコンドミニアムを新築予定だという。ハウス・ウォーミングは2年間待ってくれという。今、外国の投資家たちが必死に事務所を、自宅を手に入れようとしているが、幸運なミャンマーの金持ちは、今信じられないほどの高値で、キャピタルゲインを得ようとしている。外国人が買いの時期に彼らは手仕舞いに入っている。

貨物船の機関長を長いことやっていた別の友人は、約10ヶ月の航海契約が終了するごとに、ヤンゴンの方々に、マンダレー地区のピンウールイン、シャン州のカローなどに土地を買い求めてきた。今のミャンマー・フェリックス(幸福なミャンマー)が訪れるとも知らずに。日本の銀行家でも彼の資産価値を簡単には査定できないだろう。

あわただしく、玄関のチャイムが鳴る。そのたびに、大柄のホストは迎えに出る。その都度、花束や、新築祝いのプレゼントが手渡される。お嫁に行ったこの家の娘さんが、男性たちのテーブルに、そして女性陣がどっしりと腰を下ろした卓袱台に案内する。

ホストが要領よくお互いを紹介してくれる。アメリカ、ロンドン、オーストラリア、インドなどから何年ぶりに帰国した旧い友人たちもいる。ここに集まっているほとんどはクリスチャン・ネームで呼び合う。ジョージとか、ビクター、エドワード、クララ、ビッキーなどである。だが、その大半は仏教徒で洗礼などは受けていない。60歳台以上は子供のときからミッションスクールで基礎教育を受け、西洋人の牧師から英語を習い、クリスチャン・ネームを貰ったという。だから、今でも彼らは、男性でも女性でも、違和感なくクリスチャン・ネームで呼び合う。そして敬虔な仏教徒である。

そういう話を聞きながら、ミャンマーの、いやビルマの、歴史を学ぶことができる。

そして、誕生日だといっては、またクリスマス・パーティだといっては、このように友人たちを自宅に招待する。そこで、ミャンマーの遠慮のない生の情報が交換される。この数年増えてきた、ビジネスの延長線上の集まりとはまったく違う世界である。

これらの友人たちは普段見せない、多彩な顔を見せてくれる。寡黙なオヤジが電子オルガンの前に陣取り、しばらくはリズムの設定をしていたが、やがてこの家のホストに敬意を払い“オーソレミオ”を弾き語りする。そのうちに全員が“イッツ・ナウ・オー・ネバー”に歌詞を変えて歌いだす。女性も加わり“さらばジャマイカ”や“GIブルース”とレパートリーは広がる。そのうちにギター上手が二、三人それぞれに持ち歌を披露し、広間の中央では女優さんをはじめ、何人かが手を取り合ってダンスだ。だが、どれもこれも、スコットランド民謡、アイルランド民謡と、旧い懐かしい歌ばかりだ。そしてエルビスのメドレーが続き、弾き語りを目で示し、彼は昔からエルビスだったと隣の女性が教えてくれる。日本ではプレスリーだが、ここではあくまでもファーストネームのエルビスと呼ぶ。
ここに集まった年代のせいか、健康の話題も飛び出す。贅沢病といわれる痛風で、階段の上り下りがきついという。すると物識りが、グリーン・パパイヤを皮付きのままサイコロに切り、いったん沸騰した緑茶の葉っぱに三時間ほど浸して、このパパイヤを一日三回、一週間常食してみろという。何人かが、明日から早速試してみたいという。

ある友人は故郷の瞑想センターで10日ほど山篭りするという。何人かの友人はロンドンやサンフランシスコに住む息子夫婦・娘夫婦のニュースを聞かせてくれる。画家は日本の浮世絵に興味を持ち、広重の線描写や、雪舟の墨絵まで、幅広い話題を提供してくれる。そして自分の水彩画の作品を、携帯電話のアルバムからずらりと見せてくれる。出版社を経営するあるご婦人は、娘さんと二人で一ヶ月ほど米国の東部と西海岸の友人を訪ねてきたと土産話だ。旅行社を経営するご婦人は、ブッダガヤなどお釈迦様の聖地にミャンマー人を案内して商売大繁盛だそうだ。別の旅行業を経営する社長からは、ミャンマーがこれほどオープンになったとはいえ、ミャンマーのパスポートを提示すると、入管で今所持金は幾ら持っているかと露骨で失礼な質問を受けることもあるという。それぞれが「ミャンマーで今、何が?」を考えさせられる貴重な時事問題である。

このようにして、今日紹介されたばかりの新しい友人が明日の旧い友人へと育っていく。ビジネスからスタートした付き合いで、文化・習慣の違いから、仲間割れのケースをいくつか耳にする。であれば、ビジネスを離れて、一対一の信用が構築してから、ビジネスに入っていくのも一法ではないだろうか。

日本人よりはるか昔の1271年ベネチアの商人マルコ・ポーロは東方へ旅立ち、フビライ・カーンに仕えた。元の時代の中国である。1492年ベネチアの船乗りコロンブスは反対に西回りの航路でインドを目指した。そして今、ソニア・ガンジーはインド政界の大物となっている。皆、イタリアの血を引いた偉大な人たちである。もう一人、今ヤンゴンでイタリアの血を引いた男が大きく羽ばたこうとしている。そんな、話をしながら、この夜のホストに敬意を表し、大邸宅を後にした。






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