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<ミャンマーで今、何が?> Vol.113
2014.09.24

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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■カカボラジ続報

 ・01:ミャンマー・タイムズも第一面で取上げる

 ・02:Htoo基金(Foundation)

 ・03:中国の救援部隊はどうなったのか?

 ・04:再びウ・テイザーとHtooグループについて

 ・05:行間を読み取る

 ・06:もうひとつの遭難事件

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今週は別の話題を予定していましたが、カカボラジその後の進展を知りたいとの要望がいくつか寄せられましたので、急遽カカボラジ続報に切り替えます。


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01:ミャンマー・タイムズも第一面で取上げる

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9月22日(月)発行のミャンマー・タイムズ(以降MT誌と省略)今週号第一面にはカチン州プタオ町パナンディン村に駐機したミャンマー国軍の大型ヘリコプターから飲料物資などを運び出している写真と、二人の登山家は十分な装備をしていなかったとHtooグループのコメントが記載されているので、これをまず手始めにお伝えしたい。

ミャンマー最高峰の登頂企画に非難が湧き上がっている。主催者(ヤンゴン大学ハイキング山岳協会)は登山家たちに十分な装備を提供しなかったとしてHtoo基金は非難した。
8月31日、標高5881mのカカボラジ山頂上に到達した直後、連絡を絶った二人の登山家の発見はほとんど望みがないと救助チームが語ったことで、これらのコメントが出てきた。そしてHtoo基金のパトロンであるウ・テイザーは遺体(すでにbodiesという表現をしている)の一確認を明示できた人には1億チャット(邦貨約1千万円)の賞金を提供するとしている。

Htoo基金のウ・ソータンウィンも最高峰に挑戦するのに8名のチームは十分な安全装備を用意しておらず、登頂に成功した二人もお互いを結びつける一本のロープだけしか所持していなかった。どうして十分な装備を用意しなかったのか理解できないと語った。
主催者とされる大学ハイキング山岳協会の役員の一人は、チーム全員にフル装備を手配できなかったが、登頂に成功した二人は経験豊富な登山家だったと、歯切れの悪い言い訳をしている。



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02:Htoo基金(Foundation) 

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ミャンマーの政商といわれるウ・テイザーはHtooグループの名前で豪華ホテル・銀行・航空会社など巨大で広範囲にわたる複合企業を経営し、ソ連・ロシアからの独占的な武器購入などで、軍政権トップとの緊密な関係を築き上げてきた。もちろんその資産は計り知れない莫大なものである。それゆえに、最大のクローニー(軍事政権への取り巻き=政商)の一人とみなされ、経済制裁をほぼ解除した米国は、今でも、ウ・テイザーの家族、およびその経営陣を米国財務相のブラックリストから外しておらず、米国への入国を阻止し、海外資産を凍結している。

ウ・テイザーはイメチェンを図るかのごとくに、サイクロン・ナーギスがミャンマーを襲った直後の2008年5月5日にHtoo基金という名前のフィランソロフィー的団体を組織してボランティア活動を展開してきた。その一方で、カチン州プタオ近く、すなわちカカボラジ山麓にスキー施設などを備えた豪華なホテル&リゾートを開発中とのウワサが伝わってくるが、進捗状況は不明である。そのホテル候補地選定のために、本人搭乗のヘリコプターが悪天候に遭遇・不時着し、数日間は生死に関する情報が錯綜したが、前回お伝えしたとおり、九死に一生を得てヤンゴンに帰還できた。2011年のことである。その辺りから、本人は人生を頓悟したかのように人間が変わったとのウワサもあるが、この手の話には胡散臭さも同居する。

このようなウワサから、ウ・テイザーのカカボラジにかかわる異常な意気込みを類推する以外に手立ては何もない。

Htoo基金がこの計画を主催したヤンゴン大学山岳部を非難しているものの、行方不明の登山家を捜索する救助隊の編成、ミャンマー国軍の借り出し、軍隊用ヘリコプターのチャーター、懸賞金も含めてウ・テイザーがすべて負担しているものと思われる。なぜなのかという疑問が生じるが、西欧社会が求める透明性はどこにもない。



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03:中国の救援部隊はどうなったのか?

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9人編成の中国のBlue Sky Rescueチーム(BSR:ブルースカイ救助隊)は回復しない悪天候が続き、雪を被ったカカボラジの登頂はむつかしいとして、救助を断念した、とHtoo基金は語る。別の情報では、装備は万全とされたこの救援隊もカカボラジに挑戦するには装備が不十分であったとしている。もうひとつ別の情報では、救助隊のコーディネーターが、日本の山岳チームに依頼したほうがよさそうだと語った後、中国チームはミャンマー側からの捜索を断念したとの情報もある。

BSRは9月13日にはカチン州プタオに到着した。そして、ベースキャンプでは素晴らしいハタキをしたが、いざ登山を開始すると困難に遭遇したとの情報もある。

中国国営の新華社によれば、このBSRは中国最大の民間救助チームで、ミャンマーに派遣されたこのチームはかってエベレスト山にも遠征した経験があるとしている。

しかし、救助隊という一刻も争う人命にかかわる重責を担ったプロのチームとしてはあまりにも無責任な断念といわざるを得ない。カカボラジのことをどれほど入念に事前調査して救援を申し出たのか? ヒマラヤ連峰級の一刻一刻急変する天候の恐ろしさを知らなかったのか? それとも自分たちの能力を過信したのか? 氷河地帯での夜間の気温降下は落差が激しい。ビバーク時など、体温の降下はもっとも危険な睡魔に見舞われる恐れがある。したがって、救援隊には風前の命の灯が消える前に遭難者を救出確保する使命がある。今回の救援隊には時間との闘いだという、そのリスク管理がまったく見受けられない。エベレスト遠征の経験がどこに活かされたのか。非常に残念なことだ。

ヤンゴン駐在中国大使館の声明によれば、このチームは中国に戻り、チベット自治区に向かい、そこでBSR第二隊と合流することになっている。9月15日時点で、この第二隊はすでにミャンマーと国境を接する中国のNyingchi地区にあるNam In Taung山の麓に到着しているとのことである。

なお、この中国チームに取って代わったという日本チームついてはほとんど情報がない。日本大使館も何も知らされておらず、多分民間グループではないかと推測する。



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04:再びウ・テイザーとHtooグループについて

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9月17日、プタオに駐機したヘリコプター内からいろいろと指示を発するウ・テイザーの写真が大きくMT誌の6-7ページにまたがって掲載されている。Htooグループの総帥である。そしてHtoo基金はその一翼である。

別の記事によれば、このHtooグループは中国チームを断念するのと平行して、日本チームのみならず、タイ国や米国の救助チームにも救いの手を求めているようである。
時間の経過と共に、二人の登山家が生きて生還する希望は徐々に消え失せていき、今では二人の遺体を家族のもとに返還すべく、その回収に救助の目的は変更されているようである。

Htooグループにチャーターされた二つのヘリコプターのパイロットの一人は現地の気象条件が悪く、捜索を困難にしている。これまでにパナンデン村およびタフンダム村に設営された前線基地のいくつかの救助チームに食料や燃料を届ける作業に従事してきたと語っている。

前人未到のカカボラジ山頂に1996年にミャンマー国旗を打ち立てた、この付近に在住するミャンマー国籍の、ナンマー・ジャンセンも地上からの捜索に加わっている。あの快男児・尾崎隆が参加して総指揮をとっていないのが、返す返すも残念だ。

昨年、カカボラジ近接のほぼ同じ標高の山頂に立ったアンディ・タイソンも米国チームを率いてこの捜索活動に従事している。

だが、私財を投げ打って、といっても全財産からすれば僅かなものだろうが、ウ・テイザーが自身で現場に乗り込み総指揮を取るとは、異様なほどの執念を感じる。

事件が発生したあとで、Htooグループが主催者とされるヤンゴン大学山岳部を非難していることを総帥としてどういう風に考えているのだろう。事前に入念な打ち合わせができなかったのか? 仮に高額な補償金が提供されても、家族の身にすれば、重度の凍傷でも生身の身体で戻ってきてほしいというのが本心ではなかろうか?



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05:行間を読み取る

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ヤンゴン大学ハイキング山岳協会という名称も、軽装のハイキングと、ロッククライミングあるいは厳冬の山岳部と明確に区分して設定すればと思うが、このあたりもトロピカルのミャンマーらしさが窺える。

その協会の一人は、非難には直接答えず、ミャンマーで必要な装備を調達することは難しいと語り、今回の遠征は主にミャンマーで超有名なプレミア・コーヒーとカンボザ銀行4千万チャット(邦貨約4百万円)をそれぞれ山岳協会に提供してくれた。6名の残存メンバーは9月19日にヤンゴンに戻り、21日に記者会見を開く予定だと語っている。

さらにHtoo基金は2013年9月に成功したカカボラジ近くのガムランラジ登頂のスポンサーとなり、今回のカカボラジでは二人の登頂者が行方不明と伝えられた後で、この捜索に参加した。

Htoo基金の広報は、これまでに50億チャット(邦貨約5億円)をこの救助作業に費やしたと発表している。その内訳は、ヘリコプター2機、捜索チームの編成、タイやネパールからのパイロット手配、米国の登山家手配などとしている。

ここでも、どうして元々のスポンサーからの声明が発表されないのか、どうしてHtooグループだけの活動が目立つのか?

今回の不透明さには何かすっきりしないものがある。これはミャンマーの今を象徴する事件といってよいかもしれない。勘ぐれば、いろいろあるが、読者の皆さんも行間を読み取っていただきたい。ここでは何も語るまい。



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06:もうひとつの遭難事件

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これでカカボラジの続報はいったん筆をおくが、もうひとつの外電に考え込んでしまった。

イタリアとフランスの国境が接するところ、そこにアルプス連峰のマッターホルンがある。標高4478m。その頂上200mに迫ったとき、チームの一員サム・ブランソンは目まい、吐き気、呼吸困難という高山病に襲われた。緊急隊員は下山を命じたが、本人は何とか頂上に到達した。

しかし、その後がいけない。マッターホルン頂上からぐったりしたままでヘリコプター救出。カカボラジ登頂から5日後の9月4日のことである。

この英国人サムはバージン・レコードそしてバージン航空の創立者で、億万長者であのカッコ良い冒険野郎、そして今ではエリザベス女王から爵位を貰ったリチャード・ブランソン卿の息子である。そのリチャード・ブランソンも熱気球の不時着などで、これまでに8回もヘリコプターの世話になっている。

歴史上の冒険家に限らず、地球上の山男たちは、何日間もひたすらに歩き、岸壁を登攀し、ビバークを重ねて悪天候をやり過ごし、頂上を極める。ほんの一瞬の喜びが全行程の中間地点だ。そして同じ行程を何日間も掛けて、ふたたび悪天候と戦いながら、自宅に生還してきた。登頂記録達成だけを目的にするのであれば、あまりにも悲愴だ。登山として不健全ではなかろうか。自宅に無事帰還して何ぼのものと評価したい。

それが安易に頂上を極め、登頂記録だけ残し、ヘリコプターで脱出するとは。考え込んでしまったのは、ここのところである。

競走でも競泳でも、スタートラインでの不正をフライングとして罰せられる。山頂からのヘリコプターでの脱出は字義通りのFlyingとして登頂記録を剥奪すべきではないだろうか。皆さんはどうお考えでしょう? 機会があれば、ウ・テイザーにもお訊ねしたい。



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