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<ミャンマーで今、何が?> Vol.114
2014.10.01

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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■ヤンゴンの労働争議

 ・01:外資工場で労働争議発生

 ・02:事件の詳細

 ・03:ケーススタディ

 ・04:他山の石

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01:外資工場で労働争議発生

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ヤンゴンに進出した外資工場でいま労働争議が発生している。これはミャンマー進出を検討中の日本企業のみならず、すでに進出し稼働中の日本企業にとっても参考になるのでは、と思われるので、ケーススタディとして取上げてみたい。

約一年ほど前にMaster Sports Footwear Factory社がヤンゴン地区ラインタヤー工業団地に製靴工場を立ち上げ生産を開始した。ところが低品質であるとして製品を市場に販売できず、資金難に陥ったと工場側は説明している。757名の主に女子従業員を抱えるこの工場のオーナーは、監督官庁の労働社会保障省に報告しないどころか、従業員にも説明せず、6月分給与未払いのまま、突然工場を閉鎖して、韓国に帰国してしまった。

9月18日付国営日刊英字新聞NLM紙およびその他外電によれば、社長不在のまま、ミャンマー政府の労働保障省が介入し、工場事務所で労働者側と話し合っていたが、激昂した労働者側は同省長官(Director General)を工場内に監禁し、これを救助しようとした警察官と揉み合いとなった。最終的には9月16日夜、長官は救出されたものの、9名の警察官が負傷するという事件に発展した。



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02:事件の詳細

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話し合いにおいて、労働者側は当局に対して未払いの給与と補償金を9月末日までに支払うよう要求した。一方、当局は実にお役所的な表現で、関連法案に従い給与と補償金を支払うよう努力しており、工場内の物件がオークションで売却された後に問題を解決したいと、同長官は約束した。

しかし、話し合いは決裂し、同事務所を去ろうとする同長官を労働者側が監禁したということである。

警察の責任者は「現在事件を調査中で、誰が工場への不法侵入を指導し、監禁を行ったかが判明すれば、犯罪として処分する」と語っている。この発言は、軍事政権時代の残滓のような表現で、社長が夜逃げした自分たちの工場に立ち入ったのを、最初から不法侵入扱いし、裁判での審判を仰がずに、従業員を最初から犯罪人扱いしている。現在、警察官は工場内の物件落札が完了するまで工場の警備保障に当たるが、大半の従業員が女性であることを考慮して、労働争議の警備態勢としては最も軽レベルで対応していると付け加えた。そのためかどうか、9名の警察官が負傷し、そのうち2名は重傷を負った。そして2名の女性従業員が一時的に拘留されたが、その後釈放したと語っている。

警察は、この事件は労働者側の法律に対する理解が欠如したためとしているが、労働者側にすれば工場閉鎖によって実際に職を失った状況で、当局は法律に従って問題解決すると説明するが、お役所のチンタラ仕事では埒が明かず、もう待ったなしで、さらなる2-3ヶ月もの耐乏生活には辛抱できないとしている。

ヤンゴン地区労働裁判所は先月、通告なしに工場を閉鎖したとして、法律の定めにより、社長は6月分の給与と補償金を757名の全従業員に対して支払うべしとの判決を言い渡した。

工場オーナーはこの裁判所判決を30日以内に履行しなかったとして、工場内の資産をオークションにかける原資調達委員会を当局は設立した。同時に工場・一般労働調査部は先月韓国大使館に対して問題解決のため同社長をヤンゴンに呼び戻すよう督促した。さらに同省は、Master Sports社は6月26日工場を閉鎖し、法律に従い従業員に6月分の給与と補償金を支払わなかったとして7月25日同社を告訴した。



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03:ケーススタディ

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国連や世界銀行における“世界最貧国”の定義は異なるとしても、欧米の経済制裁によるミャンマーの鎖国状態の経済指標のひとつが、一日US$1.25という低賃金であった。この鎖国が解除されると、世界中の投資家・投機家・経営者がコンドルのように襲いかかってきたのは、この低賃金が魅力だったからである。日本円に粗換算すると一日125円の労賃である。外国政府および投資家は、軍事政権で虐待されてきたとか、可哀想だとか、この国を援助したいと猫なで声でアプローチするが、世界経済のグローバライゼーションは、ビルマ人の優しさ、英語力、優秀さを総合的に判断した上で、雇用の促進という耳障りのよい言葉で、自分たちがどれほどボロ儲けできるかを試算している。その基本数字はすべてUS$1.25のこの労賃にある。実際には、皆が殺到することによって、この労賃も、そして土地代金も、事務所のレンタルも、神の見えざる報復によって大幅修正中である。
切っ掛けは、軍服を市民服に着替えた新政府のイメチェンがことごとく大成功したことにある。キリストならこれをミラクルと言い、仏陀なら因果応報と言うかもしれない。外国人投資法、銀行法、労働法、貿易法など民主化を含めたインフラ整備・法改正を必死にやっているという態度と実行力が欧米から大きく評価された。

しかし、半世紀以上にわたって培われてきた軍事政権時代のお役所スタイルはそう簡単には改まらない。だがこれは、法律を制定する議会や執行する行政府側のみならず、その対象となる会社側、そして労働者側も同様で、それを伝えるメディアも同様である。
この工場は一年前に開設したとのことだが、当局から埒の明かない許認可を受けるには、匂いを嗅ぎつけた様々な当局から千手観音のように見えざる手が伸びて、予想外の付け届けや出費が嵩んだことは容易に想像がつく。

その上で工場はやっと稼動するわけだが、商品が低品質ということで、予定したバイヤーからはことごとく契約解除されたという。これでは工場経営者としての能力が疑われる。それだけではない。従業員管理もずさんである。関係省庁に対する法規遵守の姿勢にも問題がある。経営不能に陥り夜逃げするなどもってのほかだ。今、脚光を浴びているミャンマーでマスコミ対策を含めた危機管理能力もお粗末だ。ひいては自国政府とミャンマー国との友好関係に汚点を残すということに考えが至らなかったのだろうか。とにかく、安い賃金で、一攫千金だけを狙っていたのだろうか。

スポーツシューズといえば、今ではマラソンのみならず、テニス・ゴルフ・サッカー・スキー・ヨットと、世界の超有名ブランドが人間工学的な技術と魅力的なデザインで、覇権を競い合っている業界だ。中途半端な品質ではバイヤーから見向きもされないことは承知していたはずだ。

そのあたりを頭において、過去の外電から関連ニュースを拾ってみた。



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04:他山の石 

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700名以上の従業員が7月17日駐ヤンゴンの韓国大使館の前で抗議集会を開いた。これは通告なしに不当に工場を閉鎖し帰国した韓国人オーナーに対する抗議で、アパートの賃貸料も払えない窮状を訴え、他の職を手当てしてほしいとの支援を韓国大使に要求したものである。

新政府が労働組合の法制化を含めて経済改革を推進してから、合法的なストライキやデモ抗議行動が頻繁に起こり、しかも激化してきた。

このMaster Sports社の従業員たちも労働社会保障省、議会、反体制派のNLD党(スーチー党首が国会の法整備委員会の議長を務める)などに接触を試みたが、何ら支援を得らず、その不満が大使館に集中したものと思われる。

この7月17日の抗議集会も、実は警察の事前許可を受けて、ラインタヤーの工場から、5つの町区(タウンシップ)で窮状を訴え、スローガンを叫びながら、行進してきたものである。デモのリーダーは「6月分の給与と解雇手当を法律に従い要求する」とし、さらに「この韓国人経営者は労働法を無視した残業などが常態と化していた」と訴える。

もうひとつ、今年2月21日付けイレブン・ミャンマー誌の記事を見つけた。

従業員たちは、時間給の賃上げ、態度の悪い女性監督官の解雇、仕事を休んだ場合の一日6000チャットという罰金制度の廃止などを含む10項目の要望書を経営側に提出した。

社長は、9項目については合意したが、マ・レイレイウィンという名前の女性監督官の解雇には同意できないとし、工場が閉鎖されることになっても、この女性監督官を解雇することはできない。この一点が合意されないということは、合意した他のすべての合意もキャンセルするとしている。

従業員側は2月15日から、ストに入り、時給を150チャット(邦貨15円)から250チャット(邦貨25円)に、月額手当てを15,000チャット(邦貨1,500円)から25,000チャット(邦貨2,500円)にするよう要求している。

経営側は1月に賃上げを発表したが、これは監督官クラスにのみに適用された。そして従業員は強制労働を強いられ労働者としての権利は無視されている。休暇もろくに取れない状況なので労働法に則った処置を要求するとしている。

1925年に刊行された女工哀史を想い出させる報道である。だが、2014年のヤンゴンでの話である。その当時と今のミャンマーが大きく異なるのは、まずは労働者の権利意識がまったく違うこと、今回の活動に外部のオルグが入り込んでいるのかどうかは不明だが、工場内のスト、韓国大使館までのデモなど労働者側の行動が、国内法に則った順法闘争を行っていること。国内外のマスコミが外資の失策として大いに関心を持っていることなどがあげられよう。

これは他山の石として大いに参考としたい。



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