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<ミャンマーで今、何が?> Vol.135
2015.03.04

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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■オリーブ・ヤン

 ・01:北シャン州の御伽噺

 ・02:複雑国家の中国人社会

 ・03:ここで一言、アメリカ非難

 ・04:正真正銘、本物のドンパチ戦争

 ・05:断片情報からは全体像は見えない

 ・06:ノーベル平和賞

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興味を持っていただけるかどうか、オリーブ・ヤンという女性の話から始めたい。


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01:北シャン州の御伽噺

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この女性の漢字表記は楊金秀である。北京語発音はヤン・ジンシュウ。周りは豪邸が続く、スーチーさんと同じヤンゴンのユニバーシティ・アベニューに住む。相当にリッチなレディーと思われる。北シャン州・ラシオの守護天使女子修道院付属高校(Guardian Angel's Convent School)で教育を受けた。ミッション系で先生はすべてシスター(修道女)だった。通称はオリーブ・ヤンで通っている。

彼女はバイ・セクシュアルとして知られ、数多くの有名女優、歌手たちとも浮名を流した。そのうちのひとりはミャンマー映画界の大物で、アカデミー最優秀女優賞を3回も受賞した超リッチな女性だ。ヤンゴンの下町に有名な映画館を所有し、それを高級コンドミニアムに建替えていた。その最中に、建設会社と訴訟問題が発生し、最近その名前がゴシップ欄に登場した。

オリーブ・ヤンは結婚の経験もあり、ひとり息子・段吉卜(トゥアン・ジープー)は現在タイのチェンマイで教師をしている。

ここまでの情報で、どういう女性をアナタは想像されたであろう。
では核心部分に入っていく。

北シャン州で1927年6月24日の生まれというから、現在87歳。若い頃の綽名はMiss Hairy Legsと呼ばれた。よほど毛深い足の持ち主だったのだろう。高地から低地までアヘンを輸送するコーカン族の私兵を組織し、19歳でその地域の麻薬取引を牛耳るようになる。その兵力は1000人を超え、通称“オリーブの少年団”と呼ばれた。麻薬王クンサーも一時彼女の部下だったといわれる。

第二次大戦終結から1960年代初めまでオリーブ・ヤンはコーカン地区の麻薬取引を一手に支配した。1950年代になると、中国の民族主義者たちが敗北し、大量の難民が中国から逃げ込んできた。オリーブはその国民党軍と結託して、いわゆるゴールデン・トライアングルにおける麻薬取引のルートを確立した。

1950年代から1960年代中ごろにかけて、オリーブはコーカン地区人民防衛軍の司令官を勤め、麻薬およびゴールドの取引で名を轟かせた。1962年に、オリーブはヤンゴン議会の議員であった弟ジミーとともにビルマ政府軍によって逮捕され、インセインの監獄にぶち込まれる。1968年に出所。出所後は修道女としての生活を送っていたと伝えられる。

1980年代後半、オリーブはキンニュンに雇われ、民族反政府軍と中央政府との間の停戦協定の仲介に駆り出されたといわれている。



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02:複雑国家の中国人社会

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オリーブの名前をじっくり見て欲しい。彼女の姓は“楊”。日本人の発音なら“ヨウ”さんである。楊貴妃の“楊”でもある。17世紀、明王朝の生き残りが中央から追われて雲南省に逃げ込んだ。その一部が楊一族で、楊ファミリーがコウカン地区を作り上げたといわれている。

このコウカン地区の藩王であったエドワード・ヤンはオリーブのハーフ・ブラザー。すなわちオリーブとエドワードは異母兄妹、いわゆる腹違いの兄妹ということになる。この楊一族はコウカン地区においては、言ってみればお殿様の家系で代々名門の出自を意味する。とすれば、オリーブはお姫様ということになる。



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03:ここで一言、アメリカ非難

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戦後アメリカに占領され、日本では物事を安易に“ひと括りにする”のが合理的と教育された。マスコミもそうである。007を輩出した英国の老獪さはそんな単純なものではない。もっともっと奥が深い。

やれ共産国家だ、イスラム国家だ、と今でもアメリカさんは物事を単純化して白黒をつけたがる。それで世界中が迷惑し、顰蹙を買っている。歴史もないお粗末な国だが、すべては西部開拓時代の無法地帯から出発している。英語では“Wild West”という。歴史に残るのは、せいぜいクー・クラックス・クラン(KKK)、リンチの絞首刑、魔女狩りの歴史ぐらいで、人間に対する思いやりはまったくない。そして今、人権問題だとミャンマーに横槍を入れる。

オーバーな言い方をすると、現在世界の揉め事の大半は大英帝国が見事なほど老獪に紛争の種を蒔いてきた。そして単純なアメリカさんにこれからは米国の時代だとおだてて引継ぎをした。それが第二次世界大戦である。だからこそ、日本を第二次世界大戦に誘い込んだ張本人はウィンストン・チャーチルだという話を確か、立花隆だったかが、書いていたと思う。

東洋が生み出した“遊びの心”にも通じる偉大な文化グレイゾーン(曖昧さ)をまったく理解していないのがアメリカさんだ。シャン州でも、この線からこっちはミャンマーで、あちら側は中国だと単純に割り切り、赤十字は人道支援活動だから正義の味方である。それに対する攻撃は不当だとヤンゴンの駐在米国大使館が非難する。これまでデレック・ミッチェル米国大使は骨のある、ミャンマーを理解する人物と見ていたが、チョットがっかりさせられた。やはり彼もアメリカ人だったんだと。



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04:正真正銘、本物のドンパチ戦争

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ミャンマーのグレーゾーンは見事に演出された人工的なデズニーランドではない。本物のドンパチが行われている。反政府軍からすれば、生死をかけて、あの山頂の陣取り合戦をやっている。

コウカン地区は漢字で“果敢”と書く。そして先週友人が教えてくれたポンチャーシンは“彭家声”と書く。オリーブ・ヤンが果敢族であれば、ポンチャーシンも果敢族である。彼は1931年2月5日の生まれだから、今年84歳。オリーブの兄貴エドワード・ヤンの薫陶を受けて育った。18歳のときに、黄埔軍官学校に入学している。ご承知、孫文が創設し蒋介石が校長を勤めた名門軍事教練所である。驚いたことに、この軍官学校で彭家声はあの羅星漢(ローシンハン=麻薬王)と同期同学(日本語では同期の桜)であった。

中国人が深い結びつきを作るのは、同姓・同郷・同学(同窓生)・同事(会社の同僚)といわれている。実はもうひとつ、コネをつくる五大要素目があったが、これは忘れた。

シャン州の北部には、アメリカさんが簡単に白黒をつけられない飛び地がある。そこは人的・文化的には中国であり、地理的にはミャンマーである。両国の中央政府が歴史的にタッチできなかった藩王が支配する平家の落人部落のようなものだ。三国志演義その他から推測しても、四川省、雲南省などは中国の奥地の奥地、中央政府の支配の及ばない山奥であった。その名残は今でも厳然と生きており、独自の文化が継承されてきた。

シャン州は魅力的な山岳高原地帯である。その文化は山襞のように複雑で、北部は中国の影響が強い中国・シャン、そして南はタイ文化の影響が強いサイアム・シャンに分かれている。北では明王朝の残党が居ついたという悠久のロマンがあり、南では山田長政の残党が逃げてきたという幻の伝説が語られる。

現状を知らない世界中のお節介が今、すべてのエスニック民族と平和協定を締結しろと、ネイピード政府に圧力をかけている。テインセイン大統領も多額の借金をしている手前、正直にそれは無理だとは言えない。仕方なしに、戒厳令を発令し、西洋人好みの武力で解決するジェスチャーを示している。実情はそんなに単純ではない。

ミャンマーでは振付師が演出するデズニーランドではなく、手に汗握る本物のアドベンチャーが味わえる。本物の“Wild West”である。そこではタイムマシンを使用せずに明王朝にタイムスリップできるし、最新鋭兵器から発射した弾丸が頭上を掠める。命を保証しない本物のスリルがいっぱいである。日本の粋人はもともと、舌にピリッと刺激のくるような“ふぐ料理”を堪能する洒落っ気がある。それで人生の最後を飾った歌舞伎役者もいる。そういうゾクゾク感を味わいたい超リッチマンには、東西南北研究所がシャン州ネットワークを総揚げして、超豪華旅行を手配しましょう。どうですか、これまでの罪滅ぼしに莫大な生命保険を愛する奥方のために賭?けて見ませんか?奥方の喜ぶ顔を想像してみてください。間違いなく喜ばれます。
  
忘れた頃に写真添付でメールをくれる藤沢の友人がいる。先日も山の峰が延々と続くインド国境地帯の素晴らしい写真を送ってくれた。彼はありふれた都会の喧騒を嫌って、ミャンマーの辺境地帯に向こう側からちょくちょく入国してくる。まるでゲリラのような出没である。そのあたりのところを彼にレクチャーをしてもらったら、もう少し面白い情報をお届けできること間違いありません。



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05:断片情報からは全体像は見えない

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あの山の頂をとったりとられたりの攻防戦が続く。反政府軍の武器を押収。遺体を何体回収、そして共同墓地へ埋葬。戦死者の葬儀が国防軍高官が出席しラシオの戦没者慰霊墓地で開催。負傷兵をマンダレーの病院へ輸送。有名企業からの義捐金贈呈式が行われる。ヤンゴンでも義捐金が国防軍に集まる。

女性団体が傷病兵を見舞い現金を手渡す。大統領や国防軍最高司令官が傷病兵を病院に見舞う。戦闘地区から退避した学校の先生たちがマンダレーに到着。避難民が続々とマンダレーに避難など、断片情報は豊富だが、これにとらわれると全体像が何一つ見えてこない。



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06:ノーベル平和賞

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ネイピードに強い友人からは、現在民族主義者の首脳と中央政府のトップが話し合い中で、数日中に決着が付くという情報をもらった。眉唾ではと思いつつも、念のため、日刊英字紙を毎朝チェックするが、断片記事だけで、平和解決の兆候もない。

もしテインセイン大統領がこれらの反政府軍民兵組織と平和協定を締結し、136の民族を平和裏に統括することができたら、それこそノーベル平和賞モノで、異なる民族、宗教、言語、文化、習慣を共存させる世界初のモデルケースになることだろう。

ミャンマーはこれまでの国連事務総長としては出色のウ・タント事務総長を送り込んだ偉大な国である。一見、水と油の相異なる意見を、粘り強く合意に持ち込む裁定能力がある。そのDNAはテインセイン大統領にも流れているはずである。

どうですか、スーチーさんに続いて、二人目のノーベル平和賞受賞国に挑戦してみませんか?




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