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<ミャンマーで今、何が?> Vol.146
2015.05.27

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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■ボートピープル続編

 ・01:モンスーン雨季

 ・02:ボートピープル用の海図

 ・03:ボートピープルはどこへ漂着?

 ・04:周辺諸国だけでなく、欧米でも問題化

 ・05:麻薬煮に似た図式

 ・06:では解決策をどうする?

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01:モンスーン雨季

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5月17日のことである。久しぶりに外出した。何かが違う。オヤッと思っていると、頬に雨を感じた。だが、それきりだった。それから薄雲が太陽光線を遮るようになった。19日朝からしとしと雨だ。11時頃から本降りになり一時間半ほど続いた。20日もしとしと雨が一日中続いた。21日は屋根を叩く激しい雨の音を久し振りに聞いた。

時至れば、季節は必ず変わる。

この何日間は実によく眠る。身体が要求していたのだろう。一日中眠くて仕方がない。この数ヶ月間、猛暑で痛めつけられた肉体と頭脳の自衛本能かもしれない。

横になりながら、ボートピープルのことが気になって仕方がない。5月13日付第144号で「天国と地獄の間」で取上げたあのボートピープルのことである。これはひょっとしてテインセイン政権を揺さぶる火種かもしれないと、気になっていた話題である。新聞種で、追っ掛けを続けていた。



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02:ボートピープル用の海図

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安穏とした陸上の人間にとっては天国の慈雨かもしれない。だが、海流に流され遥か沖合いを通過する、乾舷一杯に詰め込まれたすし詰めのひとたちにとっては致命的な水との闘いのはずだ。陸上での微風は、沖合いでは大しけかもしれない。舷側から波が浸入する。水垢は溜まる一方だ。ボートはさらに重くなる。全員で必死に掻き出す。それに雨水が加わると、乾舷はさらに低くなる。屋根のない粗末な木造船では、ボートピープルは地獄の水攻めに翻弄されているかもしれない。

ベンガル湾の海岸線に沿って地図を眺める。ミャンマー北西部はバングラデッシュと国境を接している。大雑把に北緯21度の辺りである。そこから北緯13度まで一直線に真南に下ると、アンダマン・ニコバル諸島にぶち当たる。この諸島はインド領に所属し、インド海軍の重要な基地となっている。この諸島の東側をアンダマン海と称している。

ボートピープルはミャンマー沖合いのアンダマン海に沿って南下していくのであろう。地図でみると北緯10度がミャンマー領土の南端コートン町(旧名ビクトリア・ポイント)で、ここからタイ西岸の海岸線は始まる。そしてタイのリゾート地プーケット島を通り越して北緯6.5度辺りがマレーシアとの国境となる。この国境沖合いに浮かぶのが、今回ボートピープルが救助されたマレーシアのリゾート地ランカウィ島である。


このランカウィ島からほぼ西沖合い約500kmに、こんどはインドネシアのスマトラ島最北端の町バンダーアチェがある。ここでも今回ボートピープルが救助された。このインドネシアのスマトラ島は巨大な島で、細長いサツマイモ形状が南東に延びている。その長さは赤道を越え南緯5度まで達する。このスマトラ島とマレー半島に囲まれている水域が海の難所マラッカ海峡である。マレー半島最南端の先端部分に、ちっぽけなシンガポール島が取り付いている。緯度で示すと赤道直下の北緯1度に当たる。

この地形図から、マラッカ海峡を眺めると、赤道直下のシンガポール島からランカウィ島-バンダーアチェを横につないだ線までとなる。マラッカ海峡は長さ約800km、幅65-480m、水深は浅いところでは27mしかない。巨大船はここを避け、インドネシアのバリ島・ロンボク島間のロンボク海峡を通過せざるを得ない。ここなら50万トン級の巨大タンカーでも十分な水深を確保できる。



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03:ボートピープルはどこへ漂着?

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今回、この季節の潮流までは調査できなかったが、とにかく、バングラ・ミャンマー国境付近を出発点として南下すれば約5日ぐらいの航程で、バンダーアチェあるいはランカウィ島にまで到達することをニュースで学んだ。

彼らがロヒンジャーだとすれば、ミャンマー政府はバングラからの不法な経済難民として、市民カードは発給しない。難民ボートは第一関門のミャンマーはパスしてさらに南を目指す。というよりも、彼らの目的は虐待されるミャンマーからの脱出である。そこで第二関門のタイにボートは漂着する。タイ水域に近づいた難民ボートは片っ端からタイ王立海軍が沖合いまで曳航して、そこで置き去りにするのがタイ政府の方針だ。これでは、あまりにも非人道的だとのマスコミ論調を気にして、沖合いに置き去りにする際に、最近は食料と飲料水をボートに投げ込んでいるようだ。

多分、潮流の加減なのだろう。タイの海軍が沖合いに置き去りにしても、難民ボートはまたタイの領海内に戻ってくる。沿岸警備隊がさらに沖合いにと曳航する。そこはマレーシアの領海で、さらに沖合いはインドネシア海域となる。そこでミャンマー・タイムズの記者は、この招かざる客をピンポン球に見立てて、海上のピンポン・ゲームが三国間で始まったと冷やかしている。これら三カ国はそれぞれに自国海軍を出動させて、難民ボートが自国領海に入ると沖合いに押し戻す作戦を取っている。このピンポン合戦では何ひとつ解決されない。



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04:周辺諸国だけでなく、欧米でも問題化

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昨年2014年のアセアン首脳会議はミャンマーが主催国だった。今年2015年はマレーシアが持ち回りのホスト国である。アセアン10カ国の基本原則は、“内政不干渉”である。だが、今回の難民ボートを契機に、これを議題としてとりあげ、その発生源であるミャンマーを被告席に担ぎ出そうとの雲行きになってきた。

米国議会ではロビー活動が盛んだ。しかも、各団体は献金とともに強力な影響力を持っている。アジア地区を主体とする各人権団体もオバマ政権に圧力をかけ始めた。いったん緩和したミャンマーへの経済制裁を再度強化しなおせというのだ。ミャンマーを開放したのはヒラリー・クリントン元国務長官であり、オバマ大統領であった。これを座視するわけにも行かない。だが、これまでの経済制裁が有効的でなかったどころか、中国に漁夫の利をもたらしたと米国の経済界は反発する。そこで、オバマ政権もアジア諸国駐在のアメリカ大使とボートピープルを巡っての協議を再開したようだ。

まず、インドネシアの地方政府が態度を変えた。今、目の前の難民ボートだけは救助しようと。そしてマレーシアの政府も同様に、目の前に流れ着いたボートを受入れ、食料と飲料水を供給し、医療施設を提供した。だが、両政府ともに、これは人道的な緊急措置で、続々と漂着する今後の難民ボートは受け入れないと、むしろ警戒感を表明している。

タイ政府は、難民ボート問題を解決するため、5月29日にバンコクで国際会議を開催したいと周辺諸国へ呼びかけている。この問題の根源はミャンマーにありとするタイ・マレーシア・インドネシアが待ち構える中、果たしてミャンマー政府がこの会議に出席するかどうかがいま、注目の的となっている。

ミャンマー大統領府の広報担当官は、ミャンマー政府が認知するのは、歴史的にラカイン州に定住してきたベンガリ族のみで、彼らには市民カードが発行されてきた。市民カードを所有しないその他は現バングラからの違法経済難民である。その多くがタイ・マレーシアの人身売買業者の誘いでボートに乗り込む。責任はこれら悪徳人身売買業者を野放しにしてきた両国政府にあるとしている。

このボート危機を問題にし始めたのは米国だけでなく、欧州も同様だ。「これまでの経済制裁はまったく効果なく、非生産的であった」と、タイ・ベトナムに駐在した元英国大使のデレック・トンキンは語る。「ヨーロッパでは北アフリカからの大量のボート難民がいろんな問題を引起している。彼らはより豊かな生活を求めてヨーロッパにやってくる。だが、誰ひとりとして経済制裁など口にしない、むしろ経済援助などの飴玉でミャンマー政府に柔軟な態度を示せと迫ったほうがよいのでは」と、この老獪な国の老獪な外交官は語っている。



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05:麻薬煮に似た図式

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今、欧米マスコミはミャンマーを悪玉に仕立てようと標的にし始めたようだ。この図式は何かに似ている。そう、欧米人の大好きな麻薬の臭いがする。

清朝末期の高級官僚、黄爵滋と林則徐が“プーヤオ”と叫んだにもかかわらず、大英帝国は属領のインドで栽培した麻薬を、砲艦まで派遣して、無理矢理、中国人に吸引させた。インドの麻薬栽培の農業技術は、その後、アフガンからミャンマーにまで見事に開花している。そして、ブーメラン現象なのだろうか、大英帝国の子孫となるアメリカの若者たちが、これはオジーチャンの臭いがするといって、ニューヨークやロスの街角で、鼻をクンクン鳴らし、恍惚状態に陥っている。

西洋の偉いヒトは、これを世紀末の症状だと深刻な顔をする。東洋のおエライさんは、なぁ〜に、これは単に因果応報だよと動じない。これが麻薬に関するミャンマーの答えであり、ボートピープルも同じ歴史観で見ている。

大英帝国のキッチンを賄うために、ビルマを世界のライスボールに仕立て上げた。増産するには労働力が必要だ。賢明な大英帝国は、東洋の微妙な民族問題などまったく気にかけない。気にしないどころか、分割統治という巧妙な支配制度を持ち込み、自国領のインドから、入場制限もしないで、無制限に肌の色の違う労働力を持ち込んだ。ビルマにはビルマ族という大量の労働力が存在したのに。

それを、歴史的な昔の問題としてではなく、今のミャンマーの新たな問題としてマスコミは取上げている。若いレポーターたちがテインセイン大統領やスーチー党首にマイクを突きつけ詰問している。確か、日本のエライ首相だったと思うが、マスコミはもう少し勉強した上で質問しろと名言を吐いたが、まさにその通りである。

老獪な大英帝国は、第二次世界大戦終結を契機に、世界の表舞台から賢明にも引き下がった。そのスーパーパワーの権力を引継いだのが、ただ単に陽気な品格のない次男坊である。だから、麻薬にしても、ボートピープルにしても、大消費地または漂着地点での問題を大げさに叫びたて、問題をすりかえて、その原産地あるいは出発地点であるミャンマーが悪いと、結論を持ち込もうとしている。欧米の政治家も欧米のマスコミも、もう少し歴史を勉強してから、上品に質問したらどうだろうと、言いたい。



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06:では解決策をどうする?

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関係四カ国(ミャンマー・タイ・マレーシア・インドネシア)だけで、お前が悪いと、責任の押し付けをやっても埒は明かない。だが、関係四カ国が一堂に集まり、知恵を出し合うことは必要だろう。

だが、もともとは根の深い問題である。ミャンマーとしては、隣国のバングラを引っ張り込んでもよい。さらには、歴史的な元凶である英国を引き込むのも悪くない。老獪な解決策が提示されるかもしれない。

そして世界の調停役を陽気に自認する米国には当然ながら、参加してもらう。どれほどアホな次男坊かがみえてくるかもしれない。米国は、来年2016年が大統領選挙の年だ。そのトップランナーで、しかもミャンマー開国をこじ開けたそもそもの張本人、ヒラリー・クリントンにも、ぜひ参加願いたい。

この問題はミクロで見ると、ムスレムのロヒンジャーが問題となり、受入れ関係諸国もイスラム教国である。関係四カ国が密室でヒソヒソ話し合うよりも、今はやりの言葉、透明性のある会議場で堂々と意見を出し合ってほしい。ムスレムに対して、ミャンマー・タイ両国がどれほどの偏見を持っているのか、あるいは持っていないのか、そしてマレーシア・インドネシアがムスレム国としてどのような意見を展開するのか、非常に興味あるところである。

それに同じムスレム国のバングラが加わると、会議はもっとおもしろくなる。

それだけではない、スーパーパワーの遺産相続を見事に果たした英国・米国にも同席願いたい。厚みのある身勝手な意見が出てくるかもしれない。欧米には植民地の甘い汁を吸った同僚がたくさんいる、そこで欧米を含めた拡大会議でオープンな話し合いを、堂々と展開させたらどうだろう。そこからおもしろいアイデア・知恵が出てくるかもしれない。国際会議で狸ね入りが得意な日本は、出席してもしなくでも、どうでも構わない。

舌足らずなところであるが、紙数が尽きた。引き続き本件の追っかけは続けますで、本日はこれで、ご勘弁ください。


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