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<ミャンマーで今、何が?> Vol.148
2015.06.10

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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■ミステリアスなアセアン

 ・01:国境

 ・02:ジャングル捜査

 ・03:東南アジアの山椒大夫ビジネス?

 ・04:欧米の圧力

 ・05:再び密林国境地帯へのご招待

 ・06:タイの上級高官に逮捕状

 ・07:マナス中将とは?

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01:国境

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日本人には馴染みの薄い話だが、地球上には陸地で国境を接する国々が多数ある。
ミャンマーを含めたアセアン10カ国は変化に富んでいて、フィリピンは日本と同
じ島国である。インドネシアも同様に島国のようだが、ボルネオ島で東マレーシ
アと国境を接している。シンガポールは島国ともいえるし、対岸のマレーシア最
南端とはジョホール海峡を隔てて国境を接しているともいえる。

その陸地での国境だが、通常は河川や山脈などが、自然の国境線となり、河川は
タールウェグと呼ばれる河川の中央線、そして山脈は分水嶺をボーダーラインと
していることが多い。

ミャンマーは時計回りにバングラデッシュ、インド、中国のチベット自治区・雲
南省、ラオス、タイの五カ国と陸地で国境を接している。

こんどはマレー半島を南下していくと、ミャンマーの南にタイがあり、その南が
マレーシアである。それぞれの国境線は、日本では想像を絶する鬱蒼とした山中
のジャングルの中にある。いったん足を踏み入れると、昼なお薄暗く、太陽光線
も届かない、東西南北を知る手がかりもない、迷路である。日本語では熱帯雨林、
英語ではレイン・フォレスト。響きはロマンチックだが、いったんその密林に入
り込むと、脱出経路はまず見つからないジャングルである。

国家権力に追われる逃亡者には最適の避難場所かもしれない。だが、逆にサバイ
ブするには命がけの場所でもある。野生のイノシシ、トラ、毒ヘビ、そして象が
出没し、渡渉する河川や沼にはワニが潜み、殺人アリや吸血ヒル、それにモスキー
ト軍団が待ち構えている。マラリア、デング熱、アミーバ赤痢などが蔓延する瘴
癘の地でもある。トロピカル・フルーツを食いながら、ワイルドなデズニーラン
ドを満喫するなど、とんでもない話である。



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02:ジャングル捜査

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いまの気の利いた空軍や警察なら、哨戒機や捜索用ヘリコプターを所有している。
だが、空中からいくら捜索しても樹冠で覆われた樹海が延々と続くだけで、地上
のことは何ひとつ分からない。だから、あの世界遺産のアンコール・ワットもフ
ランス人博物学者のAムオーが1860年に、地上の段差が不思議な図形を密林に描
いている微妙な不自然さを発見するまで人知れずジャングルの密林に覆われてい
た。先端技術の人工衛星からの赤外線偵察でも、失踪したマレーシア航空機を発
見できないのは、やはり熱帯雨林のジャングルの凄さだと思う。

太陽が赤道を中心に北緯23度27分の北回帰線と南緯23度27分の南回帰線を行った
り来たりするわけだが、というのは真っ赤な嘘で、地球の自転公転がその角度で
太陽を仰ぎ見る仕組みになっている。その北回帰線と南回帰線の間が熱帯地方と
呼ばれ、ミャンマーもマンダレー北約160キロまでが熱帯圏に属する。


その人間がなかなか入り込めないジャングルにタイの警察が大量の人員を動員し
て、発掘作業を行った。そこで大量の墓穴が見付かった。

場所はタイ南部のソンクラ省サダオ地区のジャングルの中である。このぞっとす
る発掘地はマレーシアとの国境線からは数百メートルしか離れていない。浅く掘っ
た穴を藪竹で覆い、土をばらいまいただけの墓穴から、骸骨化した全部で26の遺
体を発掘した。そのうちの一体は女性で、その死因はまだ判明していない。

4月30日、人身売買ビジネスでタイが果たす中心的な役割が見えてきた。

25歳と35歳の生存男性は、病気に掛かり、食うものもなく、この収容キャンプに
数ヶ月間いたという。医師によれば、二人とも疥癬に掛かり、シラミがたかり、
栄養失調状態である。35歳の方は2ヶ月間高熱に悩まされ、自分の足で歩くこと
もできず、救助隊に背負われて山を下ったという。この二人は身元は判明してい
ないが、バングラ人あるいはミャンマー人と推定される。

タイ警察長官は、ここは強制収容所のようなもので、病人は死ぬにまかせ置いて
きぼりのところを発見され、ほんの数日前に遺棄された様子だと語った。救助発
掘隊によれば、埋葬されていない遺体もあったので、つい数日前に逃げ出した模
様だと語っている。

マレーシアとの国境地帯は悪名高き人身売買ルートの秘密基地が網の目のように
張り巡らされた十字路のようなもので、身内のものが身代金をたっぷりと支払う
まで、強制的にとどめおかれる施設となっている。

人権活動団体によれば、この収容所は近くの道路からでも、傾斜のきつい、滑り
やすい山中を40分間も登らねばならず、普通は人が近づかないところである。こ
ういう収容所がこの地区に何十とあるという。だが、この身代金を狙うビジネス
は逮捕される危険を上回る報酬を手に入れられるという。



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03:東南アジアの山椒大夫ビジネス?

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話がこんがらがってきた。話を原点に戻そう。

世界最貧国では日夜生産する廉価な労働力が国内から溢れ出している。国内には
職がない。そこで、業者が甘い言葉でささやく、あの地平線を、そして水平線を
越えれば、すぐにでも仕事はあるよと。隣の国はみんな金満国だ、単純作業でも
賃金はたっぷりもらえると。マレーシアやインドネシアなら、もっと良い。同じ
アラーを敬う人たちが貧乏人には親切にしてくれる。四、五日間食事と水を我慢
すれば、夢の国に到着する。一ヶ月間続くラマダンに比べれば簡単なものだ。ボー
ト代金と仕事の斡旋料で合計いくらだ。稼いだら家族に仕送りもできる。さあ、
さあ、早い者勝ちだ。乗ったー、乗ったー。

これがボート・ピープルの図式だと単純に理解しようと勘違いしていた。どうも
様子が違うようだ。

この人身売買ビジネスは、金持ちから金を巻き上げるのではなく、貧乏人から搾
り出すように金を巻き上げるメカニズムを開発した大掛かりな悪辣シンジケート
のようである。

世界最貧のムスレム国で、マラッカ海峡のマレーシア・インドネシアはイスラム
教徒が迫害されない夢の国というイメージをつくりあげる。そこには、言葉が通
じなくても、学校を卒業してなくても、単純作業で、稼げる仕事がいっぱいある。
だが、この仕事を手に入れるには若干の渡航費用、斡旋費用が必要だ。家族・親
戚から金を集めてくると良い。そんな借金はすぐに稼ぎ出して、家族に仕送りす
れば、あっという間に返済できる。数年間働いて、帰国すれば、大邸宅に住める
し、乗用車のオーナーだ。という甘言で、無知な連中から金を巻き上げ、ボート
に押し込む。これが第一段階。

こうして騙した安寿と厨子王を、若い女性はプロスティチュートとして売り飛ば
す、男性は低賃金の漁船員として売却する。同時に、安寿と厨子王の自宅には、
お前の娘・息子はどうも悪質なギャングに拘束されているようだ、これこれの身
代金で釈放してもらうよう交渉してあげるから、即刻金を用意しろ、との脅迫文
を届ける。文字が書ければ、娘・息子の自筆で苦境を訴えさせる手もある。これ
が馬鹿にならない稼ぎになる。この辺りが新たに見えてきた図式である。だが、
確証はない。



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04:欧米の圧力

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ひとつには、いまNGO組織の 人権団体は米国のみならず、欧州も含めて、何百、
いや、何千と存在する。そしてそれらが個々に攻撃的な声を上げる。さらに、マ
スコミという影響力の大きいジャーナリズム活動も盛んだ。これらが、それぞれ
にベンガル湾・マラッカ海峡関係諸国に文句をつける。統一された意見など、な
にひとつない。だが、それらが世界最大の調停国であるアメリカのオバマ大統領
に集約されていく。そしてオバマ大統領直属のあるいは間接的なエージェンシー
がその意向をプレッシャーに近い形で、関係各国のしかるべき官庁に伝える。

これは6月4日の記事だが、肩書きは米国国務省の人口、難民、移住担当補佐官と
称する女性が、記者会見で述べている。ミャンマー政府が救助したボートピープ
ルをどのように扱うか、米国はじっくりと監視していきたい。ボート上の無知な
人々が不当な取り扱いを受けないよう見守りたい。関係各国が正しい行いをする
よう、米国の持てる手段をすべて使って、圧力をかけたり、飴や鞭で指導してい
きたいと、かなり露骨な表現で述べている。

同様のプレッシャーは、“ボート危機”の当事国であるタイ、マレーシア、イン
ドネシアにも当然加えられている。それに従わなければ、欧米で歩調を合わせて
資金・技術・貿易・軍事援助を打ち切るとか、脅かす方法はいくらでもある。米
国にたてつけば大変なことになるのを各国政府はすべて承知している。

その圧力の中で、タイやマレーシアの司法・警察当局が動き始めた。そして、“
ボート危機”を解決する、あるいは人身売買ネットワークの撲滅を目指す、国際
会議やキャンペーンが大々的に行われるようになった。

そして待ったなしの状況に、マレーシアもインドネシアも、目の前の難民にだけ
は救助の手を差し伸べるとして、受入れた経緯がある。



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05:再び密林国境地帯へのご招待 

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タイとマレーシアの国境線、非常に大雑把に言えば北緯6度近辺だろうか、そこ
も熱帯雨林の密林で覆われている。人を寄せ付けないそのジャングルの中に、人
身売買の秘密基地らしきものが見付かった。こんどはタイ国内ではなく、国境線
を越えたすぐ鼻の先のマレーシア国内だ。

マレーシア警察は、人身売買業者が使用していたと思われる28ヶ所の収容所キャ
ンプと139個の埋葬墓穴を発見したと5月25日(月)に発表した。このキャンプは
何百人もを収容できる規模だという。この規模はタイ警察が5月はじめに発見し
たキャンプをはるかに凌ぐもので、これら139個の墓穴内に何人の遺体が埋葬さ
れているのか、まったく見当がつかないと語っている。

当初マレーシア政府は、人身売買への関与を否定していたが、このように大規模
なキャンプと墓穴の発見にショックを受け、戸惑っている模様だ。28ヶ所のキャ
ンプのうち、最大のものは300人と100人の収容規模で、残りは20人規模となって
いる。当初、タイがマレーシアへの人身売買ネットワークの中心と思われてきた
が、今回の発見で、犯罪規模はかなり大掛かりなもので、タイとマレーシアにそ
の基地は点在していることが浮き彫りにされてきた。

犯罪組織は、タイからはじまってマレーシアの関与と、捜査の手が伸びてきたの
で、その末端のバングラ・ミャンマー国境では、朽ちた漁船に押し込められた犠
牲者であるボート・ピープルを海上に遺棄して、逃亡するケースが多く、犠牲者
たちは海流の流れるままにいま海上で漂流している。そして国連の難民担当局で
も、約2500名のボート・ピープルが現在海上で死と向き合っていると推定してい
る。



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06:タイの上級高官に逮捕状

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6月4日朝、タイの上級軍事顧問のマナス・コンパン中将がバンコクの王立警察署
に出頭し、人身売買の容疑で逮捕された。身柄は即座にタイ南部のソンクラ省の
警察署に移送された。

最近、ミャンマー最南端のコートン向かい岸の、タイ・ラノン省の人身売買容疑
者宅を捜査したところ、2013年3月から2014年2月にかけてかなりの金額がマナス
中将の銀行口座に振り込まれた証拠書類が発見された。このため当局は、同中将
の事件への関与を確信し、逮捕状を請求していた。

副首相兼国防大臣によれば、マナス中将は事件当時、南部地区で国内安全作戦の
司令官を勤め、大佐の位であった。そして、職務に実に忠実で、国益に多大に貢
献したとしている。現在タイ警察は、人身売買に関与した多くの地方行政高官を
含む84名の容疑者を確認しているが、51名は拘束したが、残り33名はまだ逮捕で
きていない。

なお、マナス中将の逮捕に立ち会った警察交換は、同容疑者が保釈金を支払って
一時的な保釈を求めるかどうかは不明としている。そして、現在ミャンマーに逃
亡中のタイ人容疑者の引渡しをミャンマー当局に要請中であると語った。


07:マナス中将とは?

彼の逮捕は決して唐突なものではない。

2005年―2006年、ラノン沿岸省で、第25歩兵連隊付属の特別チームを率いる大佐
として勇名を馳せた。彼の任務は、タイ領海に忍び込む違法難民と、ミャンマー
のコートンにあるカジノへ出たり入ったりするタイ人の博徒たちに、目を光らせ
ることであった。この特別チームは特に手厳しいことで有名であった。そして、
2006年以降、マナス大佐に対するおかしなウワサが立ち上り始めた。

2007年10月、同容疑者はタイ南部3省の司令官に任命され、麻薬取引業者の自宅
を襲撃し、PVCパイプに詰められた三千万バーツの現金を発見した。この麻薬業
者は反政府分子との関連があるとされた。ところが、この発見した金額は実際は
七千万バーツであったことが明らかになった。

二本のPBCバイプに詰められた現金はマナスの監視のもとに紛失し、警察に提出
されたのは三千万バーツだけであった。マナスは調査を受けたが、結局は証拠不
十分で無罪放免となったが、
残り四千万バーツの行方はいまだもって謎のままだ。マナスは2年後に退職する
とのウワサがあったが、2013年にはソンクラの軍関係トップに上り詰めた。この
ポストは影響力が非常に強く、人からはソンクラのボスと恐れられる。だが、今
年4月に人身売買への関与が深いとしてその職を解かれ、先月末には、逮捕状の
発行が許可された。

この背景として、彼自身が影響力を持つ軍事裁判よりも、司法当局は民法による
裁判で裁定したいこと、そして証人への影響力、証拠隠滅の虞があるため、保釈
金による釈放は拒否された。
個人的にマナスを知る、軍同期の仲間などは、取り締まる立場にある本人が、こ
れまでに築き上げた名声を汚す、犯罪に直接手を下していたのは信じられないと、
衝撃が軍内部にも走った。

まだまだ話は藪の中だが、紙数が尽きた。中途半端だが、ここで失礼。

このあとの資料が集まり次第、続報を検討したい。




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