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<ミャンマーで今、何が?> Vol.157
2015.08.12

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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■老兵は死なず、ただ消え去るのみ・・

 ・01:デルタ地区が危険水域に

 ・02:「ミャンマーでいま、何が?」は・・

 ・03:副大統領(VP)二名が次期議会選に出馬

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01:デルタ地区が危険水域に

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イラワジのデルタ地区は、網の目のように水路が枝分かれしている。その水路を越える橋梁の数には限りがある。道路交通網が宿命的に未発達なのである。大雨が続くと、道路そのものが冠水し、物量の輸送が停滞する。四輪のトラックなどまったく役に立たない。町や村落が孤立してしまう。どうやって救援物資を届けたらよいのだ。

軍隊や警察隊が出動し、いくつかの民間航空機が提供され、空輸作戦で孤立した地域に、飲料水、コメ、食料、医薬品、ゴムボート、ライフジャケットなどを落としていく。インパール作戦時の連合軍のパラシュート作戦とまさに同じだ。だが、火を使うかまどが確保されなければ煮炊きも出来ず、米粒がすぐに役に立つとは限らない。おかず無しのコメだけで食事がのどを通るのだろうか。

そうなってくると日本のオムスビは偉大な知恵である。だが、この熱帯では日持ちが問題となる。オムスビを届けることが出来ても日持ちは一・二日だろう。たちどころに腐敗がはじまる。被災地という環境下で、衛生状態は最悪だ。子供たちのみならず大人たちまでが下痢などで悩まされる。環境衛生はますます悪化する。こわいのは、伝染病の蔓延だ。

これら被災地は、南北に長い海岸線を有するミャンマーのアキレス腱である。ベンガル湾でのモンスーン(台風)が発達すると、豪雨をともなう暴風雨が内陸奥地までアタックする。日本の普通の感覚では理解できない波状攻撃が次から次にやってくる。台風の目が通り過ぎ、これで台風一過と安心できないからだ。山間部では鉄砲水となり、山崩れが起こり、唯一の道路や橋がずたずたに寸断され、遠くに離れて散在する町や村落が孤立する。

見渡す限り濁流に覆い尽くされるが、飲料水は一滴もない。しかも、水位は上昇する一方だ。山間部だと、ボートなど一隻もない。外部からの援助がなければ、被災者自身は避難も出来ない。実り豊かな果実や、農作物もすべて水の中だ。水田の働き手であった水牛も流されていった。食料がない。自然は容赦なく時を刻む、太陽が沈めば、真っ暗な闇となる。小さな子供たちがひもじさで泣き喚く、身体を確保しあうだけで母親は何もできない。まんじりともせず夜明けを待つ。朝が来ても、若干体温が上昇するだけで、食料と飲料水がないのは変わりない。やせ細ったからだが消耗していく。

国連機関は、先週、ミャンマーは洪水と山崩れで、被災者の死亡が急上昇すると警告を出した。だったら、どうすればよいのだ。教えてほしい。そういう官僚的な冷たい数字に腹が立つ。

ミャンマー新政府は、そしてそれを支援する外国政府・企業は、これまで経済発展を最優先としてきた。今年の豪雨はそれに鉄槌を下すように、暴れまわっている。日本を含めて、経済発展を成し遂げた先進諸国は経済開発のツケがどのようなものであるか、充分経験し、そのノウハウが蓄積されているはずだ。だが、この国に限って自然環境への配慮はまったく無視されてきた。けいざい、ケイザイ、経済。軽罪どころか、重大な犯罪なのでは。人権は唱えるが、ひとびとに対する優しさがない。民主主義は唱えるが、山河に対する愛情がない。このまま、ただのミャンマーになってしまうのだろうか、戦後、日本がただの日本になってしまったたように。

テインセイン大統領・副大統領も救援物資を携え、被害の大きいラカイン州やカレン州などを慰問しているが焼け石に水の状況である。赤十字などの人道支援団体ももちろん動いているが、ミャンマーは日本の1.8倍という広大な面積だ。しかも小さな集落が、この広大な領土に散在しているのがミャンマーである。日本も災害大国である。どこかで大災害が起こる。だが、日本の特徴はその大災害がある地域に集中するクローズド型で、全国的な規模とはならない。それと対照的に、今回の洪水・山崩れ災害はオープン型で広大な全国あちこちで被害をもたらしている。

日本人感覚では、なかなか理解できないのが、これらの波状攻撃が6・7・8・9月の四ヶ月間連続して押しかけるのが、モンスーン雨季である。ヤンゴンの街中では、いま、若者たちが揃いのTシャツを着て募金箱を手に手に市内を練り歩き、渋滞で信号待ちの車があれば、路上に飛び出し声をかけている。



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02:「ミャンマーでいま、何が?」は・・

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2015年11月8日の国民総選挙、そしてそれによって国会議員が選出する2016年初の大統領選が大きな節目になるような気がする。
東西南北研究所の見方はこうである。テインセイン大統領以外の人物が登場すれば、ミャンマーの風向きがガラリと変わるという分析である。

大統領が交代すれば、新大統領はこの民主化は継続して推進すると宣言するはずだ。だが、テインセインの編み出した組織は残っても、そのトップをはじめとして、核となる部分には新大統領に忠誠を誓う人材が起用されると思われる。工場組織でいえば、これまでの熟練工がすべて退職して、素人の連中が要職につくということである。ミャンマーの歴史が繰り返してきた、ジョージ・オーウェルいうところの、ビッグ・ブラザーズの出現である。

だから、今年の総選挙はテインセインが継続するか否かが唯一のポイントであり、重大なのだが、下馬評は国家百年の計よりも、ただ単に票読みに走るだけである。この現象は米国の大統領選から学んだのだろうか。

誤解のないように明言すると、このメルマガの手法は、マスコミやジャーナリスト活動とはまったく趣をことにする。政治ネタを扱うのはミャンマー国内外のマスコミの仕事である。このメルマガは公表されたそれらの材料をもてあそんで、ミャンマーの今がどうなっているのか、どの方向に向かっているのかを単に分析しているにすぎない。

有難いことに、インターネットへの接続が自由となり、このヤンゴン下町にいるだけで、中国の新華社電、英国のロイター通信、米国のNYタイムズ、そしてMNA(ミャンマー通信社)などが配信する国際ニュースを簡単に入手できるようになった。そのミャンマーに関する情報を、ボーガレイゼイの朝市同様に鮮度と手ごたえを見極めて、選別し、拾っているだけである。

それらの英文ニュースをジグソーパズルに見立てて、ああでもないこうでもないと同色で集めてくっつけあううちに、神秘的なモナリザの微笑が見えることもあれば、逆に全体像が見えずに東西南北の機能が麻痺することもある。

だから、このメルマガの特徴といえば、受験勉強の英文解釈に挑戦しているようなものである。そして、気の毒なのは読者の皆さまである。正解なのか、不正解なのか、ハッキリしない勝手気まぐれな解釈を読まされているわけだから。
政治ネタを扱っても、決して政治情報を流しているわけではない。経済ネタを扱っても、同様に経済情報を流しているわけではない。世界の一流紙・通信社が、あるいは中国の代表通信社などがモノゴトをどういう風に見ているかを分析しているだけである。

分析の基本は、情報の蒐集からはじまる。それはガセネタを含めて、しょうもないと思われる情報にもダイアモンドが眠っているときがある。とにかく、それらを片っ端からデータとして分類する。この分類法がもっとも難しい。リンネの生物学分類法、デューイの図書閲覧十進分類法、立花隆、野口悠紀男など大家の手法を盗ませてもらい、使い勝手のよい自己流をつくりあげる。

その蒐集した分類ノートをアトランダムに読み耽るうちに、自分勝手な解釈が自然に浮かび上がってくる。

このシステムが機能するようになれば、このヤンゴンにいるだけで、医学の最先端分野でも、軍事関係でも、あるいはハリウッドのゴシップ記事でも、あるいは過当競争気味のレストラン狂騒でも、その仮題に集中することで、その状況把握ができ、あるいは戦略的経営方法などが見えてくる。

ヤンゴンの今年の雨季は、これでもか、これでもかと、頻繁に豪雨が南西から襲い、東北に通り過ぎて行く。長いこと愛用したカメラも作動しなくなってしまった。2年前に買い換えたラップトップ・コンピュータが今オカシクなりかけている。たぶん、高温・湿気・カビなどがいたずらをしているのだろう。それに輪を掛けて停電が頻発する。なんとかお約束の2015年末まで持ちこたえ。大統領選の最後までを見届け、皆さまにレポートしたいものである。



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03:副大統領(VP)二名が次期議会選に出馬

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連邦選挙委員会(UEC)はサイモーカウンVPは地元シャン州ラシオから出馬、ニャントゥンVP(元海軍最高司令官)はサガイン州カニ町区から出馬と、登録を受け付けた。

誤解のないようにいうと、これは11月8日の総選挙への出馬で、大統領職とは直接結びつかない。まずは最初のステップとして国会議員になることで、ここで落選すると“ただの人”となる。

大統領選挙への手続きを繰り返すと、総選挙で国会議員が選出される。そこで、大統領候補者を選出するのは、上院、下院、国軍の三者である。その三者がそれぞれに大統領候補を指名する。そして決選投票となる。

7月30日、テインセイン大統領は“日経アジアレビュー”のインタビューで明瞭に語っている。
「大統領職としての二期目を奉仕する強い意志はある。だが、これはすべて現在の国内事情にかかっており、国民がそれを望むかどうかにある。」

与党USDPの事務局長は、党としてはネイピード特別区ザブティリ町区に出馬する席は確保してある。だが、出馬するかどうかの決心は大統領自身にかかっていると、8月6日に語った。

ここで読み違えていけないのは、老獪なテインセイン大統領は、自分の口から大統領選に出馬するとは決して言わないことだ。彼の心境は「鳴くまで待とうホトトギス」である。それを国民は読み違えてはいけない。

大統領は2011年3月31日に新政府発足してからの急速と思えるほどの民主化、自由化、透明化を推進してきたとの自負がある。もちろん、急速すぎるがゆえに、そのほころびも突出し、デモなどで歯止めの利かないシュプレッヒコールもある。だが、このアクセルを緩めると、今の民主化は失速することになるだろう。その大きな関門が来年初めの大統領の交代である。これまで外堀を埋められてきた頑迷保守派の反動がありうる。もっと露骨に軍部のプレゼンスが表面化するかもしれない。そのターニングポイントが今度の大統領選である。

そのテインセイン大統領の天下分け目のメッセージを、マスコミと国民は読み違えている。大統領選への出馬は大統領自身が決めるものとして、愚かなマスコミは、失礼にも大統領にアナタは今度の大統領選に出馬しますかと、マイクを突きつける。もちろん大統領は口が裂けても大統領選への意欲は自分からは言い出さない。日経インタビューのあの要約記事だけで彼の意思は充分表現されつくされている。

笛吹けど踊り踊らずの語源は新約聖書マタイ伝11章である。欧米のマスコミの目も曇り、テインセインを元将軍として軍事政権時代の悪夢に結び付けようとし、過去四年間の実績を疑惑の目でしか評価しようとしない。

このヤンゴンではPC機器類の老化が激しい。うまくプロバイダーに発信できるか心配だが、ダメならダメで、マッカーサーの言葉を引用して「老兵は死なず、ただ消え去るのみ・・」で勘弁願いたい。



追伸:

少し引っかかったので、グレゴリー・ペック主演の「マッカーサー」のDVDで確認してみた。これは、マッカーサー元帥が1951年、連合国軍最高司令官をトルーマン大統領によって解任され、アメリカ議会での演説の言葉だ。マッカーサーの追憶は常にウエストポイントの士官学校へ戻っていく。まだ彼が若き士官候補生であったころ、兵舎でもっとも流行ったバラード(詩)が「Old soldiers never die, they just fade away・・」で、マッカーサー自身の言葉ではないことが確認された。



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