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<ミャンマーで今、何が?> Vol.177
2016.01.13

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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■ものの見方

 ・01: ものの見方について

 ・02:スーチー党首の意のままに進行するか?

 ・03:スーチーの基本理念は?

 ・04:経済発展など、クソ食らえ!!

 ・05:ダラー行きのフェリーが、日本人は無料

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01:ものの見方について

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「ものの見方について」(1950年)とは、日本では終戦後、広く読まれた笠信太郎の名著として知られる。学生時代に読み、内容はすっかり忘れてしまったが、三カ国の外交官を引き合いに出し、行動を起こす前にじっくり考える人、行動しながら考える人、行動を起こした後で考える人、という3タイプの人(国?)に分類して話がはじまったような気がする。

ここではその書名のみを拝借して、「ものの見方」に話を言及したい。

北朝鮮が水爆実験を行った。これはけしからんと、国連安保理に強硬に提訴し、国際社会から孤立させ、村八分にせよと意見を吐く国もある。

ビルマ(ミャンマー)に対しても、長期に禁輸を科し、国際社会から孤立させ、窮鼠を中国や北朝鮮に追い込んでしまった苦い経験が欧米の思想や戦略にはある。だが、再び北朝鮮を国際社会から孤立させよと叫んでいる。

もう少し歴史を遡ると、大日本帝国をABCD(米国・英国・中国・オランダ)で包囲し、地球上の資源を自分たちで占有し、資源無き国を枯渇・孤立化させる戦略をとり、結果的に大東亜戦争(太平洋戦争・第二次世界大戦)を引起してしまった苦い経験もある。

当時の国際連盟もそうであったが、現在の国際連合も、結局は国益という我(エゴ)の張り合いで、不信と恐怖が冷戦を引起し、賢明な調停役を放棄している。貴重な水と空気に包まれた唯一の星に生息させてもらっていながら、そのちっぽけな地球で縄張り争いを懲りずにやっている。

何度か取上げたが、ロヒンジャーというのは、ミャンマーだけの問題ではない。スーチーさんにマイクを突きつけて、解決できる問題ではない。同じ現象は地球の裏ッ側でも起きている。金満国が作り出した何百万人という大規模な“難民大移動”が地球上を彷徨しはじめた。しかも、それが年々急速に悪化している。

祖国を家族全員で捨てるという選択は、人類の生存にとり、危険信号ではないのだろうか。だが、この人類という厄介な代物は、絶滅危機種ではなく、逆に世界人口は70億から100億へ向かって増殖し続けている。

ノーベル経済学賞あるいはノーベル平和賞の受賞者でも、地球上から貧困・戦争を終結・撲滅させるという画期的な図式あるいは思想を提示できるワイズマンはまだ出ていない。21世紀を迎えて、人類は年々矮小化し、愚者になっているのだろうか。

世界の最先端を走るアメリカという国においては、優秀な若者たちが、ハーバードやスタンフォードという超一流大学を目指し、ビジネス・スクールで学び、ウォール街で経営者となり、デリバティブという錬金術で、リーマン・ショックを引起し、世界経済を崩壊させた。数字やパソコンの名人となっても、教養課程の哲学が無視されるならば、思想的なワイズマンを期待するのは無理かもしれない。

日本の得意分野であった物まねは、そのアメリカにフォローすれば間違い無しと、これまで後塵をありがたく拝してきた。ところが、最近は中国までが、日本人の名人芸であったコピーキャットを横取りし、日本を追い抜いてしまった。

アメリカに偉大な哲学者は生まれないというのは常識だが、かっては偉大な思想家の宝庫であった中国までもが、アメリカ・日本同様に落ちぶれてしまった。

そこで、東西南北研究所では、無理矢理、日米中とはまったく趣の異なるスーチーのミャンマーに期待したい。



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02:スーチー党首の意のままに進行するか?

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2015年11月8日の総選挙前の話である。軍事政権の与党USDPを日本の自民党に、そしてスーチー率いる野党NLDを日本の民主党になぞって解説してくれる多くの日本人に出会った。そして、スーチーには経験がないから、政権を任せるのは無理だね、とのダメ押しまであった。ヤンゴンにおける日本人の声であり、政府関係者の声で、日本の報道機関のご意見である。

昔はこういうご高説は、横丁のご隠居さんか、床屋談義に限られていた。だが最近は、他人の茶の間にまで上がり込み、立派な見識を披露してくれる。日本人も本当に偉くなったものだ。

今月一月末には、新議員が初登院し、マジョリティを抑えたNLDが指名する大統領候補が採択され、3月31日にはテインセイン大統領を引継ぐ新大統領が就任する。そしてその大統領職の上にスーチーが君臨する。

ある意味では、08年憲法改正問題を除いては、上院も下院も過半数を抑えたスーチー党首の意のままだ。憲法改正に関しては、25%を死守する軍部の一角を崩せるかどうかが、スーチー党首の腕の見せ所となる。

だが、賢明なスーチーは、新政府が正式に発足する4月1日までは、控えめな態度を押し通すものと推測する。詰まらぬ揚げ足を取られたり、NLD新議員の失言を避けるためである。



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03:スーチーの基本理念は?

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ほとんどの外国人は、アメリカの大統領選挙と比較したり、自国の総選挙と比較して、ミャンマーを見ているが、スーチーには1990年の苦い経験がある。

自分は収監されていたが、NLDが総選挙に大勝利するという奇跡を起こした。そして大量の党員が監獄にぶち込まれ、生死を賭けた迫害と闘い、ありとあらゆる嫌がらせを受けた。スーチーが西洋人とセックスしているポルノまがいのビラまで配られた。すべては軍事政権が準備した品性のない選挙運動である。挙句の果てに、政権移譲は行われず、雪崩現象を起こした大勝利ははかない夢と消えた。だが、国民の大半が軍事政権を嫌い、スーチーを支持した事実は確認できた。

日本にしても中国にしても、軍事政権が優勢なうちは、軍事政権に肩入れし、野党NLDが過半数を取ったとなると、見境もなく猫なで声でスーチーに言い寄る。こういう点が、欧米政権のみならず、欧米の報道機関からバカにされるか、あるいは見くびられる切っ掛けを与えることになる。欧米もダブルスタンダードで両者に保険を賭けているが、その点の老獪さは筋金入りである。

だから、日本の常識でミャンマーの総選挙を語ることに無理がある。むしろ、葦の髄から世界を見ようとする日本人の「ものの見方」に問題がありそうである。

総選挙前から、海外の特派員に、総選挙で軍部による不正が入りこむ恐れがないか、注意を喚起していたのはスーチー党首である。米国の元大統領たちまで、ヤンゴンに足を伸ばし、公正な選挙をテインセイン政権に要求している。海外ネットワークを活用できるスーチーならではの深謀遠慮である。

勝利を確認すると、テインセイン大統領、ミンアウンライン三軍最高司令官、シュエマン下院議長との単独会見を要求し、彼らに決定権がないことを判断すると、憲法上まったく無冠の雲上人まで引っ張り出して決着をつけている。ちょっと前までは、三者ともに、雲上人は政治の世界から引退し、一切関与していないと断言していたので、その発言はウソだったことが証明された。

だが、スーチーはそれらを徹底的にひっくり返して、後ろで操っていたの、やはり雲上人であったと天下に知らしめたのである。これは明らかにスーチーの意に沿ったシナリオであった。これでも、彼女を未経験と言い張るのであろうか。当研究所ではスーチーのしたたかな実力と見ている。

テインセイン大統領が、半期の5年間で「自分のエネルギーは燃焼しつくした」とでも、かっこ良いことを言って辞任していたら、ノーベル平和賞の資格は十分にあったと、今でも判断している。

しかし、2015年8月13日の与党USDP内部のクーデターでシュエマン党首を追放し、自分が党首に返り咲いたことで、そして今回のタンシュエ・スーチー会談で、大統領といえどもテインセインは、雲上人の操り人形であったことが露呈してしまった。恐ろしいことに、この国は憲法上何一つ権限のなくなった一人の男にこれまでも支配されていたことになる。スーチーがその著書「The Freedom from Fear 」で明らかにしていたミャンマーの恐怖政治である。

彼女の凄さは、その読書量の多さである。これは、多分父親のアウンサン将軍譲りかもしれない。昨今のG20とかの首脳会議に出席するようなレベルの政治家をはるかに凌いでいる。そして、無慈悲な軍部に対して、マハトマ・ガンジーの非暴力主義を徹底して貫いてきた。後ろ髪をいつも花で飾った細身の優雅なレディと彼女を見下していたら、大きな勘違いである。彼女はサッチャー以上の辛辣なアイアン・レディである。

だから、一歩一歩、注意深く、タンシュエにまで近づいていった。そして極秘会談を実現した。
これからの新政権の戦略は、彼女の読書遍歴に重要なヒントが隠されているような気がする。資料が集まるかどうか不明だが、3月31日までは、そこに集中していきたい。



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04:経済発展など、クソ食らえ!!

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テインセイン政権は、この国の経済発展を最優先に設定し、海外援助、海外からの投資を、呼びかけ、これまでは成功してきた感がある。それに引き寄せられた海外の首脳、政治家、官僚、ビジネスマンが、そして観光客までが、いま大勢ミャンマーに押寄せている。

当然、これらの期待がスーチー個人に押寄せてくる。NLD新政権になれば、テインセイン政権以上に経済自由化の速度は速まるとばかりに、プレッシャーを掛けてくる。スーチーがそれほどのヤワとは思えない。そして、外国勢力の要求に簡単に屈服するとも思えない。

そこがこれからの見所である。

東西南北研究所の、見方は、果たして、経済発展が本当にこの国にふさわしいのであろうかという単純な疑問である。それはミャンマーの人たちと接するうちに、彼らの声を聞くうちに、思い至った「ものの見方」である。

ある外国の超一流銀行のかなり上の地位を、最近、自分の意志で辞職したミャンマー人を知っている。ちょっとやそっとの能力で得られるポジションではない。推測だが、効率ばかりを追及して、個人の幸福、ひいては人生の幸せを会社のために犠牲にするという、外国企業の方針に、ミャンマーで生まれ育ったこの優秀な男の本能が危険信号を点したのではないだろうか。

これは先輩の受け売りだが、欧米人の中でも、「スモール・ イズ・ビューティフル」を書いたE・F・シューマッハーは1949年11月ビルマ大統領の経済顧問を務め、仏教経済学を研究した。

どの国の誰もが口にする経済発展というものが、それほど本当に重要なのだろうか、経済発展なくして幸せな生活は望めないものだろうか。それもいまの経済発展は、規制緩和、自由化の方向へと導いている。それで崩壊したのが、リーマンブラザーズで、ウォール街で、世界経済ではなかったのか?

これらの哲学無き、海外のプレッシャーが、海外標準に無理矢理押し込め、ミャンマーをただの普通の国にするのであれば、ミャンマーの人たちは本当に幸せなのだろうか。



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05:ダラー行きのフェリーが、日本人は無料

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何人かの日本の友人から、広島の中古路面電車が、ヤンゴンの海岸通に登場したとのメールをもらった。1月11日付GNLM紙第一面、そして同日付MT紙にも大きな写真入で掲載されているので、散歩がてらに出かけてみた。

どうも方向が間違っていたらしく路面電車にぶち当たらない。パンソダン桟橋の近くで、日本語の達者なガイドの女の子から、ダラーへ渡るフェリーが日本人は“無料”だと聞いた。前に往復4ドルで何度か利用したことがある。本当かいなと疑いの質問をすると、切符売場まで引っ張っていかれ、職員から日本人だったら無料だといわれた。乗船名簿に個人名と国籍を登録させられた。

このフェリー・チェリー号は日本からの寄贈なので“日本人は無料”だという。ケチな了見で無料ならと、ダラーで下船せずに往復の短い船旅を楽しんできた。

だが、川風を受けながら考え込んでしまった。

誰が、このような差別を考えたのだろう。外国人が4ドル徴収されている中で、日本人だけ無料でタダ乗りとは。

日本国がこのヤンゴン川のフェリーを寄贈した。その見返りとして日本人だけが特権を享受して全員無料。見返りのある寄贈とは賄賂の始まりと見做されないのだろうか。これは外国からの批難の対象にならないのだろうか。その場に居合わせた外国人の観光客は特権を享受する日本人にどういう感慨を持つことだろう。

この差別待遇が日本当局のイニシャティブで設定されていないことを望みたい。ワタシは、むしろ、これは撤廃されるべきだと思う。賢明な読者はいかがお考えだろう。在ヤンゴンの日本大使館は当然この事実を知っていると思うが、どのように判断しているのだろう。

日本のマネが大好きな中国当局が同様の要求をし始めたら、ミャンマーにおける公共ビジネスの悪習慣は日本人がパイオニアだったと、世界の物笑いになることだろう。

まさか、海岸通の路面電車が、日本人は無料ということにはならないことを願いたい。心配なのはこれも日本がらみのビジネスである。

その点、ミャンマー人のお布施には見返りを期待しない、潔さがある。スーチーは自分を亡き者にしようとしたタンシュエを許すという。恨みは抱いていないという。

父親アウンサン将軍暗殺の黒幕といわれたウ・ソウの孫娘の結婚式にスーチーは王家の花といわれる高価な“タジンバン”を送り届けたといわれている。同じアジア人でも中国や韓国とはメンタリティがまったく異なる。


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