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<ミャンマーで今、何が?> Vol.188
2016.04.01

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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■新大統領就任宣誓式

 ・01:宣誓式のテレビ実況中継

 ・02:停電事件

 ・03:式次第

 ・04:軍事政権の悪行

 ・05:老獪な英国

 ・06:ミャンマーの新年を迎えご挨拶

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01:宣誓式のテレビ実況中継

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ティンチョウ新大統領、ミエンスエ副大統領、ヘンリー・バン・ティオ第2副大統領の宣誓式が3月30日午前10時からネイピードの議会でとりおこなわれた。

無駄口を叩かない、むしろ控えめな性格の新大統領の履歴は、ミャンマー国民だけでなく、NLD党員の中ですら、あまり知られていない。それだけに世界のメディアはこの新大統領就任宣誓式を注目していた。

外国メディアだけでなく、国内メディアも、そしてミャンマーの大半の国民も、午前10時からはじまる国会からのテレビ中継を異常な関心を持って待機していた。



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02:停電事件

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ところが当日、ヤンゴン下街にある東西南北研究所の電気が午前7時に停電となった。8時を過ぎても回復しない。念のために、近所を散歩して廻った。交通信号も消えている。道路に備え付けた印刷所の発電機が騒音を撒き散らしている。悪い予感が走った。隣の町区も停電だ。9時に帰宅して、ヤンゴンの他の町区に住む友人たちに電話を入れてみた。予感が当たった。彼らの地区もすべて停電だった。

議会で新大統領の宣誓式が終ると、大統領府で新旧大統領の引継ぎ式の予定だ。それまでは、旧政権の持ち時間で、新政権は何一つ手を出せない。だから、この停電も最後の悪あがきかもしれない。

午前10時を過ぎても、ミャンマー全国が停電ということもありうる。ミャンマー国民に新大統領の顔見世興行を見せないという、常套手段は軍事政権ならありうる。ネイピードはこれまでも不夜城を誇ってきた。だから、まさか現地で、停電ということはあるまい。だが、腐りきった軍人魂であれば、テレビの全国中継を阻止することはありうる。スーチーへの嫌がらせである。不安が募る。

妙案が出てきた。発電機を備えた友人の会社でのテレビ鑑賞会だ。刻々と午前10時は迫っている。その会社でスタンバイしていると、町内の電気が回復したと連絡が入った。この停電事件でイライラした国民はミャンマー全国で大勢いたはずだ。翌日の新聞記事を斜め読みしてみたが、この小事件についての記事はどこにも見当たらない。



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03:式次第

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宣誓式は、新大統領が両脇に副大統領を従えて、マーンウィンカインタン上院議長のリードに従い、三人は「常にミャンマー国家に忠誠を誓い、先頭に立ちミャンマー連邦の統一を護り、永遠なる主権の保持に心血を注ぐ」と声をそろえて宣誓の第一行を読み上げた。

友人の事務所でも、電圧が低下して、時折、画面が真っ暗となる。慌ててスタッフが発電機・変電器具を点検してくれる。テレビ受像機が再生すると、リモコンで中継チャネルをまさぐる。日本では経験しないことなので、その中断時間がもどかしい。

続いて、新大統領が指名した18名の閣僚、9名の憲法裁判所判事、5名の連邦選挙委員会メンバーが一団となって、一段高い、議長席に向かって声をそろえて、宣誓式を行った。スーチーがテレビの真ん中に映っている。

この18名の新閣僚の内訳はNLD党から6名、USDP党から2名、軍部から3名、残り7名は議員資格のない専門家で成り立っている。軍事政権側ともバランスをとる配慮がなされている。

続いて待望の大統領就任演説が始まる。議場の一番前の席にはブルーの鮮やかなドレスに身を包んだ女性が背筋を伸ばして座っている。テレビ画面は時折、議場全体を映すが、テレビ鑑賞をしている民衆の目は常にブルーのドレスの女性を追い求める。議場内で、意固地の制服組を除いて、やせ細ったこの女性こそが本日の本来の主人公だと知っているからだ。

大統領の演説は細かい説明は抜きで、「新政府は次の政策を実行していく。全国的な和解、国内の平和、連邦国家としての憲法を追求し、国民の大半の生活基準を改善していく」と語った。それは時間にして、3分にも満たない短い演説だった。荘厳な議会でのセレモニーのあと、舞台は大統領府に移る。

大広間の両側の壁に沿って設けた椅子は、三々五々入場し、埋まっていく。どうも旧政権の閣僚と、新閣僚が真ん中にぽっかり空いた空間を挟んで対峙しているようだ。新閣僚側には、スーチーの顔も見える。隣にチン族の民族衣装を着たヘンリー・バン・ティオ副大統領の顔も見える。だが、落ち着かない様子でスーチーに小声で話しかける。少し離れて、ミエンスエ上級副大統領がぽつねんと座っている。旧閣僚側には、もうお馴染みとなった細長い顔と丸顔の副大統領二名も見える。だが、彼らの寿命もあと数分間である。

無為な長い時間が過ぎたようだが、実際はそれほどではなかったかもしれない。おなじみテインセイン大統領の登場だ。新閣僚側の主要メンバーと握手していく。スーチーはニコリともせず厳しい顔つきで対応する。

大広間の上座中央に新・旧大統領が立ち並ぶ。テインセインは白色、ティンチョウは柿色のジャケット。大柄のティンチョウに比較すると、テインセインはこんなに小さかったのかと再認識する。そして去りゆく旧大統領から、新たに登場した新大統領に大統領のシンボル二つが手交された。大統領認定書とたすきのような肩章とのことである。そしてお決まりの握手と記念撮影。正式な儀式はそれだけであった。

だが、テレビカメラはダラダラと大広間を退場していくVIPたちの様子を映している。

そこでとらえたのが、三人の制服組みがスーチーの前に進み出て、握手をしている様子だ。もちろん声は聞こえない。だが、明らかにこの4人をカメラは捕らえている。これまで厳しい顔つきだったスーチーの顔がほころび、首をチョット横にかしげて、最大のお愛想を振りまいている。二言・三言ではなく、もう少し長い会話のように見えた。外国の報道陣が流した記事を片っ端からチェックしていったら、この背中と横顔しか見えない制服組は軍部が指名した国防省、内務省、国境省という要職を占める3大臣であった。それぞれに大将の要となる“中将の位”である。

このフォー(4)・ショットはスーチーが長い闘いの末に、どれほど老練な政治家に脱皮していったかの、明白な証拠ビデオである。

そして一緒にテレビ鑑賞していた日本の友人と冗談を言い合った。「今日自宅に飛んで帰って、奥さんや子供たちに、お父さんはナー、この右手でドー・スーと握手したんだゾーと得意になって語るのでは」と、友人は冷静に相槌を打った。「多分、三日間は手を洗わないでしょうな」と。

スーチーのカリスマ効果はこのあたりから、「アリの一穴」となりうるかもしれない。軍部の堅固な堤防といっても、どこかに手抜かりはあるはずだ。お釈迦サマが言っているではないか。何事も永遠には続かないと。三軍の最高司令官殿!決して油断めされるな。

この日のテレビ中継で、スーチーは声をそろえた宣誓以外、何一つ発言しなかった。だが、心底この忠実な大統領を牛耳っているのは、この毅然としたエレガントなレディーであることをオバマ大統領をはじめとしてテレビを見た誰でもが改めて思い知らされたはずだ。



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04:軍事政権の悪行

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正式に新政府が始動するのは、本日4月1日(金)からである。だが、大敗北を喫した昨年11月8日の総選挙以来、旧軍事政権は火事場泥棒のように振舞ってきた。国家の品格などどこにもない。

選挙で当選した新議員が登場し、旧議員が退場すると、テインセイン大統領府の広報担当大臣は、今後旧議員には何ら説明責任はないと発表した。それでもって、旧政権は3月31日までは権力を行使するという。天下の正論などどこにもない。

その一例を引くと、3月25日のミャンマー投資委員会(MIC)は48件の投資案件を認可した。2015年1月以降、MICが認可した件数は平均10件で、一度に20件を超えた委員会はなかった。このMICは大統領府に直接、応答する機関で、巨大なプロジェクトそして案件はすべてここが一手に管理する。

ミャンマーで巨大なプロジェクトの認可には巨額の金が動く、というのは常識である。強大な権力を持つ新大統領が、スーチーの大統領就任を目指す憲法改正だけでなく、旧軍事政権の透明性無き悪行をひとつひとつ天下に知らしめていけば、これも軍部の強固な堤防を崩す一穴になりうる。

大統領就任式典の間、常に厳しい顔つきだったスーチーの頭の中では、どのような戦略が渦巻いていたのであろう。英国やインド、そして米国から学び取った「老獪学」をスーチーは、最後の最後まで利権にしがみつこうとする腐った軍人魂に、どう適用していくのであろう。楽しみである。



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05:老獪な英国

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「今日のこの日まで、どれほど多くの命が犠牲となってきたことか」ある民族代表の言葉である。この国の歴史を知るものにとって、実に重みのある言葉である。

1962年にクーデターで軍事政権を敷いたネーウィンにすべての責任はあるが、欧米の論調は、中国の影響とは別に、ネーウィンと親しかった軍関係者を通じて、日本政府は軍事政権を側面から支援してきたと、批難してきた。そこのところで、日本の政府関係者が誤った広報または対応をすると、今度は中韓だけでなく、欧米を相手に日本外交は苦しい立場に追い込まれるだろう。

一方で当の英国は、アウンサン将軍を暗殺したのは、ウィンストン・チャーチルをはじめとした英国の強硬派であったと暗示するようなテレビ番組をBBCが製作放送している。詳しくは「アウンサン物語2014」または2015版を参照いただきたい。グーグル検索で簡単に見つかるはずだ。



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06:ミャンマーの新年を迎えご挨拶

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このメルマガのプロバイダーである最高責任者が、ヤンゴンの東西南北研究所を訪ねてくれた。今後のメルマガの方針について話し合うためである。これまでほぼ4年間にわたって、何一つ横槍を入れずに、オリジナル原稿のまま掲載してくれた。当研究所としては、これほどありがたいプロバイダーはいない。

これまで支えてくれた読者の皆さまを含めて、感謝の気持ちで一杯である。厚く熱く御礼申し上げます。

「ミャンマーで今、何が?」のタイトルどおり、このメルマガはミャンマーの“現在史”を記録してきたつもりである。しかも、画一的な日本のマスコミは無視して、バラエティーに富んだ欧米の一流紙を読み比べて、ミャンマーの“現在史”を構成してきた。

そのミャンマー劇場も本日4月1日から主役を改め、役者が総入れ替えする。これからの一年間はどのような演題になるのか、まったく想像がつかない。すべては「今、何が?」次第である。

今後はヤンゴンを離れ、WiFiの届かない地方へ2−3週間遠出をするかもしれない。日本に一時帰国するかもしれない。太っ腹の最高責任者は、週一回の発行枠を取っ払って、不定期で発行すればよいではありませんかと、こちらの要望を100%飲んでくれた。

次回からは毎週水曜日発行に囚われずに、自由に出稿させてもらうことにした。だが、時には週二回の発行もありうるかもしれない。引き続き、ご愛読いただけるならば、執筆者としてこれほどうれしいことはありません。

街中は、54年間自由を奪われてきた民衆たちの、心からの水祭り準備で大忙しである。今朝一番にもらったメッセージは“ハッピー・ニュー・イヤー”であった。ミャンマー人だけでなく、日本人も、良き新年をお楽しみください。

東西南北研究所・所長敬白





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