******************************

<ミャンマーで今、何が?> Vol.194
2016.05.16

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

******************************

━━━━━━━━━━━━━━━━━ MENU ━━━━━━━━━━━━━━━

■奇幻森林

 ・01:煉獄の季節

 ・02:「奇幻森林」をご存知だろうか?

 ・03:1000人のプロがたった一本の作品を作り出す

 ・04:あらすじ

 ・05:ミャンマーこそ、東西文化の交差点

 ・06:次回メルマガは雨が降ったら・・・

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



======================================

01:煉獄の季節

======================================


とにかく暑い!いや熱い!!一部地区では、45度、いや48度を記録したとの、ウワサも流れてくる。ヤンゴンの日中、水銀柱は確実に40度を越えている。特に、午後1時から3時にかけて、太陽は照り返しで白いシャツが殺人光線となる。まぶしくて目も開けられない。

仕事さえなければ、外出せず、自宅で静かに息を潜めているのが、この国での作法で、掟である。それでも、熱風がまとわりついてくる。静かに横になっていると、どこからか風たちぬで、汗ばんだ体が一瞬、心地よい。特許登録はしていないが、東西南北研究所の「エネルギー消耗防止の法則」である。

農村地帯の生活は、エアコンはもちろん、冷蔵庫など、夢のまた夢である。仮に、それらを入手しても、慢性的な停電で、文明の利器はまったく役に立たない。そしてほとんどの人たちが無職である。だから、レインツリーの下で、あるいはベンガリ・アーモンドの樹の下で、無心に昼寝をむさぼるのが、伝統的なミャンマー人の生活習慣である。

それを日米欧の先進国が、あるいはビジネスマンという頭のおかしい人種が、この国に侵略し、ミャンマー人は怠け者だと、ほざく。冗談じゃない。ミャンマーはビジネスのフロンティアではなく、この時季、人類が生存できるかどうかを試される煉獄なのである。



======================================

02:「奇幻森林」をご存知だろうか?

======================================


原作者は魯徳亜徳・吉普林。北米では2016年4月15日に封切られたばかりの話題のアニメーション映画である。驚くなかれ、ヤンゴンでは半月も経たぬうちに路上で入手できる。中国製の海賊版CDである。

今、日本の政治家もビジネスマンも肝心要のところで、誤解している。それはミャンマー事情に信じられないほど疎いということである。それだけではない。海外事情に無知でもある。ミャンマーから学ぶことが、山ほどもありながら、失敗した日本のモデルケースをこの国に押し付けようとしている。

この映画の公開は今年8月11日だと、日本の友人は伝えてきた。この情報化の時代に、この遅れは絶望的なほど大きい。ミャンマーは本場アメリカに遅れること、わずかに2週間である。日本は4ヶ月間。ミャンマーからは3ヶ月間も引き離されている。日本は本当に大丈夫なのだろうか。

中国嫌いの方は、字幕スーパーを無効とすればよい。そうすれば、NYのあるいはロスの劇場で見るのと同じく、字幕無しで、本場ものの英語を耳で鑑賞できる。それがディズニー・アニメ映画「ジャングル・ブック」である。原作者はお馴染みラドヤード・キプリングである。

吉普林、失礼!キプリングについて復習したければ、このメルマガのバックナンバーNo.84「キプリングからオーウェルまで」をご参照願いたい。 



======================================

03:1000人のプロがたった一本の作品を作り出す

======================================


キプリングがアメリカを泥棒呼ばわりしたことはその中で書いた。そのアメリカがいまFBIを総動員して世界の海賊出版を取り締まるなど茶番劇としか思えない。

主役の少年モーグリと黒豹のバギーラがジャングルの大木で休息している。そこへ、なまけものの大熊バルーが腰をおろし仲間に加わる。反動で大枝が大きく揺れ動く。その実写が画面上で固定され、素描スケッチに変化していく。そこが映画の“ジ・エンド”で、洒落たアニメのお遊びと軽快なジャズのスウィングを背景に、クレディット・タイトルが延々と10分近くも流れる。数えてはいないが、ざっと1000人のプロフェッショナルがひとつの作品を精緻に作り上げている。

劇場であれば、帰り支度をして観客が出口に向かうところだ。だが、東西南北研究所は、いつものことながら、じっくりとこのクレディット・タイトルに魅入られてしまう。10分間の間、今回も得るものがたっぷりとあった。

この映画では生れ落ちてからすぐに狼に育てられた人間のモーグリ少年のみが実写で、あとの動物たちはすべてコンピュータ・グラフィックによる映像だ。だから、担当はカメラと音響のプロだけではない。アニメとはいえ、筋肉の躍動感といい、息遣いといい、多くの動物が本物そっくりの動きをする。

主役のモーグリ少年に抜擢されたのは、米国・英国・NZ・カナダから何千人もの少年をオーディションした結果、ハートとユーモアがあり、愛くるしいニール・セシという名前の新人が発掘された。テコンドーをやっていたというだけあって、運動能力は抜群だ。そして徹底的な特訓が始まった。

インドの奥深い密林の動物たちが総出演するが、その声を務める俳優たちが今が旬の豪華絢爛だ。



======================================

04:あらすじ

======================================


中国の海賊版なので、わずらわしい中国語の字幕は消して、英語で勝負しよう。ヒアリングだけが頼りだ。これも正式には英語でリスニング能力という。繰り返し見るうちに、アナタも英語の達人になれる。達人になりたければ、中国製海賊版に限る。ワタシは中国には遣隋使の時代から、今日まで心底感謝している。

まず聞き分けてほしいのは“cub=カブ”と“pack=パック”という2つの単語だ。頻繁に登場する。前者は“動物の子供”を意味し、後者は狼などの“集団”を指す。

モーグリ少年はa wolf cub=狼の子供として育てられるが、本当はman cub=人間の子供である。インドの奥深いジャングルの中で黒豹のバギーラに拾われ、子供を産んだばかりのインド狼の母親ラクシャに預けられ、狼の子供として育てられる。この狼集団のリーダーは気高く信頼感のあるアキーラである。つねに一段高い岩や丘の上から、一団を統率する。

黒豹バギーラの声の配役は2002年にバッキンガム宮殿でイギリス映画に貢献したとしてエリザベス女王二世からナイトの爵位を授けられ、いまでは“サー”の称号を持つベン・ギングスレーだ。お忘れならメルマガのバックナンバーNo.110で映画「ガンジー」を参照願いたい。この偉大な魂を見事に演じたのがベン・キングスレーだ。

母狼ラクシャの声を演じるのがケニア人のルピータ・ニョンゴ(2013年の“12YEARS A SLAVE”でアカデミー女優助演賞)だ。

黒豹バギーラはモーグリに狼としての習性と敏捷性を身につけさせようとする。モーグリは必死についていくが、どうしても狼の子供たちから遅れてしまう。

話は変わるが、ジャングルにはジャングルの掟がある。乾季が来ると、水飲み場は「Peace Rock=平和な岩」しかない。ここでは、弱肉強食の大型野獣も弱小動物を襲わないという停戦協定が守られている。そして、両者ともに平和裡に水場を共有する。

アナタが本気でミャンマーに取り組んでいるのならば、この場面では少数民族の反政府勢力と中央政府軍の平和協定に想いを馳せてほしい。テインセインの努力は失敗した。はたしてスーチーは?

話を映画に戻そう。このピース・ロックに人喰いベンガル虎のシーア・カーンが手傷を負い戻ってくる。そして、大勢の動物たちの中に、人間の匂いを嗅ぎ分ける。母親のラクシャは自分の後ろに隠れろとモーグルに伝える。乾季の終わりには、停戦協定は終了し、そのときモーグルを殺すとシーア・カーンは警告を発して不気味に立ち去る。

モーグリは一団の安全を守るために、自ずからジャングルを去る決心をする。黒豹バギーラは同意し、ジャングルの外れ、すなわち人間界の村が見えるところまで、モーグリを案内する。

ベンガル虎のシーア・カーンは途中で待ち伏せし、バギーラに大傷を負わせる。だが、モーグリは必死に駆けて駆けて、なんとか逃げおおせた。その後、モーグリはニシキヘビの大蛇カーと出会う。このカーの声を担当するのが、いま世界でもっともセクシーな女優とされるスカーレット・ヨハンセンである。

監督のジョン・ファヴロは女性の出番が少ないとして、このニシキヘビをオンナに変えてスカーレット・ヨハンセンを起用した。彼女が低く唄う“Trust In Me”の声は虜にされそうなセクシーさだ。

実際、モーグリはニシキヘビの魔力に惹き込まれ、その瞳の中に、自分の父親がシーア・カーンの襲撃を受け、モーグリを守るために致命傷を負う幻影を見る。同時に、モーグリは“Red Flower=赤い花”の破壊的なパワーもその瞳の中で警告される。

この“Red Flower=赤い花”は象徴的なキーワードなのでぜひ覚えておいてほしい。

幻覚状態のモーグリを大蛇カーが飲み込もうとした瞬間、大熊バルーが突然現れ、モーグリは命拾いをする。

隠されていた知恵がどこから生まれたのか、モーグリは石斧と蔦ロープを使いこなすようになる。狼にない思考回路をモーグリが手に入れた象徴的な場面だ。そして、バルーに懇願され、その道具を使い、絶壁に巣くった巨大な蜂の巣から大好物の蜂蜜を採ってやる。バギーラとバルーは、その後再会するが、ふたりの間では、モーグリが道具という人間のトリックを使用することで口論が起きる。

そしてある夜、出会った象の軍団は、小象が溝から抜け出せなく困っていた。だが、モーグリはこれを蔦のロープを使用して救ってあげる。バギーラとバルーは感心する。

一方、モーグリを捜し求める人食い虎シーア・カーンは狼のリーダーであるアキーラを殺し、ジャングル中をさ迷い歩いていた。モーグリを救うため、バギーラとバルーは少年を人間たちが住む部落近くまで送り届けることで合意する。

ところが、途中でモーグリは突然チンパンジーの集団に誘拐され、サル軍団の王キング・ルイに献上される。このサル軍団の王は原作ではボルネオ・オランウータンだが、インドには棲息していない。ジョン・ファヴロ監督は、キングコングをイメージして、巨大な類人猿をコンピュータ・グラフィックの特殊撮影で作り出す。

この巨大な類人猿キング・ルイは、人間の持つ“Red Flower=赤い花”を手に入れてくれたら、人喰い虎シーア・カーンから身を守ってやると、モーグリを追い詰める。だが、モーグリはレッド・フラワーを知らない。サル軍団の王国はアンコールワットを思わせる密林の中にある巨石寺院だ。

モーグリが巨石寺院の中を逃げ回る間、モーグリはキング・ルイから狼族の気高いリーダー・アキーラがシーア・カーンに殺されたことを知らされる。悲しみ怒り狂ったモーグリは自分ひとりでシーア・カーンに立ち向かう決心をする。このモーグリとキング・ルイの追跡劇で巨大石窟寺院は粉々に砕け散ってしまう。

人間の部落にモーグリは侵入し、武器とするためタイマツを手に入れ、ジャングルに戻ってくる。偶然だが、そのとき、ジャングルでは、大規模な野火が発生したばかりであった。そこで、モーグリは人喰い虎のシーア・カーンとばったり出会う。さあ、我らがヒーロー・モーグリの運命やいかに!続きは来週というところだが、このメルマガは面倒見が良い。最後まで一気に突っ走る。

このとき、大勢のジャングル仲間たちが、両者の対決場面に駆けつけてくる。シーア・カーンは大きく吠える。「モーグルは自分から野火をジャングルに放った!これでジャングルの動物すべてを敵に回した!」と。

モーグルは手に持ったタイマツを湖の中に放り投げ、シーア・カーンにフェアな闘いを挑む。

有利な立場に立ったシーア・カーンはモーグルを高い樹の上に追い詰めていく。身軽にモーグルは枝から枝えと逃げていく。下では野火が広がり、どこもかしこも火の海となっている。もう逃げ場がない。モーグルは絶体絶命だ。シーア・カーンが飛び掛る。モーグルは一瞬早く蔦のロープにぶら下がる。シーア・カーンが着地した樹の枝は、乾燥しきって脆くなっている。自分の重みで樹の枝がボキッと不気味な音を立て、シーア・カーンは火の海の中に落ちていった。

そこへ象の一群がモーグルを助けに到着する。大河の土手を蹴破って、川の流れを野火の広がる一帯に誘導する。すべて鎮火し、ジャングルにまた平和がやってきた。



======================================

05:ミャンマーこそ、東西文化の交差点

======================================


このストーリーは英語圏の欧米では、「足柄山の金太郎」あるいは「鬼が島の鬼を退治した桃太郎」のようなものだ。だから、子供のころから慣れ親しんでいる。ここに登場する樹から樹に飛び移るモーグリやお尻をプリプリ振りながら二本足で歩くバルーなど、子供たちにとってお馴染みさんだ。そして怖ろしいシーア・カーンがのっそりのっそりと背後から迫ってくる。

英語を学ぶということは、相手の文化を理解し、尊敬しあう第一歩である。

東は東、西は西と、それぞれの文化を知るということは、そういうことで、相手を尊敬するということも、そういうことである。

そしてここで使用されたキーワード“Red Flower=赤い花”とは人類の作り出した偉大な道具「火」だったことを学ぶ。キップリング先生が教えてくれる偉大な動物物語である。おもしろいことに、もうひとりビルマに深く関係した英国の小説家ジョージ・オーウェルも動物を主人公に「動物農場」という寓話を書いた。これは先々週だかに書いた。

アナタがミャンマーに何らかの形で関与したいなら、これらは必携の二冊である。将来アナタのライバルとなる欧米人は、「ジャングル・ブック」と「動物農場」は少なくとも何回か読みこなしている。

読書家のスーチーなら、何十回、いや何百回と、読みこなしているかもしれない。スーチーの次男坊キム・アリスの名前はスーチーの大好きなラドヤード・キプリングの冒険小説「KIM」から借用したものだ。軍事政権から慌ててスーチー政権支援に心変わりした政治家のみなさんも、
スーチーを口説こうと思ったら、キプリングとオーウェルぐらいは読破した上でご来緬されることをお勧めしたい。インフラ整備と経済成長だけでは、話が味気ない。それと、どさくさにまぎれて、さいとう・ナンペイの『アウンサン物語』をお勧めしておきましょう。



======================================

06:次回メルマガは雨が降ったら・・・

======================================


この「ジャングル・ブック」はウォルト・ディズニー映画が1967年に製作した同名アニメのリメイク版である。だが、ディズニーならではの技術陣が最先端のコンピュータ・グラフィックを思い切り駆使している。これは決してお子様用ではない。大人が楽しめるファンタジーである。ただし、アナタに純粋な子供心があればの話だが。

エベレスト山麓に住む高僧が語った。「子供のようになれ!さすれば、すべてに目を見張り、すべてに驚く!」と。この「ジャングル・ブック」でアナタの純粋度を測ってみたい。何人が子供時代に描いた夢をもういちど見ることができるであろうか。

数えてはいないが、ざっと1000名のプロフェッショナルが、2016年版「ジャングル・ブック」製作に参加している。それほど膨大なエネルギーを投入しなければ現代の名人芸は達成できないということだ。その才覚のすべてがこの作品には凝縮されている。アメリカの場合は、それにプラスして、イヤらしいことに莫大な巨額の金を投資している。

だが、物語のあるストーリーは、常に人をインスパイアーする。そして感動させることができる。

いまヤンゴンで開店準備に忙しい、ラーメン屋の店長さん、あなたの夢を作るストーリーは出来上がりましたか。日本から持ち込んだレシピだけでは、チョット厳しいかもしれません。家賃の値上がりが手ぐすね引いて待っています。ライバルは和食店だけではありません。欧米のシェフも、中華のコックもいますよ。

監督のジョン・ファヴロは子供のときに、ディズニーの1967年版アニメ映画を見たという。そして自分がこの名作のリメイク版の監督に起用された。彼の頭の中では、1953年のアラン・ラッドの主演映画「シェーン」が過ぎったという。流れ者とそれを慕う少年ジョーイの「シェーン、カムバック」の声がこだまする。

そして、1979年のマーロン・ブランド演じる「地獄の黙示録」のカーツ大佐を、密林の人喰い虎シーア・カーンの雰囲気にダブらせたという。

そしてもう一本、1990年に製作されたNYを舞台とした犯罪映画「Goodfellas」のはらはらさせるサスペンスの技法を取り入れたという。NYあるいはイタリアのマフィアを描いてはその右に出るものがいないといわせるマーティン・スコージー監督の名作である。

このように、昨今の映画製作は、イマジネーションと先端技術のフュージョン、すなわち合作である。これこそプロの味である。

何かに行き詰ったとき、この「ジャングル・ブック」はお勧めです。路上で一枚400チャット、アナタが幸運なら300チャットで手に入ります。わずか100チャット(10円)をケチるかどうかはアナタの品性次第。

 



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ご意見、ご感想、ご要望をお待ちしております!
 magmyanmar@fis-net.co.jp 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


=================================
- ご注意 -
このメールマガジンは情報提供を目的としたものであります。
なお、内容につきましては正確であるよう最善を尽くしておりますが、その内容
の正確性を保証するものではなく、内容についての一切の責任を負うものではあ
りません。
=================================


▽このメールマガジンは等幅フォントでご覧ください
 表示がズレる場合はお使いのメールソフトのフォントの設定をご確認下さい
 ※MS Outlook Expressの場合
 「表示→文字のサイズ」を選択、「等幅」にチェック


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
※「ミャンマーは今?」の全文または一部の文章をホームページ、メーリングリ
スト、ニュースグループまたは他のメディア、社内メーリングリスト、社内掲示
板等への無断転載を禁止します。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
※登録解除については下記のページからおこなえます。
 ○購読をキャンセル: http://www.fis-net.co.jp/myanmar/
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 発行元:ミャンマーメールマガジン事務局( magmyanmar@fis-net.co.jp )
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━