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<ミャンマーで今、何が?> Vol.196
2016.06.07

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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■国民の意識改革

 ・01:スーチー玉座に座る

 ・02:スーチーは未熟な政治家ではない

 ・03:スーチー、ロヒンジャーについて語る

 ・04:使途不明金

 ・05:国民の意識改革に時間はかかる

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01:スーチー玉座に座る

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スーパーホッテストのこの時季に大空が雲で覆われている。時折シャワーに見舞われる。大玉のマチス(マンゴー種)3個が900チャット(乱暴換算で90円)。これで中古の頭脳が何とか動き始めた。ありがたい。

路上喫茶生活は毎朝、続けている。

見慣れてしまって、見過ごしがちだが、新聞上では、設立された40数件の委員会のどれかの写真が目立つ。しかも第一面だ。両翼に軍服組みの大臣たちと民間大臣が対峙している。その委員会を取り仕切っているのが、中央に座るスーチーだ。まるで玉座に座っているようだ。

5年前には考えられなかった変わりようである。
路上喫茶でも、秘密警察らしき不審者が周りにいないことを確かめて、“スー”の字を口にしたものだ。だが、今では軍事政権のマウスピースと言われたNLM紙第一面にこのような写真が、堂々と、しかも頻繁に見られるようになった。

このような様変わりは、今年の水祭り明けの4月からである。
念のために、軍服組みの大臣とは、国防・内務・国境担当の3大臣である。彼らは形式上はティンチョウ内閣のメンバーではあるものの、実質上はミャンマー最高司令官ミンアウンライン上級将軍に指名され、その指揮下にはいっている。スーチー国家相談役の管轄外に存在しているということである。

実質上(外電は大半このような注釈をつける)のスーチー政権では、難問をいくつも抱えている。そのなかでも最大の課題は、反政府武装勢力との全国的統一和解である。それを実現するための委員会も設立された。だが、国防大臣が辺境地区での独自の情報を握り占め、公開せずに、武装勢力から攻撃を受けたとの口実で、中央政府軍の名前で勝手に戦闘状態に入るリスクは常に軍部が握っている。これが、反政府武装勢力による中央政府に対する不信感の原因ともなっている。

東西南北研究所では、これから多発しそうな不協和音に踊らされずに、事のポイントを見極めてから、今後もレポートしていきたい。



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02:スーチーは未熟な政治家ではない

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男たちは、軍部の横暴を身を持って知りながら、虎の尾を踏んではいけないと、刺激的な言動を自主規制してきた。だが、スーチーは予備選挙に立候補するころから、非民主的な2008年憲法の改正をマイクを片手に公に唱えてきた。そして、国会議員に初当選しても、2008年憲法に忠誠を尽くすことを議会で拒否し、宣誓文の朗読をボイコットしている。

彼女の指揮下にあるNLDの一年生議員も、同様のボイコットに一糸乱れぬ行動を取った。25%もの軍人議員が国民の審判を受けずに議席を占めるなど、まったく非民主的であるというのが、その理屈だ。

スーチーの主張は正鵠を得ており、ミャンマーの鉄の女と言われる所以でもある。マスコミからは未経験の政治家と見下されながらも、2016年6月の今の時点で判断すると、その功績は大きい。

一部マスコミでは、スーチーは米国および英国など欧米政府の傀儡だとの批判記事も目にする。だが、東西南北研究所の見方はまったくその逆で、オバマ政権をはじめとする欧米首脳たちを自家薬籠中のものにしてきたと判断する。

ミャンマー国民が恐れに恐れてきた軍部の弱みはアメリカとヨーロッパによる経済制裁と中国であった。だが、欧米を操ることによって、スーチーは軍部をぐうの音も出ないように陥れた。優れた外交政策であり、秀でた国内政策である。G7の首脳で国内外にこれほどの駆け引きができる敏腕な政治家はいるだろうか。



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03:スーチー、ロヒンジャーについて語る

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ジョン・ケリーがやってきた。米国の国務長官である。その共同記者会見で、スーチーは明言している。5月22日のことである。

これまでスーチーは、ラカイン州のロヒンジャー問題については、レポーターのマイクを睨みつけ、しつっこい質問をすべて無視してきた。だが、ケリー国務長官に対しては本音を語っている。

4月19日、ロヒンジャーたちを満載したボートが転覆し21名が死亡した。このとき、米国大使館は死亡した21名の家族に対し哀悼のメッセージを伝え、“ロヒンジャー”の言葉を使用した。

それに対してミャンマーの民族主義僧侶たちが米国大使館の門前で、“ロヒンジャー”の言葉を使用するなと抗議デモを行った。

その翌日、米国新大使のスコット・マーシエルがティンチョウ大統領に信任状を提出している。

前軍事政権は、110万人のロヒンジャーをミャンマーの少数民族としては認めず、衛生状態の恐ろしいほどの貧弱な避難民キャンプに閉じ込め、彼らはバングラデッシュからの経済難民で、“ベンガリ族”であると名付けてきた。ミャンマーの少数民族ではないということである。

そして新スーチー政権は、5月初め、米国をはじめとする駐緬大使館に対し、“ロヒンジャー”という言葉を使ってくれるなと忠告している。

そこでジョン・ケリーとの共同記者会見でのスーチーの言葉である。

新政府は、ラカイン州におけるイスラム教徒と仏教徒の対立問題の解決を真剣に取り組んでいる。だが、問題は単純でない、

ラカイン州の民族主義的仏教徒は彼らを“ベンガリ”とよび、イスラム教徒は自分たちを“ロヒンジャー”と呼んでいる。両者ともに感情的になって、相手の名称を認めず、ここで片方の名称に肩入れすれば、火に油を注ぐようなもので、それでは公平でない。したがってケリー国務長官にも“ロヒンジャー”という言葉を使用してもらいたくない、と語っている。

現在、形式的でない実務的な解決策を模索中である。したがって、もうしばらく辛抱して解決策を考えてほしい、両者が納得する解決策がどこかにあるはずだ、と訴えた。

日本でも150年前の維新前夜までは、攘夷だ、開国だと言って大騒ぎしていた。そして、攘夷派が海外の実情を知るにつけ開国派に早変わりしていった。ミャンマーの民族主義派も見方によっては狭量な攘夷派である。それは一部の僧侶であり、軍人でもある。井の中の蛙である。

したがって、これまでスーチーが避けてきたこと、そしてスーチーが言う、もうしばらく辛抱は、現状からして、妥当な態度で言葉かもしれない。



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04:使途不明金

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国税庁からこれを指摘されたら、社長の心臓は縮み上がるだろう。しかも金額は一億ドルと中途半端ではない。ガサツな換算でも100億円となる。ここで国税庁をスーチー、社長を元の軍事政権と読み替えてほしい。

軍事政権は中国人に大人気のヒスイ原石の競売会を年数回にわたって開催してきた。それが、軍部の重要な資金源であることは公然の秘密であった。国家財産の着服である。そこで、鉱業省の高官を委員長とする特別調査委員会が設置された。その使途が追及されそうな気配となってきた、とフィナンシャル・タイムズがレポートしている。

ネイピードにおけるヒスイ競売会では、2014年度だけで310億ドル(3兆1千億円)の取引で、民間団体のMyanmar Gem and Jewellery Entrepreneurs Associationと軍事政府系のMyanmar Gem Enterpriseの2社が主催してきた。そして売上げの1%を国庫に納めることになっていたが、軍事政府系である後者の分が不明瞭となっている。

前の与党USDPの広報担当大臣は、今回の委員会設置の動きには政治的な動機があるとコメントしている。現在の与党NLDのモットーは透明性である。内外のマスコミが見守る中で調査委員会が情報開示すれば、ひと騒動起こりそうである。

日本でもそうだったが、金額がデカイこと。大物への波及も当然考えられること、こういう事件には必ず末端の犠牲者が出た。そして元凶には至らずに幕引きが行われてきた。ミャンマーではどのような手腕を見せてくれるか、楽しみだ。

この政府系Myanmar Gem Enterprise社は、米国財務省の制裁対象にリストされていた。だが、先月の見直しで、制裁解除を受けた。この辺りと特別調査委員会の動きがどういうふうにかみ合っているのか、その点も注目していきたい。



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05:国民の意識改革に時間はかかる

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これから、これらに類似した出来事が多発することだろう。

その大半は、約50年間という軍事政権に飼い慣らされてきたミャンマー国民にその責任はある。

ということは、2011年から2016年のテインセイン政権は、図面は示したが、国民の意識改革にはつながらなかった。国民の意識が変わらぬかぎり、真の民主化ではない。真の民主化は2ヶ月前に端緒についたスーチー政権の仕事である。内部混乱を含めて、じっくりと見守っていきたい。

 



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