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<ミャンマーで今、何が?> Vol.205
2016.10.31

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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■スーチーの日本訪問

 ・01:「滅びゆく国家」それは日本?

 ・02: スーチーの日本訪問

 ・03:背中で語る日本人

 ・04: クリーニング作戦

 ・05:「アウンサン物語」

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01: 「滅びゆく国家」それは日本?

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立花隆が「滅びゆく国家」初版を発行したのは2006年のことであった。すでに10年という時が経過した。紙を媒体としないインターネットでの情報伝達効果について論じられている。古典的な活字メディアに比較して、インターネットでの波及力は倍々ゲームで津波化していった。立花隆は、日経BP社のウェブページでそれを実験的に証明している。立花隆は「インターネット探検」や「インターネットはグローバル・ブレイン」というネットの解説書も書いている。

グーテンベルグが紙に印字した印刷技術は、今、人類の想像をはるかに超えて、水面にも、空中にも描ける時代に突入している。盤石だと教えられ信じていた足下の地球が動いていた。太陽が東から昇り、西に沈むと教えられてきた天動説が、実は真っ赤な嘘で、いま地球が太陽の周りを駆け巡っている。中国が世界の中心だったというのは古代の話。21世紀の中国がそれを墨守しようとするなら、時代錯誤も甚だしい。

前回お伝えしたが、いま世界で、そしてミャンマーで、画期的なパラダイム変化が起きている。見える人には見え、見えない人には見えない。昨日の手法はもう古臭くて使えない。

話を「滅びゆく国家」に戻そう。
その目次は、ライブドアショック、天皇論、靖国論・憲法論、小泉改革の真実、ポスト小泉の未来、イラク問題、メディア論、と7章に分かれ、それぞれの個別問題を詳しく解説してある。

そして小さな字で、"日本はどこへ向かうのか?"と不気味な副題が付いている。

10年前の時点ではまさに「日本で今、何が?」だった。
だが、立花隆が取り上げた個別問題を今読み直すと、滅びゆく国家が日本であったことに慄然とさせられる。

東西南北研究所が指摘したいのは、このミャンマーこそが100年に一度の大変革機を迎えており、しかも「滅びゆく国家」ではなく、その真反対の「昇り竜の国家」ではないかということである。

大きな勘違いをして、ミャンマーに援助の手を差し伸べていると思ったら、国家戦略として手ひどい目に遭うのではないだろうか。NGO組織も、民間企業も、個人も同様である。ミャンマーをバトルフィールドとして国際的な思惑がもろにぶつかりあい、欧米も中国も必死となっている。果たして国家戦略などというものが「滅びゆく国家」にあるのだろうか?

同盟国だと勘違いしていたアメリカに、北京直行便があることをニクソン外交は露骨に教えてくれた。それを忘れてしまったのだろうか。
何度もくどいが、いまホワイトハウスの中枢と直結しているのは、永田町ではなく、ネイピードの主スーチーである。



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02: スーチーの日本訪問

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国家相談役のスーチーが安倍晋三首相の招待で近々日本を公式訪問すると小さな囲み記事が10月29日のGNLM紙に出ていた。この記事が出ると、通常は数日中に実行される。そしてスーチーに今回面談する顔ぶれで、新時代に対する日本の国策が見えてくるかもしれない。

米国が経済制裁を解除したことで経済面だけで浮かれていると、フランスのドゴール大統領が日本の首相をトランジスターラジオのセールスマンと揶揄したように、世界中から品格を疑われることになりかねない。もし、日本がなりふり構わぬ商人道国家へと大きく変貌するなら、それは合法的に選ばれた多数決の意思なのだろう。

いまスーチーの一挙手一投足は世界中の注目を集めている。ということは、その相手も世界各国から品定めされることになる。経済面以外の理念が、この国にはあるのだろうか? 注目してみたい。

二千年前の中国の漢方古典「黄帝内軽」には「未病」について言及している。
「聖人は既に病んでしまったものを治すのではなく、未病を治すのである」と。
また「国が既に乱れてしまってから治めるのではなく、乱れないうちに良い政治を行うものだ」とも言われてきた。

病気になってから薬を飲んだり、国が乱れてしまってから政治を行うというのは、例えて言うなら、喉が乾いてから井戸を掘ったり、戦いが始まってから兵器を製造するようなもので、遅きに過ぎる。
オバマはスーチーを平等なパートナーとして遇したが、果たして日本の宰相はいかに?



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03: 背中で語る日本人

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話は大きく変わるが、ヤンゴンの下町で、意外な光景を目にした。
10月29日(土)早朝のことである。
空が明るくなった頃、ほうきを持った人、長めのゴミつまみトングを手にした人、塵取り組もいる、そしてゴミ用のビニール袋も、それぞれが48番街の通りを清掃しはじめたのである。

英国の植民地時代にはラングーンは確かにガーデンシティと呼ばれ、東南アジアでは屈指の美しさを誇っていた。だが、軍事政権となり、ビルマ型社会主義を採用した頃から、人心は荒み、街の景観も荒れ果ててしまった。路上駐車した車の見えない後ろ側に、ゴミ屑を置いていくのなど、当たり前となってしまった。背中合わせとなっているビルの裏庭など、ゴミ廃棄場と化している。ドブネズミが丸々と太り、ゴキブリが這い回っている。

ジカ熱に注意しろとの通達は届くが、裏庭を清潔にしろとの、通達は見たこともない。

この48番街では、週一回土曜日の朝だけ、ビルの大家さんも、商店の女主人も、一家のご主人も、掃除道具を片手に、目につくゴミを競い合うように拾っていく。まずは隗より始めよで、出だしとしては、これで上々だ。確かに、何かが変わった。これも、パラダイム変化の表れなのか?

いっぷう変わった日本人が、この通りのビルの一室に事務所を構え、毎月一回10日から二週間ヤンゴンに滞在する。そして自室の掃除を始め、それが終わるとビルの最上階から一階まで共用スペースの階段・踊り場を磨いていく。それだけではない。雨さえ降っていなければ、ビル前の路上から、果ては48番街の両端までほぼ毎日清掃する。

ある日、11歳の娘を連れたミャンマー人女性が、この日本人に片言の日本語で声をかけた。「おはヨーございます!」と。少し俯き加減に伝えようとした言葉は、この日本人男性を感激させた。自分は日本に10ヶ月ほど滞在したことがある。日本人が自宅をいつも清潔にし、自宅前の通りを綺麗にしていることを知ってます。主人は船乗りで、主人も日本のこと、そして日本人の礼儀正しさをよく知っています。

その日本人に、自分たちの通りを毎日掃除してもらって、ミャンマー人として恥ずかしく思った。この街の人たちはオジさんのことをみんな知っています。いままで勇気がなかったけど、今朝はどうしてもお礼を言いたくて、娘を連れて、おはヨーございます、言いました。

まだ人数は少ないが、そして回数も少ないが、週に一回、この通りの主だった人たちがボランティアで、自分勝手に、自分たちの街を綺麗にする活動を開始した。

この日本人は語る。自分は英語もミャンマー語も話せない。雪深い越後の出身で、故郷の言葉しか話せないと、訛りのない言葉で語る。雄弁ではないが、彼特有の冗談だ。そして向かいに住む94歳の女性から、毎朝英語を習い始めた。むかし英語の先生をやっていたと言う。そして、最近知り合ったばかりの11歳の娘の父親である船乗りからビルマ語を教えてもらう約束ができた。

英語の先生は、彼のことを、徳のある方ですと言う。船乗りはあの人は尊敬できる人ですと言う。この日本人には胸に秘めた夢がある。自分が父親の背中を見て学んだ人生の基本、挨拶と掃除、それを励行しているだけだと語る。そしたら、周りが勝手に動き始めたと言う。



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04: クリーニング作戦

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2015年12月13日付けAFP通信を覚えておいでだろうか?
11月8日の総選挙で80%近くを獲得したNLDは、党首スーチーの選挙区コームーで路上のゴミ拾いというクリーンアップ作戦を展開した。新たに選出された国会議員のみならず、多くのNLD党員が参加した。あれからまだ一年も経っていないことに驚かされる。

スーチーはレポーターに多くを語らなかったが、写真は撮らないで、ゴミ拾いに参加してくれないかと頼んだ。

ヤンゴンよりはるかに北のマンダレーでも、NLD主導で街頭クリーンアップ作戦が行われ、僧侶から市職員までが参加した。NLD党員は、今回だけでなく、市清掃員とともに毎週参加して欲しいと語っている。

「愚公山を移す」には小さなことを諦めずに、毎日毎日続けることが大切だ。

いまヤンゴン時間で10月30日(日)である。
暦の上では、10月の満月にあたるダディンジュの火祭りはとっくに過ぎた。例年であれば、雨季が終了し、乾季の爽やかさを楽しむ季節であるが、ベンガル湾をウロチョロするサイクロンで連日雨に見舞われている。今年は異常気象だ、エルニーニョだと講釈をたれる友人もいる。

だが、軍事政権のこびりついた汚れを洗い流すには、ちょっとやそっとの雨では、クリーンになりませんという皮肉屋の解説が私は気に入っている。



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05: 「アウンサン物語」

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ミャンマーで有名な三十人の志士のエピソードである。
12人の同志を2組に分け、その1組を副班長が率いて向かい合う形をとらせた。

そして、6人を身長の順に並ばせ、一人が立てば次の一人はかがむという形で、6人のうち3人は立ち、残る3人がかがんで並ぶ態勢をとらせた。演習場のもう一方の端にいる6人組もまったく同じ態勢をとって向かい合った。
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合図とともに、そのままの姿勢で演習場の反対側に向かって、石ころやゴミを拾いながら進んだ。反対側からも6人組がゴミを拾いながら進んでくる。こうして演習場を隈なく両側から清掃作業をこなした。

ところが、この作業は若者たちには大不評であった。さあ軍事技術が学べるぞと張り切って乗り込んだとたんに、ゴミ拾いをやらされたのだ。

作業が終わって、教官はあらためて訓辞を述べた。「本日の作業は軍事訓練の一部である。どんな訓練をやるにせよ、忍耐心は最も大事な要素である。」こうして午前中の訓練は終了した。

午後1時には昼食が出た。
昼食を終えた同志たちは、午前中の訓練がどういう意味を持つのかじっと考え込んでいた。わけは分からないが、いずれにせよ午後も訓練があるはずだ。

午後2時になると助手がやってきて言った。
「午後の訓練はない、rkyそれぞれ兵舎の中を清掃するように。」そう伝えると助手は自分からさっさっと掃除を始めた。一時間半ばかりで掃除は終わった。副班長は掃除が終わったら、兵舎の中にいてもいいし、兵舎から200ヤード以内なら、外に出てもよろしいと申し渡して出て行った。

さあ、治らないのが同志たちである。軍事訓練を受けるつもりが、最初からゴミ拾いである。ラングーン市役所清掃人夫よろしく清掃作業にがっくりきてしまった。その様子を見ていたアウンサンは、みんなを兵舎の外の木陰に呼び集めた。

「俺たちのやっていることは高が知れていると世間は見ている。なにしろ、ビルマの支配者イギリス人たちは、自分たちの帝国は日が沈むことはないと豪語しているんだ。その大英帝国を倒すのが我々の仕事だ。根性、勇気、それに何よりも忍耐心がなければできないことだ。」

アウンサンはニコニコしながら話しを続けた。
「今日の訓練はやらせ方が気に入った。これは、我々の根性と忍耐心を試したんだ。我々ビルマ人は、もともと根性のある民族じゃないか。ビルマ人の素晴らしさを見せてやろうじゃないか。これぐらいのことでくじけるなよ。」みんなの顔つきが変わり、その決意が表情に表れてきた。アウンサンはにっこりした。

誰からともなく、タイ国に進軍し、アユタヤ朝を倒した、ビルマの英雄タウングーの王の詩が歌われ、それは大合唱となった。そして全員が立ち上がって気勢を上げた。

アウンサンのエピソードは、人を動かす立場の人、あるいは経営者にとって、実に多くの、そして意味深長な何かを含蓄しているように思われる。そしてビルマ人の性格が、今のミャンマー人に敷衍しても、何一つ変わっていないようである。

以上、さいとう・ナンペイ著「アウンサン物語2015」から引用させてもらった。





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