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<ミャンマーで今、何が?> Vol.225
2017.9.19

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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■ロヒンギャー問題を再考する

 ・01: ミャンマー新政権の功績

 ・02: 政治的なスーチー抹殺の行方

 ・03: ロヒンギャー

 ・04: スーチー演説

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01: ミャンマー新政権の功績

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それは政府による透明化政策だろう。

これが達成できれば、ミャンマーは民主化へ向けて大きく前進できる。
その試金石が「ラカイン問題」である。

(影の声: 民主主義はすでにベストな政治体制ではなく、英国・米国でもその破綻が見え隠れする。だが中国などの全体主義に比較して民主主義がベターなだけで、国連および21世紀の指導者たちはそれに取って代わるものをまだ見出せずにいる。)

新政府はこれまでも各大臣に指示して、各省庁で様々な委員会を立ち上げてきた。そして委員長以下の選任から、討議内容、結論に至るまでを、記者会見を通じて内外に公表させてきた。

民主化が定着した成熟した政権移管と異なり、前軍事政権からの事務引き継ぎは一切なし、国庫の中身は空っぽ状態で新政権はゼロからスタートした。これはスーチー政権を成功させてはならないという軍部のしたたかな配慮である。しかも、国防相・内務相・国境問題相という3 大重要閣僚は、陸海空三軍を掌握するミンアウンラインの監督下にあり、新政権は軍部には関与できないという危ういバランスで発足した。
下手をすると1990年の総選挙結果を軍部が無視するという悪夢が再現される土壇場での見切り発車であった。

多くのマスコミは軍部と妥協したと書くが、これは読者をミスリードする見解である。先の補欠選挙で、スーチー以下NLDの40数名が国会議員に当選した時、憲法に従って宣誓することを全員が拒否し、新国会は一週間以上空転した。そして政治はギブ&テイクの世界だとのヒラリー・クリントンの電話説得もあり、全員は意に沿わない軍部手作りの憲法でも、形だけの宣誓を行い、国会は動き始めた。

このように、ミャンマー政治は複雑怪奇なカラクリの中で、スーチー政権はスタートし、真の民主化への道は前途多難であった。もう一つ複雑怪奇な魔物がミャンマーの仏教界である。

仏法僧の"僧"、すなわち僧伽(サンスクリットのSangha)集団である。三宝の一つで帰依尊崇の対象となる。ミャンマーではこの僧伽集団は長老の下に一枚岩であったが、自由化を求める風潮の中で、若モノ僧侶が古風な長老たちに叛旗を翻し、過激な行動を取るようになった。それが、スーチーは西洋人に身体を売ったバイタ(売女)だとか、ロヒンギャーを殊更に攻撃したり、イスラム教のモスクに放火したりして、仏教徒の多いミャンマーで一般受けのする活動を行っている。そしてそれに踊らされる若者たち、無知な国民がいるのも事実である。

それらがラカイン問題をさらに複雑にする元凶でもある。これらを含めて、スーチーは日本の外務大臣に"ミャンマーは複雑なんです"と訴えたが、日本は経済問題・人材確保にしか興味はないようである。

そして、今回のロヒンギャー問題の実情が鮮明になってくると、資金源を海外に持つ過激派グループARSA(アラカン・ロヒンギャー救世軍)が組織的に起こす暴動とマスコミ操作術はSNSを多用して実に巧妙であることが見えてきた。それに踊らされるというか、加担するマスコミ報道、および一部の人権団体のスーチー非難はオカシクないだろうか?

スーチーは情報の"透明性"を大きな柱とし、それを自らに課し、NLDにも、国会議員にも、そしてティチョウ大統領政府にも厳命し、そのルールは徐々に軍部のトップにも浸透しつつある。新政権発足後わずか18ヶ月にしては大きな変化と見て良いであろう。

その情報の"透明性"が浸透したが故に、ラカイン州のロヒンギャー問題が皮相的な見解をするマスコミにまで取り上げられるという皮肉な結果となった。自身の足で、目で耳で、取材せず、SNSに立脚した報道も多数見受けられる。ガセネタか、ニセ情報か、事実かを確認せずに、あるいは憶測だけで報道するマスコミは、害毒でしかない。

報道体制がそうであるなら、クソミソ混交の情報の中から、読者自身がコトの真実を見極めねばならぬ時代に、我々は突入してしまった。だが、軍事政権時代の情報統制よりははるかに自由な空気である。ミャンマーでは平和的なデモ行進まで認められるようになった。欧米のように火炎瓶や発煙筒を投げ合うほどには、まだ民主化は進んでいない。



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02: 政治的なスーチー抹殺の行方

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一部の報道機関が、あるいは一部の人権団体が、スーチー個人を非難することによって、スーチーを政治的に抹殺することになったら、この国の混乱はラカイン州からミャンマー全土に飛び火して、ARSAが意図する国内を混乱状態に陥れることになる。そして、それは元軍事政権保守強硬派の思う壺でもある。この国と隣国のタイランドはクーデターで簡単に憲法停止、軍部独裁を施行してきた実績がある。歴史はそれを繰り返してきた。

このメルマガでは、その点を何度もお伝えしてきたが、"思う壺"が大好きな人は、スーチー攻撃をして、一部報道機関の尻馬に乗れば良い。そうすれば、最後の経済フロンティアも、ティラワ構想も南海の夢と消え去ることだろう。

ミャンマーが不安定になれば、アセアンが崩壊する。ムスレム世界だけでなく、中国も覇権を進めやすくなるだろう。過去には強いドルで世界の警察官を任じた米国も手の打ちようがなくなる。BRICsのロシアに妙案があるだろうか?トランプ頼りの国々がリーダーシップを取って代わるとは思えない。



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03: ロヒンギャー

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ここで断っておきたいことがある。

"Rohingya"は欧米メディアもそのスペルからして当初、ロヒンジャーと発音していた。だが、現地ではロヒンギャーと発音していることが徐々に判明し、マスコミも現在は現地発音を採用するようになってきた。当メルマガも今後"ロヒンギャー"に統一していきたい。

軍事政権時代からミャンマー政府はロヒンギャーを自国固有の少数民族とは見なしていない。スーチーもこの名称は使用せず、北ラカイン問題とか、ムスレム地域社会と表現する。
だが、一部のマスコミは、それだけを取り上げて、スーチーを非難する。だが、民族問題とは人種、言語、食事文化、生活習慣など文化人類学に属する方面からの考察が求められる。安易に人権で片付く問題ではない。さらに問題を複雑にしているのが、大英帝国による植民地時代の労働力確保政策にその発端はある。ここでスーチーを非難するのは、そのような経緯を無視した、問題のすり替えにすぎない。

このメルマガでは何度も取り上げたが、ロヒンギャーの本質的な問題は"ボートピープル"であるということである。これは仏教徒とムスレムの宗教問題ではなく、中国の言うようなミャンマーの国内問題でもない。貧富の差がもたらした"ボートピープル問題"である。

モンスーン雨季が明けるとバングラ・ラカイン州からボートピープルが南下する。通過国のミャンマー、タイランド、マレーシア、インドネシア、ニュージーランド、オーストラリア、すべての国が入国を拒否する。これらの国々にとって、スーチーを非難すれば、余計なトラブルに巻き込まれずに済む。そのような心理も、国連の場で、マスコミ報道で、微妙に影響しているようだ。

ミャンマーから見た地球の裏側、すなわち地中海でも、同様のボートピープルが一つはギリシャを、そしてもう一つはイタリアを目指す。これも自国の戦乱を逃れるために、自国を捨てた人々である。平和ボケした人々には祖国を捨てるという気持ちは理解できまい。

この亡霊のような亡命者の行列は膨大な数に膨れ上がり延々と続く。これらは人権問題に理解のあるスカンジナビアを目指し、ドイツを目指し、そして英国を目指す。これにフランスを含めて、何のことはない昔の植民地宗主国を目指すのである。だが、ここでも通過国の欧州諸国は亡命者の通過を断固阻止せよと自国政府に求める。実に利己的な発言ではないだろうか?スーチーには人権擁護を求める二枚舌のダブルスタンダードである。

そして通過国だけでなく、スカンジナビア各国も、ドイツも英国も、フランスも、国民はボートピープルの受け入れを阻止する利己的な態度に豹変し始めた。老獪な英国のEU離脱も、ここにその遠因の一端はある。歴史的には植民地時代のブーメラン現象が発生しているにすぎないのだが。それとも地球上に過剰に繁殖しすぎた人間族の自然淘汰が、見えざる手によって、いま執行されている最中なのだろうか?

そうだとすると、産めや増やせと、若者たちにケシかけている、先進国の政策も利己的な判断に見えてくる。



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04: スーチー演説

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上記の経緯を理解して一昨日のスーチー演説を分析すべきなのだが、日本経由のスーチー報道は何らかの曲解に満ちており、どうしてそのような解説になるのか、不可解である。

昨日の新聞は、もちろん第一面にスーチーの写真と解説が入り、演説の全テキストも掲載されている。友人のためにもう一部購入しようと、少し遅れて行ったら、すべて売り切れであった。

ヤンゴンの中心地はヤンゴン市庁舎(YCDC)のあるスーレーパゴダ横、独立記念碑のあるマハ・バンドゥーラ公園である。ネイピードで行われたスーチー演説は18日午前10時からの国営放送テレビ・ラジオで放送された。そのYCDC正面には巨大なTVスクリーンが設置してあり、大勢の市民が埋め尽くし、30分間の演説を身じろぎせずに見上げていた。

次回は、その演説内容をお伝えしたい。


東西南北研究所





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