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<ミャンマーで今、何が?> Vol.263
2018.7.19

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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■タイの洞窟に捕われる、決死の救出作戦!

 ・01: シュエマンは今回お休み、・・所長の言い訳

 ・02: いつ、どうして、事件になったのか?

 ・03: サッカー少年チームが行方不明

 ・04: 初見は6月28日付のAFP通信社記事

 ・05: ヤルべきことは山ほどある

 ・06: 見つかった! 13名全員無事だ!

 ・07: ヒーローは英国人ダイバー?

 ・08: Thai Military Diver Dies as Window for Cave Rescue Narrow

 ・09: Adul君(14歳)のエピソード

 ・10: 最後に

 ・公式ツイッター(@magmyanmar1)


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01: シュエマンは今回お休み、・・所長の言い訳

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シュエマンの回顧録分析はまだ終了してない。だが、世界中を感動させるニュースが隣国タイから飛び込んできた。シュエマン分析は、勝手ながら次回に回す。

それが「ミャンマーで今・・」と何が関係あると、訊かれても返事に困ってしまう。そのニュースはとっくに承知という読者は、閉じるをクリックして、一服願いたい。
スーチーから学んだ老獪学で言い訳を考えてみた。無理ヤリにでもミャンマーにコジツケる。これが所長の得意技だ。

先ずはバンコク空港で購入したタイ全土をカバーするCOLLINS版、百五十万分の一の地図で、場所をチェックした。タイ北部のチェンライ県メサイ地区Khun Nam Nang Non森林公園、問題のTam Luang洞窟はそこにあった。

チェンライは麻薬の香りが匂ってくるゴールデントライアングル、すなわち黄金の三角地帯への玄関口である。ミャンマー・ラオス・タイ三カ国のクロスロードである。メサイからは橋を渡れば、そこはミャンマーの国境の町タチレクである。ミャンマー側からすれば、国境の町タチレクに対面するメサイで事件は発生した。地図で見てもタチレクとメサイは国境を隔てて背中合わせで、ケータイがなくとも話ができる指呼の距離だ。洞窟の迷路が地底でミャンマー領土に入り込んでいる可能性もある。気分としては大雑把だが、ミャンマーの範疇に入れたくなる。ダメでしょうか?



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02: いつ、どうして、事件になったのか?

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洞窟といえば、山口県秋吉鍾乳洞を想像してほしい。ライムストーン(石灰岩)の丘陵地帯が雨水の浸食作用で、地下水が枝分かれしながら迷路状に小部屋・大部屋を彫り込み洞穴を造り上げていく。鍾乳石や石筍の発生を特徴とし、奇怪な地下ファンタジー・ワールドが展開する。今、この洞窟探検は、ハイキング、沢登り、登山、ロッククライミングなどに続いて世界中で人気モノとなっている。

中に入れば太陽は届かない。直に漆黒の真っ暗闇に包まれる。となると、懐中電灯などの照明器具は必携だ。一個では危険。防水処置も必要だ。

古代人が怖れたのがこの漆黒の闇である。ミャンマーの片田舎・・トイレで停電に遭遇。そこからイメージしてほしい。

この洞窟は地下水が穿って彫り上げた天然の洞穴である。推定奥行きは10km、タイでは最長の部類に入り、隅々までは探検し尽くされていない。内部は横方向だけではなく、斜めに昇り降りしたり、垂直に昇り降りすることもある。すなわち、どの方向にも伸び、行き止まりもありうる。ということは、ギリシャ神話Labyrinthosラビリントスの故事に倣い、入り口から切れないロープを連結させて、帰路の安全を確保しないと生還はムツカシイ。

このために大量のロープが必要になる。必需品はそれだけだろうか・・、そこは地下水の通路である。時には胸まで水につかって前進する。防水・特製のブーツ、できれば地下足袋そして手袋、それに飲料水・食料・医薬品なども必要だ。

地下水はあちこちに小皿・大皿のプールを作っている。カルシウム濃度の高い硬水で出来たものだ。飲料水には適さない。アナタがウィスキー党なら、ソーダ水代わりに特製のハイボールが楽しめる・・、ゴメンゴメン、スポーツ少年が話題のタネだった。

この洞窟の近くで、Wild Boars(野生のイノシシ)と名のる少年サッカーチームが連日練習している。洞窟の入り口には、「7月から11月のモンスーン雨季には洞窟に入らないように」との注意書きが出でいる。

今日は6月23日、チームの一員“ナイト君”の16歳の誕生日だ。少年サッカーチームのメンバー(11歳から16歳)12名は、25歳のアシスタント・コーチとともに、サッカー練習後、ナイト君の誕生祝いに洞窟内に入っていった。学校の教室には誕生ケーキとプレゼントが用意されている。戻ってきての楽しみだ。

ここは学校の裏にある通いなれた秘密の洞窟だ。内部がどうなっているか、全員が知り尽くしている。猛練習の後の洞窟は涼しくてホッとする。だから今回も、部活の流れで合計13名は洞窟へ入っていった。無謀だったとは思ってない。地下洞窟のファンタジー・ワールドは神秘的で魅力が一杯だ。だから、誕生会を祝うには最適だ。

入り口には7月から始まる雨季には入るな、と注意書きが出ている。それには違反していない。しかも、25歳のコーチがいつも通り一緒だ。文句アリマスカ?

今の雨季、ヤンゴンにいても、連日、猛烈な集中豪雨が日に何度もやってくる。山岳地帯の雨がどれほど凄いか類推できる。その凄さを侮って全滅したのが日本軍のインパール作戦だ。チームメンバーが迂闊にも読めなかったのが、気象の急変だった。山岳地帯の集中豪雨は集合して、わずかな落差を利用して、小川が中川となり大川となっていく。これは目に見える地表の話。

地下水のことは良く分かっていない。だが、専門家の話では、目に見えない地下水も血管のように枝分かれして怒涛のように大動脈となり、地下内部で鉄砲水があちこちで発生する。世界中がこの事件で地下水の恐ろしさを学習した。この山岳地帯の天候が急変したのは、ちょうどその時であった。



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03: サッカー少年チームが行方不明

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事件が発生したのは洞窟に入った6月23日(土)のことである。世界はまだ気がついてない。当研究所が注目し始めたのも7月に入ってからだ。子供たちはまだ発見されていない。7月2日の記事を読み、これはワタシの授業の教材に使えると判断し、「教育」と題したスクラップブックに貼り付けた。だが、6月のスクラップ記事は見逃した。それでも念のためにと、「ミャンマーの外交関係」を調べると、ありがたい6月28日付のスクラップ記事が一件だけ残っていた。見出し「降雨がタイの洞窟に捕われた少年の救助を阻止」の記事はかなり詳しい状況を提供してくれた。

その後は、日刊英字のGNLM紙上で飛び飛びだが、救出関連の活字が躍る。
“Northern Thailand”, “Thai Boys Trapped in cave”, “Rescue Efforts for Boys”, “Race Against Time”, “Exhaustion for Rescuers”, “Race to Drain Water”, “Thai Military Diver Dies”などなど。 



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04: 初見は6月28日付のAFP通信社記事

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ニュース発信地はMAE SAI(タイのメサイ)。23日(土)夜、息子が帰ってこないと、母親が当局に通報してこの事件が大騒ぎとなっていく。洞窟の入り口付近で少年たちの自転車、靴、バックパックが発見された。少年たち失踪の重要な手がかりだ。洞窟入り口付近は水没している。ダイバーが投入された。そのダイバーが25日(月)奥の空間室で足跡と掌の跡を見つけた。間違いない。この奥で何人かは生きている。祈る気持ちだった。だが、もう5日も経過している、真っ暗闇の中で皆は生存しているのだろうか?

タイ・ラオス・ミャンマーが国境を接するこの地域は連日の雨と流れ込む大水で、メインの入り口が閉ざされている。救助隊は昨夜大口径のホースを持ち込み徹夜で8基のポンプに連結した。少しでも水量を下げようと必死の排水作業だ。タイ王立海軍SEAL部隊のFB書込みによれば、入り口から数キロ先にある第3空間室の水位は一晩で15センチも上昇したという。洞窟内の水は濁り、酸素も希薄となっている。

この救出作業には、約1000名の人員が動員され、地上部隊の陸軍だけでなく、空軍、そして海軍も参加している。SEALとは海・空・地の略でゲリラなどの突発襲撃に対応する米軍の超エリート部隊で、タイ王立海軍もその指導の下に同じ名前の特殊部隊を設けている。それに加えて海外から洞窟ダイビングのプロが3名、27日夕に到着予定とのこと。
このメインの入り口だけでなく、空軍は地下に通じる入り口を3ヶ所見つけた。しかし接近可能な入り口はそのうちの1ヶ所だけ。この入り口に救援部隊と食料をシャトルする計画を立てた。だが、濃霧と強風そして雨でヘリコプターは待機中。

この少年サッカーチームのメンバーと25歳のコーチは、この辺り一帯を駆け回り訓練の一部としている。洞窟の内部も含めて見知ったところだ。現在、200名の救助隊が洞窟内の困難な作業に挑戦している。入り口近くには子供たちの両親親戚友人が多数集まり、一時も早い無事な生還を待ち望んでいる。その横では、明るいオレンジ色の僧衣を纏った仏教僧たちが一心に念仏を唱えていた。

このドラマティックな救出劇はタイ全土の注目を浴び、ソーシャルメディアに無事を祈る書込みが殺到。中には、この国の指導者、そして王室の皇族からのもあるという。



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05: ヤルべきことは山ほどある

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7月2日付GNLM紙ということは、前日7月1日(日)の出来事である。今日は久しぶりに雲間が開き太陽が顔を見せた。外の道路もぬかるみが乾き歩行が可能となった。洞窟入り口までの物資の運搬も捗る。水の流れを迂回させたので、洞窟内に入り込む濁流も阻止できた。重機を用いて、別の縦坑も開削した。少年たちとのコミュニケーションが出来るかもしれない。

外国のダイバーとタイのダイバー合わせて現在60名が、この救助作業に従事している。海外から参加しているプロの救助隊はオーストラリア、英国、日本、中国からで、その他に30名の米軍が投入されている。タイの救助隊1000名にとって貴重な助っ人だ。米軍の女性広報官は、天候は刻々変わる。状況も毎日変わる。天候が持ち直せば、作業はやりやすくなる、と語った。

少年サッカーチームが使用していたグラウンドは現在ヘリ離着陸用のヘリパッドとなり、重機の揚げ降ろしを行っている。

チェンライ県の全僧侶が地元学校に集まり、少年たちの安全祈願を唱え始めた。タイ王立海軍SEAL部隊の指揮を執る海軍少将は、少年たちを見つけ出すまで、作業は続行すると決意を語った。少年たちは、この洞窟を熟知している。水の来ない高台を避難場所として見つけているはずだ。頑張ってほしい。洞窟内部では、予備の酸素タンク、強度の強いロープ、LED照明灯を、“パタヤビーチ”と名づけた大広間の空間室まで設置する作業にかかっている。そこは高台の広い棚で、空気もたっぷりと確保できる。少年たちとコーチ13名は多分そこに避難しているだろう。



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06: 見つかった! 13名全員無事だ!

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 7月2日(月)遅く、チェンライ県の知事が奇跡のニュースを発表した。

洞窟入り口で、毎日毎晩、ほとんど不眠不休で、身を削るように心配していた家族に笑顔が戻り、大きな拍手が起こった。救出隊への感謝で涙が止まらない。奇跡のニュースが流れた瞬間、タイ全土が揺れ喜びの歓声が沸き起こった。

入り口から約4km奥の高台パタヤビーチに避難しているはずのWild Boarsは、そこには居なかった。そこはすでに水に浸かっていた。少年たちは、さらに300-400m先の高台に避難していた。一人も欠けずに13名全員がそこで生存していた。水が押し寄せる洞窟内で、食料もなく9日間も頑張り通すなんて奇跡だ。

冷静な救出隊にとって喜びは束の間だった。まだ予定の行動の中間地点に過ぎない。全員の生還に失敗すれば、それは糠喜びに過ぎない。真剣に計画を練り直す。まず彼らに飲料水、食料、それも9日間の絶食の後では固形物はムリだ、流動食・・。そしてダイビング出来る医者を連れてこなければならない。そして全員の身体的、精神的な、健康診断。それから彼らを地上に生還させる救出劇のプラン作り・・・

外野席の大喜びとは反対に、救出隊の苦悩は深まる。13名は山奥の出身だ。誰一人泳げる若者は居ない。ましてや、マスクを着けてのダイビングを知らない。とんでもない話だ。
消極的な最善策は、モンスーン雨季の終了する10月まで、この洞窟内で待機する。4ヶ月間も・・・?雨季はこれからさらに激しくなる、洞窟内は最も危険な場所だ。しまいには洞窟内の酸素濃度も下がっていく。消極策は消えた・・・

時間と競争するように結論を迫られる。現場のダイバーたちは喜びどころではない。次の難題に頭を悩ます。



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07: ヒーローは英国人ダイバー?

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真っ暗闇の中で、時間が何時か、日にちも分からない。洞窟に入ってからどのくらい日数が経ったかも分からなくなった。中にはウトウトする少年も、眠って体力を温存する少年もいる。何も見えない。天井から落ちる水滴が不定期の水音となってコダマする。水滴が身体にかかるとピクッとした。13名は離れず全員まとまっていた。何も見えないところで・・・

暗闇の一ヶ所がボーッと明るくなった。夜光虫だろうか? そしてトーチライトが出てきた。まるで夢を見ているようだ。ダイバーと気づくまで、何秒か掛かった・・。マスクを着けたダイバーは英語で話しかけてきた。

ここで、もうひとつの奇跡が起こった。英語が分かったのは13人の中でただ一人。しかも、流暢に英語を話した。このAdulという名前の14歳の少年がコミュニケーションの命綱となった。

英国人ダイバーはペアを組んで二人で潜った。これはダイバーの基本である。水中はどんな危険が潜んでいるか分からない。一人の体調に異変が起こるかもしれない。二人でペアを組むのは、基本の基本である。その英国人ダイバー二人がパタヤビーチからさらに奥に生存している13名の場所を突きとめた。

初めは全員を見渡せなかった。一人ずつ岩陰から出てくると、必死に1・2・3・・と数え始めた。間違えないように慎重に・・。13名全員を数え終えたとき、これは奇跡だと思った。これほどドラマティックな洞窟救出劇はかってない。全員の無事を確認すると、過激な任務が報われたと、力が抜けボーッとなっていった。

英国人Richard StantonとJohn Volanthen二人のダイバーの物語は、タイ全国を駆け巡った。いや、そうではない、世界中を駆け巡った。タイ王立海軍SEALのFB公式ページは、この二人と少年たちとの遭遇をビデオで流した。このビデオは何百万回と世界中で視聴され、今も記録を更新しているという。便利な世の中になったものだ。ワタシは見ていないが、実にアリガタイ。世界はこの二人を英雄として賞賛した。

だが。とてつもないこの何百万回という数字よりも、Stantonが確認した13という小さな数字がいじらいほど貴重で、美しく輝いているような気がする。

この成功談の影には、目立たないがタイ当局の必死の工作がある。山頂近辺の水の流れを迂回させ、洞窟内の水位をコントロールできたからだ。

この英国人ダイバーは、このヒーロー扱いをキッパリと断った。そして付け加えた、「普段やっている、非常にユニークな技術を活用しただけだ。それがこの地域社会のお役に立てて嬉しい」と。

このメルマガでは、英国は老獪と口を酸っぱくして罵るが、それは英国の政治であり政治が対象である。国民のひとりひとりは千差万別である。このダイバーのように謙虚で物事をわきまえたナイスガイもいる。



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08: Thai Military Diver Dies as Window for Cave Rescue Narrow

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7月7日付GNLM紙国際ニュース面の見出しである。11歳から16歳の少年たち、そして25歳のコーチもダイビングの経験はない。それどころか泳ぎすら出来ない。だが、モンスーン雨季が終了する10月まで洞窟内で待機する案は脱出作戦に切り替えられた。山岳地帯の天候が不安定で、避難棚の酸素濃度も落ち込んでいる。ドクターが付きっ切りで少年たちの健康をモニターしているとはいえ、すべては時間との闘いとなった。だが、まだ脱出方法が確立していない。プロたちの意見が錯綜している。

SEALのプロのダイバーが推測するところ、洞窟入り口から少年たちの避難場所まで狭いトンネルや難所を潜り抜け、総行程6時間掛かったという。ダメ押しするが、これはプロのダイバーの時間である。そして、同じ道筋を辿って帰りは5時間掛かるという。繰り返すが、プロの技能を持ってして往復11時間の行程となる。少年たちというよりも、プロのダイバーに果たされた使命はこの5時間が対象となる。彼らはこのチャレンジを“ミッション・インポシブル”と名づけた。映画の題名からとった「実行不可能なミッション」である。

このトリッキーな難所は、準備された脱出路のアチコチに潜んでいる。周到な準備は、その道筋に沿ってロープとLEDライトが張り巡らされ、マサカのときの酸素タンクも予備として配備された。だが、水中に潜ると“カフェラテ”とあだ名されるほどの泥水である。それでも時間が無い。選択の余地はない。待った無しだ。王立海軍SEALの司令官は決定した。

その入り口に戻る途上で海軍生え抜きのダイバーが死亡した。上記見出しの通り、脱出難路にはWindowと呼ばれる狭い通路がいくつも潜んでいる。そこで苦闘するうちにタンクの酸素を消耗し、息き切れたという。SEALの公式FBによれば、彼はトライアスロンにも参加し、ダイバーとしての技能も優秀であった、とされている。この悲劇も世界中を駆け巡った。

ここでまた動揺が走った。プロのダイバーでさえ越せなかった難所を未経験の少年たちに挑戦させるのは無謀ではないか?しかもプロ時間で5時間の長丁場である。もう一度見直しが始まった。慎重には慎重を期した。ひとりひとりにマスクの着け方、酸素ボンベのパイプを口に含み、息を吐き息を吸う、基本を徹底的に叩き込んだ。不安な子供には練習をまた繰り返した。だが、サッカーというスポーツで鍛えたのだろう。勘所と適応能力は抜群だった。しかも、団体スポーツの仲間ということで、ひとつの目的に向かってまとまる、オール・フォ・ワンの精神も見上げたものだ。だから、奇跡を生んだのかもしれない。

一人の少年に二人のダイバーが随行する。前にひとり、後ろにひとり、信頼の置ける超エリートのダイバーが誘導してくれる。だが、全員が列車のごとく続いていけば、一番手がトンネルで時間をとられると、二番手は手前で信号待ちとなる。待つ間も貴重な酸素タンクは消耗していく。プロはその待ち時間も計算する。信号待ちは時間のロスで、タンクのロスだ。もう一度、全員の出発時間を調整する。

全員一緒は無理だと判定した。最終的には、最初の日に8名の少年、次の日に4名の少年とコーチの計5名、という二組に分けられた。いよいよ脱出劇のスタートだ。これは第二組の例だが、海軍によれば、一番目の少年が避難場所を出発したのは午後5:40、そして四番目は午後8:00であった。たった四人でもこれだけの間隔を計算している。救出活動のプロの苦労と慎重さが読み取れる。



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09: Adul君(14歳)のエピソード

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覚えておいでだろうかAdul君を。コミュニケーションの達人である。なぜならば、彼は英語の他に、タイ語、ビルマ語、中国語の合計4ヶ国を操れるという。しかもたったの14歳である。だから、英国人の代わりに中国人のダイバーが出てきても、この14歳は対応できたのである。

タイでは英語が話せるのは人口の三分の一以下といわれている。だから、彼が英国人ダイバーと最初に会話したとき、そして他の少年たちにタイ語で通訳したとき、タイのFB視聴者は彼の礼儀正しさと、英語能力を絶賛したという。

「私の名前はアドゥールです。健康状態は良好です。今日は何日ですか?」この痩せこけた14歳の少年はイギリス人ダイバーに叫んだ。そして体の全面で手を合わせるタイ式の挨拶をした。この少年の学校の先生は、「この生徒はどの先生にも出会うと、必ずタイ式の挨拶をする非常に礼儀正しい少年です」とAFPに語った。

実はこのAdul君はミャンマーのシャン州WA自治区で生まれである。14歳まで両親に育てられ、まともな教育を受けさせたいと、両親はAdul君を7歳のときにタイ北部のキリスト教教会に預けた。そこでキリスト教の教師に育てられた。だが、両親は今でも時折同君を訪ねるという。

ところがAdul君は大きな問題を抱えている。出生証明証も、IDカードも、パスポートも所有していない。だから、法的には結婚も、就職することも、銀行口座を開設することも、海外はもとより国内旅行も、土地・家屋などの財産を所有することも、投票権も無い。いわゆる無籍国Statelessという法律の合間に漂う浮き草である。何の保障も無い。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、このような無国籍状態の人々はこのタイ国に400,000人いるという。海外の調査機関によれば、桁違いの3,500,000人になるという。

今メルマガ原稿を書き始めた、今日7月18日のミャンマータイムズによれば、今回救出された内で、Adul君を含む3名の少年とコーチの合計4名が無国籍の状態に置かれているという。Wild Boarsのヘッドコーチがインタビューに答えている。同チームには合計70-80名のメンバーがいる。その内、約20名が無国籍の不安定な状態だ。

世界を感動させた脱出劇で、マンチェスター・ユナイテッドをはじめとするヨーロッパのプロサッカー・チームからWild BoarsへのEUリーグ観戦の招待が舞い込んできた。だが、実質上Adul君をはじめ4名はチェンライから離れることは出来ない。タイお役人の話だと、2024年までには改善するとのことだが、そんな悠長なことはいってられない。

ヘッドコーチは彼らが今回のドラマで世界の脚光を浴びたこの機会に、彼らの不安定な身分を解消するキャンペーンをマスコミにお願いしたいとアピールした。今回、洞窟入り口に集まったメディアの数は1000社を超えた。

Adul君はそんな人生に臆することなく、ピアノとギター演奏が大好きなサッカー少年である。



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10: 最後に

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今回の感動のドラマはEUのプレミア・リーグのみならず、米国のハリウッドにも波及している。すでに、一部のプロデューサー、シナリオライターが動き始めたとのウワサも飛んでいる。

米国の目立ちたがり屋のドナルド・トランプという人物からも彼らを賞賛するメッセージがTweetされたという。

このメルマガでは、悲劇的な一人の犠牲者を出したものの、プロの叡智を寄せ集めて、皆で協力すれば、不可能も可能になるとの教訓を得た。今、世の中はお金、お金、経済、経済という異常な価値観で動いている。この二つしか口に出来ない輩が、世界の指導者として君臨している。それを戦争や紛争の無い世界に転用できる政治家は出ないのだろうか?
スーチーの国内統一の和平会議はそれを示唆しているような気がする。

明日7月19日(このメルマガの発行予定日でもある)は、アウンサン将軍暗殺のMartyr Day殉難者記念日の国民休日である。ミャンマー全土で今年は大々的な行事が行われる。気兼ねなくアウンサン将軍の偉業が称えられるということは、スーチー政権の基盤が年々強化されている証だ。経済・経済の皆様には不満がおありだろうが、国内統一の和平が実現して初めて国家の安定および発展は実現されることだろう。


追伸:ミャンマー出身のAdul君物語で、「ミャンマーの今・・」ご勘弁ください。



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