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<ミャンマーで今、何が?> Vol.271
2018.10.9

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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━━【主な目次】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■浮世絵と印刷業

 ・01: 盲千人、目明き千人

 ・02: “UKIYOE”の世界

 ・03: グーテンベルグか浮世絵か?

 ・公式ツイッター(@magmyanmar1)


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01: 盲千人、目明き千人

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世の中には、道理や物事をわきまえた人もいれば、分からない人も、それぞれに公平に千人ずついる。目明きだといって優越感を持ったら、大きな間違いだとする、人生を達観したコトワザでもある。

今では死語かもしれないが、日本では、「いろはカルタ」を子供の頃に覚えた。最初は意味も分からずに口真似で唱えた。だが、それは人生の機微を教えてくれた。カルタというゲーム感覚で子供に教えたところがミソだ。日本独自に発達した見事な教育方法である。しかもココで学ぶ内容は、死ぬまで適用される人生の教訓である。だが、この偉大な教育方法は日本から消えてしまった。そして潜在能力として子供が秘めていたキャパシティを殺す受験教育に取って代わられた。

このコトワザは、目明きは物事を見ているようで、その本質をまったく見ていない、とも解釈できる。日本語は欧米語と異なり、科学的に白黒をつける道具ではない。むしろ、曖昧さの中にこそ、伸び代(のびしろ)を隠している。72歳の身で佐渡に流された世阿弥は、その墓のありかも不明だが、秘伝書「風姿花伝」の中で、“秘すれば花”と舞台芸術の真髄を語っている。驚くことに、西暦1400年ころにこの書はまとめられている。英国人が誇るシェークスピア誕生150年前の話である。

盲(めくら)と目明き(めあき)は差別用語ではない。身体的・精神的弱者を指す言葉が一時追放され、何でもかんでも平等に扱う風潮があった。だが、この例えは、世の中には盲も大勢いれば、目明きも大勢いるという真の平等観を表しており、むしろ、目明きの中にこそ、真実が見えない盲が大勢いると皮肉っている。シェークスピア的な表現を、日本では童子の時代から養っていたとも、言えるのではないだろうか?

あの本は読みましたか?あの映画は見ましたか?と問うと、読みました。見ましたの答えが圧倒的に多い。だが、一歩踏み込むと、その内容を語れない。又は知らない日本人、ミャンマー人は大勢いる。つまりは名前だけの見栄っ張りが多い。俗世間を生き抜くコンビニ的知恵なのかもしれない。

誰に対してもそうだが、「対話」にこだわると、そのことがより鮮明となってくる。
ソクラテスのおじさんは、「対話」によって相手の無知を認識・自覚させた。知っていると装っていたが、キミは何も知らなかったんだネということを、徹底的に追求していった。いやな性格だが、ソクラテスの凄さは、ソコがすべての出発点と見抜いていた。

日本に帰ると、カルチャー教室の案内に溢れている。

コンビニ並みの手軽さで教養が身に着くという。ホンマカイナ!

ドリーム・カム・トゥルー・英語クラブも、ゼロからの出発を意図する。だが、見栄でガードを固めた若者で一杯だ。若者ですら、見栄という生活の知恵を身につけている。だから、低年齢になればなるほど汚染されておらず、ゼロからの出発が容易である。ダメなのは私などの高齢者だ。それを分別ありそうな顔で誤魔化すから、なお始末が悪い。



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02: “UKIYOE”の世界[

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前から興味の対象であった浮世絵の本を新書・古本合わせて10冊ばかり、ヤンゴンに運び込んだ。その中の青幻社発行「北斎漫画」1江戸百態2森羅万象3奇想天外、はヒマさえあれば眺めている。この「北斎漫画」はお弟子さん(英語に訳すとトランプ好みの“アプレンティス”である)に教える“絵手本”として、編まれたものらしい。

その題材に「象」というのがある。盲らしき人物が象のアチコチにしがみつき、そして撫で回している。巨象の頭、背中、お尻にも四人が這いつくばっている。巨象の向こうは見えないが、合計11名の盲人が描かれている。巨体を誇る象の目が迷惑そうなのが好い。勝手に「盲人、巨象を撫でる」と名付けて、お気に入りの一つにしている。

この絵手本の初偏を手がけたのが北斎55歳のときで、73歳にして絵のことが少しばかり分かってきたと書き残している。それからは画狂として益々没頭し、その探究心は留まるところを知らない。人生で生きる年齢を超越している。この画狂老人の生き様は、無限の想像を掻き立ててくれる。

ひとつにはアノ時代、すなわち19世紀初頭の日本で、エレファントという動物のイメージが、北斎の頭脳の中に生存していたこと。ここは読者のお許しを願い、この巨象はビルマ産と独断で決め付けたい。「ビルマの日々」を著したジョージ・オーウェルにも、モーラメインでの想い出として“象を撃つ”という短い短編があった。だから、決して検討外れではない。

さらに余談を追加すると、モーラメインで警察署長だったとき、オーウェルは耳の数インチ前方に象の脳はあると信じて射撃した。だが、完全に息絶えるのに、象は数時間苦しんだという。地元モーラメインの猟師は、これは惨い狩猟だとオーウェルを非難する。猟師によれば、右の目と左の耳は直結し、左の目と右の目も直結している。この二つのラインの交差点が象のブレインで、ここを狙えば象は一瞬にして絶命するという。動物愛護などという言葉の存在しなかった時代、猟師とは言え、いや猟師であるからこそ、動物に対する優しさが滲み出たエピソードである。

この話はEMMA LARKIN著”FINDING GEORGE ORWELL IN BURMA”に詳述してある。英国動物愛護協会のメンバー諸氏に一読をお勧めしたい。

エンマ・ラーキンはアメリカのジャーナリストでペンネームである。彼女はロンドンのオリエンタル・アフリカン・スクールでビルマ語を学んだ。この本はミャンマーの現代史をエレガントに深追いしている。ミャンマーに興味を抱く日本人にも是非ともお勧めしたい。欧米人やユーレイシア人が歴史的にどれほど深くビルマと関わり合ってきたかが見事に描かれている。この本を読まずに、NHKがスーチーにインタビューを試みるなら、大恥をかくことになるだろう。

イケナイ、イケナイ、話を北斎に戻そう。

6歳の頃より模写が好きだった北斎は、森羅万象を対象とした。それは年齢を経るに従い、画題の対象は留まるところを知らず、妖怪の世界にまで踏み込んでいる。しかも、老境に入ってからの北斎ワールドは、現在のディズニーランドやユニバーサル・スタジオをはるかに飛び越えたものだ。浮世絵は本来、役者絵や美人画が主体だった。そこに「冨嶽三十六景」など風景画という新ジャンルを持ち込み、旧思考を完全にブレークスルーしている。

特にこの風景画では、画家の魂は何物にも囚われず天地の空間を飛び回っている。ということは、この大天才の心が変幻自在ということだ。現代語に訳すと、GPSも無い時代に、この大天才はドローン偵察機で自由自在に飛び回っていたことになる。遠近法などというチャチな技術論ではない。

レオナルド・ダ・ビンチは腕と脚で羽ばたきする装置を考案した。だが、それは想像力の象徴で終わった。北斎は富士山を遠景に置き眺めるかと思うと、次ぎには自在に天空から眺めている。今日、ドローン機の世界市場は中国が押さえたと、数日前のGNLM紙で報じていた。北斎の太っ腹なところは、中国のドローン機製造メーカーに対して、米国FBIのようなミミッチイ知的所有権など申し立てしていないことである。

それでいながら、北斎漫画は幕末から明治にかけて、ヨーロッパで大人気を博し、ジャポニスム旋風を巻き起こした。そのひと昔前の1832年、シーボルトは日本から帰国後、日本紹介の“NIPPON”という大著を出版している。その本の挿図として、お抱え絵師の川原慶賀に「北斎漫画」の風神雷神などを肉筆で多数模写させている。

この川原慶賀については、メルマガ・バックナンバーVol.215(2017.5.16)で、少しばかり触れている。

北斎の型破りと言える奇抜な画風は、西洋の画家に衝撃的なショックを与え、クロード・モネ、エドゥアール・マネ、エドガー・ドガなどの有名 画家が、北斎の構図など多くのヒントを得てコピーしている。中でもビンセント・バン・ゴッホは北斎に夢中であった。だが、これらに対しても、北斎は著作権違反などとケチなことを言った形跡はない。

だが、日本人の情けないのは、これら“UKIYOE”が西洋で評判となってから、“浮世絵”の真価に気付いた。最初は、日本製陶磁器の輸出用梱包緩衝材として、浮世絵は使用されていたという。

この浮世絵だけを取り上げると、日本の大衆芸術を理解できないどころか、浮世絵が引き起こした西洋とは異なる日本の産業革命を見誤ることになる。

浮世絵版画は、絵師、彫師、摺師という技術屋と、企画・製作・販売を総括した版元との、総合芸術である。

出発点として北斎のような絵師が存在するが、彫師とは木版で原版を作り、摺師とは多色刷りなどで刷り上げる印刷・製本屋のようなものだ。さらには今でいう企画広告会社を兼ねた出版会社ともいえる版元がいた。この総合ネットワークは、ハリウッドの映画製作を先読みしたもので、大ビジネス集団である。だから、北斎の芸術活動は、江戸中期から後期に掛けて、すでにジョージ・ルーカスやスティーブン・スピルバーグを上回る規模で展開していたことになる。

「盲人、巨象を撫でる」のひそみに倣えば、北斎は日本における印刷業の開祖みたいなもので、総合芸術の大プロデューサーとも言えるだろう。



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03: グーテンベルグか浮世絵か?

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印刷業とは、実は、その国の文化のバロメーターである。バビロニアやエジプトでは、書記官が手書きで歴史を書き取った。それがパピルス、石版画、銅版画などを経由して、ドイツのグーテンベルグに繋がっていく。彼の最初の印刷は“聖書”であり、教会の免罪符も印刷したという。西洋人の歴史の発展は、結局のところ一神教の“神”頼みであった。
日本の印刷業は、宗教宣伝の下請けではなく、一般大衆の浮世絵文化に根ざしたもので、まったく自由奔放な発展を遂げていった。しかも、そのレベルと構成は西洋人がショックを受けたほどの質の高さであった。質だけでなく、量においても、百花繚乱で、絵師の数でも欧米のそれをはるかに上回ると思われる。そして同様の技法で発達した瓦版は、量産を目指し、新聞事業に発展していった。

北斎よりチョッと後、すなわち江戸後期に活躍した、寛政の三奇人(林子平、高山彦九郎、蒲生君平)のひとりである林子平は、海防の緊要性を説き「海国兵談」を著した。外圧に対する先駆的著述である。同書は幕府体制を揺るがす危険の書として版木・製本は没収され、投獄され、不遇のうちに獄死した。この林子平も先見性ある国防評論家で、印刷・出版業者でもあった。

その辞世の句が「親も無し、妻無し、子無し、版木無し、金も無ければ、死にたくも無し」と人生を皮肉ってこの世に別れを告げた。

この辞世の句には六つの“無”が読み込まれている。その意気(粋でもある)を無断借用したクラブがヤンゴン川近くの「クラブ60」である。そのクラブを三人組みの日本人がベトナム・佐賀・横浜から今週後半訪ねてくれるという。その一人がレア・ブックである林子平の伝記本を探し出し持参してくれる約束だ。これで印刷業関連の最後のジグソーパズルが揃う。ありがたい。

MR.佐賀賢人殿、ついでにお願いです。
ANAの機内誌「翼の王国」も当研究所の貴重な資料です。恐縮ですが、この10月号も持参願えるとありがたいです。ご参考までに、ご自由にお持ち帰りください、と表紙に案内してあります。

ということで今週からは、英語音楽教室の資料整理に移っていける。
そこで、大橋巨泉なみのスキャット、ハッパフミフミを思い出した。そう言えば、このズビ・ズビ・ダーの駄洒落はどこかに書いてあったと本棚を漁ってみた。

カート・ボネガットの「デッドアイ・ディック」に出てくる。
とある米国内飛行場のトイレのタイルに落書きしてあったという。 

“To be is to do”(ソクラテス)
“To do is to be”(ジャン・ポール・サルトル)
“Do be do be do”(フランク・シナトラ)

お後がヨロシイようで・・・



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