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<ミャンマーで今、何が?> Vol.296
2019.1.23

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━━【主な目次】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■海賊版DVD“AMAZING GRACE”の秘密−その5

 ・19:波状攻撃を仕掛ける巧妙で老獪なダンダス議員

 ・20:ウィルビー議員、またもや闘いに敗れる

 ・21:八方塞のウィルビー、活路はあるのか?

 ・22:転機はどちらに転ぶ?

 ・公式ツイッター(@magmyanmar1)

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・19:波状攻撃を仕掛ける巧妙で老獪なダンダス議員

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ダンダス議員はウィルビー側に立つ人物と、同グループの誰もが信じていた。
だが、百戦錬磨のフォックス議員は騙されなかった。

ダンダスは買収され寝返ったと、事態を冷徹に見透し、最大の権力者ピット首相を動かした。

複雑なのは、フォックス議員自身が、敵陣営を裏切り、今はウィルビー側の強力な同調者となっていることだ。
この狸オヤジは、ダンダスの後ろには、彼が自由にコントロールできる34名の国会議員の票があることに、警戒を強めていた。

そして国会が再開されたのである。

「オーダー!オーダー!」議長の声が議場内にこだまする。
最初に手を挙げたのが注目のダンダス議員であった。

「明確にしておきたいことがある。長いこと考えに考えた。そして多くの人に相談をした。その結果、奴隷貿易の廃止に賛成することにした。人間そのものを取引材料とするのはまったく誤った不道徳で、国家の不名誉である」

ここで、安堵の喜びがウィルビー陣営に走る。
ピット首相の脅しが効いたのかもしれない。

ダンダス議員の演説は続く。「だが、リバプールの名誉ある友人たちに、指摘しておきたい。この奴隷貿易を明日から直ちに違法としたならば、この国の多くの大都市と産業界に経済的な大恐慌が生じる!」

何を言いたいのだと、ウィルビー陣営に不安が走る。
そしてタールトン陣営はニヤリとする。
議場はまたしても騒がしく混乱状態となる。

ダンダス議員も役者である。
周りをゆっくりと見回し、少し静かになった瞬間を捉え、大声を張り上げる。
「そこで私が提案するのは、奴隷貿易廃止に関して、反省・熟考する期間を設けることだ!」

憮然と立ち上がりウィルバーフォース議員が感情的に反論する。
「一年半という長い時間を掛けた枢密院調査の末に、何を熟考するのだ!採決を遅らせて何の得がある?」

「私が主張したいのは、奴隷貿易の廃止は徐々にゆっくりと施行するということだ。暴風雨で多くの船が沈む。だが、我が国家という大船は、その目的が善意ではあれ、絶対に沈めてはいけない!」タールトン陣営の大喝采を受け、ダンダス議員は自分の席に悠々と腰を降ろす。



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・20:ウィルビー議員、またもや闘いに敗れる

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ピット首相以下、ウィルビー側は唖然とした表情で、声も出ない。
何度味わった屈辱だろう。ウィルバーフォース議員はまたもや敗北した。
不屈のウィルビーとはいえ、今度は絶望的な、立ち直れないほどの敗北となった。

薄暗い夜のウィルビー事務所に画面は変る。

大勢でにぎわった事務所も今は誰もいない。
ウィルビー一人が、無残に終わった書類の始末をしている。
そこへ馬で駆けつけたトーマス・クラークソンがドアを開け、入ってくる。

「トーマス、連中は我々よりはるかに頭が良い!」仕事の手を休めず、ウィルビーが自分に諭すようにつぶやく。
「だが、国会の外のムードは我々の側に付いている」クラークソンが応える。
「それが何の役に立つというのだ」と、ウィルビーは束になった書類を机に叩きつける。

「フランスには僕の友人が何人かいる。我々のカウンターパートナーズでもある。信念を持ち続け、まるで君と僕のようだ!彼らのもたらす情報は良いニュースばかりだ」
「どんなニュースだ?」
「革命だよ!!」

怪訝そうなウィルビーに、クラークソンが説明する。
「革命は確実にやってくる。パリでは人民解放について、路上でひとびとはおおっぴらに話している。すべての男たちが自由になると!女性も同様だ!!」

「アメリカ人が、ボトルのコルクを抜いたんだ、ウィルビー!そして今、フランス人が同様にワインの栓を抜いた」

ウィルビーが険しい表情で、静かに反論する。
「君は革命を、いかにも安全なものとして捉えている」
「それは言葉の上だけだ」とクラークソン。
「我々は、程度の差はあれ、何かを変革している。教育についても、工場についてもだ」

「程度の差だと!君の話を聞いているとまるだダンダス議員のようだ!徐々に、ゆっくりと!と」クラークソンが吐き捨てるように返す。
「不完全な法律でも、ないよりマシだろう!」ウィルビーが応える。
「不完全ではダメだ!我々はパーフェクトな法律のために闘うべきだ!」とクラークソンが体を震わせて激しく反論する。

驚いたようにウィルビーがクラークソンを見つめて言う。
「私は国王に対して忠誠を誓った!」
(*この意味は、英国国王の転覆までは考えていない、という意味だ)

「ウィルビー!君は僕同様に分かっているはずだ。国王は完全に気が狂っている。樫の木と握手したり、望遠鏡でドイツが見えると口走ったりしている。君が主君に忠実なのは知っている。だが、腹の底では、君は我々の誰よりもはるかにラジカルだ!そして自分が一番正しいと知っている」

激高したが、クラークソンは冷静となり、理詰めでウィルビーに説明する。
「我々が奴隷について語っているのは真実で正しいことだ。その状況は紡績工場でも、鉱山でも同じだ。彼らは本当に自由で、繁栄を楽しんでいると思えるかい?」
クラークソンの言葉は正論で筋が通っており、さらに続く。

「労働の果実は、労働者自身が刈り取るのではなく、タールトンのような寄生虫に横取りされているのが現実だ。ダニのような連中は、その金を売春宿や、コミック・オペラの鑑賞に費やしている。若い娘たちが身売りして、売春婦になっていく。兵隊たちですら、物乞いをしている。それがダンダス議員の言うように、ゆっくりと自然の波となって、社会を壊滅させていく!友人のウィルバー!目を覚ませ!」

ウィルビーは深刻に考える。ひと言も発しない。
クラークソンが続ける。
「最初はボストン、それからパリ、次はロンドンの番だ!」

世界を知らないミャンマーの学生は、DVDの流れが急で、内容が複雑で、話が難しすぎる。
教養溢れる日本の皆さんとはレベルが違い、咀嚼できない。

イギリス議会の物語と思っていたのに、急にボストンが出てきたり、パリに話が移る。ボストンとは遠いアメリカのことではないか? ちょっとDVDを停めて説明してほしい。

ということで、DVDはストップした。
正直、ワタシ自身何一つ理解できていない。

百科事典を幾つかひっくり参照し、読み比べながら、1797年を中心とした世界情勢を整理してみた。

17世紀から18世紀前半にかけて、北アメリカ大西洋沿岸地帯に、イギリスによって13の植民地が建設された。その中心は合衆国北東部のニューイングランド6州。名前からしてイギリスの植民地そのものである。大英帝国も、気楽なものだ。

その中心をなす最大の港湾都市がボストン。
1773年にここで有名なボストン茶会事件が発生した。英語で“the Boston Tea Party”という。イギリス本国が課税する茶税法に反対して、ボストン市民がインディアンに変装して東インド会社の帆船(茶船)を急襲し、積荷の茶を海中投棄した事件。

これがアメリカ独立戦争の引き金となり、1776年7月4日にはイギリスからの独立を宣言し、アメリカ合衆国の母体となった。この13の植民地が独立十三州と呼ばれ、言ってみればアメリカの雄藩である。

ボストンはマサチューセッツ州の州都であるが、市内および周辺にはハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、ボストン美術館、特にその東洋美術のコレクションは岡倉天心の物語と共に世界に名だたるもので、ボストン交響楽団も含めて、アメリカでもこの地の教育・文化水準は世界最高レベルである。

話を戻すと、「アメージング・グレース」のイギリス人からすると、アメリカの独立戦争は、1797年からたった21年前の話である。

しかも、クラークソンがウィルビーに語ったように、アメリカの独立戦争は“革命”以外の何物でもなく、イギリスから逃げ出した下層階級の連中が、新大陸の植民地で、母国イギリスに対し謀反を起こし、国家転覆にも相当する大罪を犯したのである。

クラークソンが冷徹に分析したとおり、これは後で判明することだが、ピット首相もウィルビーもこの時点では、英国国王の首をギロチンに掛けるつもりはまったく無く、それどころか、国王への忠誠心を表明していた。

アメリカの“革命”は大西洋を渡った新大陸での話しだが、クラークソンの話では、それがドーバー海峡の向こうに霞んで見える隣国フランスも“革命”前夜だという。
これをクラークソンは、アメリカでは(バーボンウィスキーの)ボトルで祝杯を挙げ、フランスではワインのコルクを抜くと洒落たわけである。

話を元に戻そう。

クラークソンは「英国王の庇護の下にある、貴族、農園主、船主、そして腐敗した国会議員などによって若い娘や兵士が悲惨な目にあうだけでなく、国家そのものが崩壊していく、そして革命が起こると説いた。それが打ち寄せる自然の波で、ボストンがそれが起こった、今まさにパリでそれが起ころうとしている。次は確実にロンドンだ!ウィルビー!」

その言葉が重くのしかかり、ウィルビーは考え、考え、苦悩する。
だが、クラークソンが焚きつけるように過激にはなれない。

そこで苦悩の末、次の言葉を搾り出す。
「トーマス!私の前では金輪際、革命については話さないでくれ!」

トーマス・クラークソンは、落胆したような顔付きをするが、直ぐ気を取り直し、用意してきた旅行かばんを手に持ち「パリに行くことにするよ!」、そしてドアのノブに手を掛けると「どうだい、僕と一緒にいかないか?」と諦めきれないように誘う。「そこで本場のワインを飲むんだ!」こういうセリフが実に上手い。
ウィルビーは厳しい顔のまま無言で見送る。
そして場面が変る。



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・21:八方塞のウィルビー、活路はあるのか?

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ウィルビーは長いこと大腸炎の持病に悩まされてきた。それを騙し騙し、自分に鞭打ち活動を続けてきた。同志であるクラークソンの話は、深刻で、さらにウィルビーを苦悶させるものであった。
彼は神の敬虔なクリスチャンだが、ゴータマ・シッダルタが苦行に挑み自分の心身を苛んだように、ウィルビーも自分を徹底的に傷みつけた。
終には薪割りの最中、持病と苦悶で雨の降る中、卒倒してしまった。

今ここは、ウィルビー邸の館内。
ウィルビーはベッドに横になり頭を抱えている。
傍には医者が薬を調合し、親友のピット首相が室内を歩き回っている。

「問題は、ドクター、自分には肉体がないとウィルビーが信じている気配があります!健康にはまったく注意を払わないのだから!! 多分、肉体を離れた霊魂だけで生きていると勘違いしているのでしょう!」
医者も応じる。「多分、ロンドンを離れ、しばらく休養することですな!!」

調合を終え、医者がグラスに入った液体をウィルビーに薦める。
「これは何ですか?」
「Laudanum=阿片チンキですよ。痛み止めの!」

日本語ではopiateを安易に麻酔剤とか、催眠剤と訳すが、これは英語のスペルに痕跡を残すopiumに関連付けて“アヘン剤”と訳さないと、その危険性は伝わってこない。

だから、医者との会話でもウィルビーは「opiate?No!No!No!」と三度も強調して、その薬品の使用を拒否している。その理由として、朦朧となるのではなく、自分の頭はシャープにしておきたいからだと、医者に反論する。

ベッド脇に控えるビット首相が「だが、君には睡眠が必要だ!」と言うが、ウィルビーは「三週間後に、議会で僕の法案が提出されることになっている」と、アヘンの使用をキッパリと拒否した。

そこでピット首相はドクターにこの場を外すように依頼し、医者もアヘン剤のグラスをサイドテーブルに置き、首相の言葉にうやうやしく従う。

医者が出て行くと、ピットとウィルビーがベッドの端に座りあい、親しく真剣な会話がはじまる。
「君が最初にこの奴隷廃止法案を議会に提出してから、すでに5年が経過した」
「そのたびに、一歩前進、そしてまた一歩前進している」
「ウィルバーフォース、君が論壇に立たずとも、君の代わりに論陣を張れる議員は他にもいる」
「そんな議員がいるかい?誰がいる。ひとりでも名前を挙げてみろ。ピット首相!私が国会で唯一信頼できるのは君ひとりだ!」
「パリの大通りに大量の血が流れるとき、首相の私が、表面切って国王に反対することは許されない」ピットがその理由を説明する。「フランス共和国は一年以内に戦争開始を宣言する計画だ!」
「どこの国に対してだ?」ウィルビーが質問する。

「どこの国だって?そんなことも分からないのか?」首相はビックリした顔で、半分バカにした顔付きで、ウィルビーを激しく責める。「自分の抱える問題しか頭に無いんだから!今、国際情勢がどうなっているのか、ことごとくフランスに対抗する我々英国への戦争布告だ!!!」

「戦争が勃発すれば、野党は我々がウラで扇動していると批難する。戦争が起これば、すべての潮流は変ってしまう」と言い残して、ピットは部屋を出て行く。
またもや、ウィルビーの苦悶がはじまる。
サイドテーブルのアヘン剤を一気に飲み干す。



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・22:転機はどちらに転ぶ?

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我らが主人公ウィルビーは、何かに憑かれたように、非人道的な奴隷貿易廃止のキャンペーンを張り、絶叫するが、イギリスの世論は、戦争準備に追われて、ウィルビーの主張などに耳を貸さない。むしろ、ウィルビーが声を張り上げるほど、そのギャップは深まっていく。

ウィルビーには、バーバラと言う昔から彼の主張に共鳴し、陰に日向に応援する妙齢の女性がいた。
今でも、ウィルビーの傍近くで、落ち込んでいくウィルビーを特別の愛情を持って力づける。
ウィルビーの頭はピット首相が見透かしたように、女性との恋愛、結婚問題など、まったく眼中に無かった。

だが、この不運で惨めな男に転機が訪れる。
それは次回に!




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