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<ミャンマーで今、何が?> Vol.3
2012.7.24

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar


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■ミャンマー人の名前に家族名はないのか?
・ミャンマー語の発音
・ミャンマーの蝶々さん
・ミャンマーのミスターとマダム
・それでは家族名は
 ・世界で最も進歩した名前
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・ミャンマーで今何が?

<ミャンマー語の発音>

今回は最初から皆さんへの質問です。

ローマ字で“Kya”と書いて、なんと発音しますか?

普通に日本でヘボン式ローマ字を習えば“キャッ”と発音するはずである。

ところが当地では“チャッ”と発音するのが正式なミャンマー語なのである。その典型的なのがミャンマー通貨の呼称で“Kyat”と書いて“チャット”と発音する。“キャット”では間違いなのである。

そしてかの有名なDaw Aung San Suu “Kyi”もドー・アウン・サン・“スー・チー”である。

いくらアナタが彼女にのぼせあがっていても“好きー”と発音してはいけないのである。もうひとつお断りしなければならないのが、ミャンマーの人名は“・=中黒”で区切らず一息に発音するが、この場合は日本人に分かりやすいように音節ごとに区切りました。

それでは、その応用問題である。

今度は“Tokyo”・“Kyoto”と書いてなんと読むかミャンマー人に訊ねると、先ず間違いなく“トーチョー”・“チョート”という答えが返ってくる。これを聞いた日本人は目を白黒させ、この当りからミャンマーへの関心をさらに強める日本人と、分からないままでミャンマーにどっぷり浸かってしまう日本人とが出てくる。



<ミャンマーの蝶々さん>

人名でよくあるのが“Mr. Kyaw”、これも当然“チョーさん”となる。そしてミャンマーでは人名をダブって発音するとどうも耳に心地よいようである。だから“Mr. Kyaw Kyaw”という名前は非常にポピュラーである。当然“蝶々さん”である。

これからビジネスでミャンマーを訪ねる日本人にとって名刺の交換と相手の名前を覚えることが最初の大仕事となる。ところが、このダブル・ネーミングは日本人にとっても実に覚えやすく、そして耳に心地よいのである。だから、メールでも“Kyaw2”、“Kyawx2”と署名する人もいる。

たとえば、男性名でいうと“Ko Ko=コーコー”、“Nyi Nyi=ニーニー” “Maung Maung=マウンマウン”、“Htun Htun=トゥントゥン”、“Aung Aung=アウンアウン”、そして女性名でも“Su Su=スースー”、“Naing Naing=ナインナイン”、“Ei Ei=イーイー”、“Moe Moe=モーモー”、“Kyaing Kyaing=チャインチャイン”(元タンシュエ議長の夫人名)などなどこれから頻繁にお目にかかることだろう。



<ミャンマーのミスターとマダム>

さらに人名の話を続けると、成人した男性にはミスターの代わりに頭に“U=ウー”をつけ、結婚した女性には“Daw=ドー”をつける。そしてそれがすでに名前の一部として組み込まれているようだが、ミャンマーの輩出した国際人、元国連事務総長の“U Thant=ウータン”にミスターをつけて“Mr. U Thant”とするのはダブル敬称で本当はおかしいのである。日本では“ウータント事務総長”と発音するが、この最後の子音“t”は無音化して“ウータン”が、正式なミャンマー発音である。

日本人の感覚では、自分で“U=ウー”とか“Daw=ドー”と称するのは謙譲の美徳に欠ける気がするが、ミャンマーでは一向に構わない。むしろ正々堂々とこれを名乗る。中にはご丁寧に、たとえば“Mr. U Thant”とダブル敬称を名刺に印刷する人まである。この辺りを文化人類学的に解読すると、隣のインドでもそうだが大英帝国の植民地時代にご主人様(マスター)である英国人に否というほど自分たちはサーバントして使えてきた。それゆえに、痛めつけられてきた植民地に対する独立運動がこのミャンマーに芽生えたとき、この国の主人は我々であって英国人ではないという意思表示で、自分たちのことを“Thakin=タキン=Master=主人”と自称した。これが憂国の詩人“Thakin Kodaw Hmaing”であり、後のアウンサン将軍も学生時代に植民地支配に反対する政党Dobama Asiayone (我らビルマ連盟)に所属し“Thakin”と名乗っている。

したがって、ミャンマーの人たちが胸を張って“U=ウー”とか“Daw=ドー”とか自称するのは立派な自己主張なのである。

これのジュニアー版が“Ko=コー”であり“Ma=マー”である。だから、ヤンゴンのビアー・ステーションで若者のスタッフを呼ぶときには名前を知らなくても構わない、だれであろうと“Ko=コー”と呼べばよい。レストランの女性スタッフに注文するときも“Ma=マー”と呼んでメニューを持ってきてもらう。これは便利であるから覚えておくとよいでしょう。したがって、未婚の若者も例えば“Ko Kyaw Kyaw=ミスター・チョーチョー”と敬称をつけて自己紹介する。未婚女性であれば“Ma Su Su=ミス・スースー”と自分で敬称をつけて名乗る。

欧米の乱れた自由奔放な呼び方とは異なり、この東洋のミャンマーでは年長者と若者の区別は非常に大事で、この辺りの状況を把握できないと空気が読めていないことになる。だから若者は年長者に対して“U=ウー”とか“Daw=ドー”を連発しておけば先ず間違いない。そして年長者は目下の人たちに対して鷹揚に“Ko=コー”とか“Ma=マー”と対応するはずだ。この辺りの雰囲気が分かってくると、そこそこの店舗を構えていたり、ばりばりのビジネスウーマンだと、若い未婚の女性でも例えば“Daw Su Su”と印刷した名刺を堂々と示して、私はそこいらの若いオニーチャン・オネーチャンとは違うのヨというチョッピリ背伸びした意思表示も理解できる。

今年9月に米国を訪問すると発表した“Daw Aung San Suu Kyi”に再び登場してもらおう。欧米のマスコミでは、長いミャンマー語の名前をそのままに発音するか、あるいは“Daw”の代わりに“マダム”あるいは“Ms=ミズ”を敬称として使用しているようだ。

ミャンマーではその人との距離が親しいと名前を短縮する傾向がある。だから、この長い名前も“Daw Suu”とか“Mother Suu”・“Aunty Suu”と呼ばれることになる。あとの2つは“スー母ちゃん”とか“スーおばさん”という意味ではない、今では世界のセレブとなった彼女に対して失礼である。あくまでも“母上”あるいは“叔母上”などの目上の人に対する東洋的尊敬の気持ちがフィーリング的に込められている。

ここまで記したことはあくまでもビルマ人の話である。

シャン州の人たち、カチン州の人たち、カレン族などの少数民族と称する人たちもこれに準じたビルマ族とは異なる別の敬称を持っているのである。ミャンマーがどれほど多彩で豊かな文化に恵まれているかを感じ取っていただけるだろうか。




<それでは家族名は>

話を少しアップグレードしよう。

ミャンマーの出入時に求められるのが出入国カード。最初の名前の欄に“ファミリーネーム”“ファーストネーム”“ミドルネーム”を記入せよとある。英語で記入せねばならないので日本人でも戸惑う人はいるが、ミャンマー人はまったく困ってしまう。しかも、“ファミリーネーム”には下線を引けと書いてある。

実はミャンマー人にはファミリーネーム=家族名がないのである。下線の引きようがない。英語に堪能なスーチー議員でも例外ではない。自宅軟禁後初めての海外旅行となったバンコクへの旅、そしてノーベル平和賞を本人が正式に受賞した欧州への旅では、彼女は各国の出入国カードにどのように記載したのであろうか。


日本でも特殊な例を除いて“ミドルネーム”を持つ人はほとんどいないはずだ。すなわちこの方式はクリスチャンネームを“ミドルネーム”として使用する欧米人を基本とした慣習である。

話は飛躍するかもしれないが、人名ということで中国人と日本人の英語表記を比較してみよう。

例えば中国人の毛沢東という人の名刺には間違いなく“Mao Ze Dong”との英語表記があるはずで、一方の田中角栄という人の名刺には“Kakuei Tanaka”となっているはずだ。実際のところは田中さんと名刺交換したことがないので不明だが、ほとんどの日本人はこの方式を採用している。日本国内で日本人同士が自己紹介するときに“私はカクエイ・タナカです”という人は皆無だ。どうして、日本人の英語表記だけは日本国内では通用しない逆立ち現象が発生したのだろう。今の日本人は国際的になったというのか、名刺の名前表記は日本語と英語の併記となっていることが多く、その英語名の大半は逆立ち表記である。例えば、1901年8月3日土曜日に大文豪になる前の夏目金之助がその後「味の素」を発明した池田菊苗とロンドンのチェルシーにあるカーライルの家を見に行った。そこの気帳簿には“K. Ikeda”と“K. Natsume”と漱石の筆跡で署名されている。ということは明治34年のこの時点で、すでに日本人の逆立ち現象が確立していたものと思われる。


日本人の相手を立て、その方式を採用する、謙譲の美徳は結構なのだが、21世紀の今となっては日本国内では存在しない“カクエイ・タナカ”方式ではなく中国人同様に英語でも“Tanaka Kakuei”を押し通して、名刺の印刷もこれで良いのではと考えるのは、余計なお世話だろうか。

英語ではなく、中国語および日本語で人名を検索するときは、必ず“毛さん”や“田中さん”の姓で最初に探し、続いて“沢東”や“ 角栄”の名に入っていく。英米人の場合もまったく同様で、“ウィンストン・チャーチル”も“フランクリン・ルーズベルト”も辞書で検索するときは今度は逆立ちして“チャーチル”と“ルーズベルト”の姓から先に検索せねばならない。こうなってくると、英米人の人名順列も“チャーチル・ウィンストン”と“ルーズベルト・フランクリン”のように東洋式に変更したらどうだいと余計なお節介をしたくなる。

同様のことは、住所の配列も同様で日本では「東京都中央区銀座4丁目」となるところを、海外から絵葉書を発信するときはどうして「4-chome Ginza Chuo-ku Tokyo」と逆立ちの英米方式を採用するのかも日本人の不思議発見である。これも物事の配列としては東洋方式が遥かに勝っており、海外の郵政省に具申したくなるが、やはりこれもお節介なのでしょうね。

話がとんでもないほうへ迷走してしまいました。

ミャンマーへ話を戻しましょう。



<世界で最も進歩した名前>

これだけ長い導入部分を説明したのは。ひょっとしてミャンマーの人名命名法が、世界に類を見ない優れたネーミング法ではないのだろうかと考えるからです。欧米がすべてにおいて先進国であるとの誤った迷信が世界に流布されていますが、アメリカ人もミャンマー人もそう考えています。ですが、ネーミングに関してはミャンマーが世界一ではというのが東西南北研究所の見解です。

女性の社会進出著しいあの米国ですら、そしてお馴染みヒラリー・ローダムですら1975年にビル・クリントンと結婚すると夫の姓“クリントン”を名乗っている。ただし、学生時代から育んできた政界進出の強い意志と自己主張を押し通すために旧姓の“ローダム”を残すと宣言し、彼女の正式の名前はミドルネームを含めて“ヒラリー・ダイアン・ローダム・クリントン”とスーチー議員に負けない長い名前となっている。

このことは先進国の米国ですら今なお、家族名に縛られているということであり、日本の民法でも夫婦は夫または妻の姓いずれかを共通の姓としなければならないと定めている。そして夫婦別姓が論議を呼んでいる今、ミャンマーの名前に関する文化がもう少し脚光を浴びても良いのでは。世界で最も離婚の盛んな米国において、結婚して姓を変更して、離婚してまた姓を元に戻す。このように七面倒臭いことは、このミャンマーにおいては絶対に発生しないのである。いったん名前をもらったら、子供時代から慣れ親しんだ個人に属する唯一の名前を尊重して一生涯使い続けることができるのである。文化人類学による父系家族・母系家族でもない、家族に従属するのでもなく両親にでもない、名前による個人の独立が誰にも隷属せず確立できているのである。自分だけの名前を一生涯専有できるすばらしいネーミング方式がこのミャンマーではとっくの昔に確立している。

135に上る民族や言語、そして多彩な文化がここ熱帯のミャンマーでは咲き誇っています。ウーマンリブの方たち、男女同権論者の人たち、ミャンマーを少し詳しく研究してみてはいかがなものだろう。先進国といわれる国々が取り入れても良いような民族の知恵がたくさん眠っています。

例えば、ジェームス・ボンドが紛れ込んだ外交官たちの盛大なパーティでも、ミャンマー人に限れば正式にきちんと紹介されない限り、誰と誰が夫婦で、誰と誰がその子供たちで、姉妹・兄弟関係はなどというファミリーの家系図はまったく読みとれないのである。完全に独立した個人の人権が保障されていると言えるのではないだろうか。もちろんのこと、これがプラスに働くこともマイナスに働くこともある。

だが、家族単位で捉える場合にはこの方法ではやはり不都合が生じるのであろう。お役所仕事の提出書類では父親、そして母親の名前を書かされる場合も時たま生じる。

そしてミャンマーは地政学的に見た場合にインドと中国に挟まれており、歴史的に両国からの侵入を繰り返しており、血族として混血している場合もある。その場合にはインド系、中国系の家族の名前も併存して所有していることもある。

こうなってくると、日本ではお目にかかれないような複雑な名前構成で、複数のIDカードを所有していたり、別名で異なるパスポートを所有していることも無きにしも非ずということになる。


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