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<ミャンマーで今、何が?> Vol.302
2019.3.8

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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━━【主な目次】━━━━━━━━━━━

■一ヶ月間の休暇旅行

 ・01:天の原ふりさけみれば春日なる三笠の山に出し月かも

 ・02:ビルキチ

 ・03:ムスレムの会合

 ・04:ほろ酔い気分の日本旅行

 ・05:尻切れトンボのご挨拶

 ・公式ツイッター(@magmyanmar1)

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・01:天の原ふりさけみれば春日なる三笠の山に出し月かも

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イギリスの“老獪学”は実に奥行きが深い。

書物だけの理論学習では、不充分だ。

海賊版DVD“Amazing Grace”によってすとーんと腑に落ちた。だが、それでも不充分だ。
実際にそれを試す現場研修が必須だと、身に沁みて分かった。

ミャンマーの若者に、それらをどう伝達できるか、それを学ぶ旅行が、今回の旅の目的であった。

白状すると、旅行の目的地は、我が祖国“日本”であった。
“老獪学”の手始めとして、躊躇したが読者には目的地をワザと公表しなかった。お許し願いたい。

だが、愛する祖国“日本”は、“老獪学”の現場研修には最高の研修場であった。
これほど恵まれた環境は、世界中でも稀だろう。実にうらやましい。


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02: ビルキチ

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そのレポートを纏めようとしたが、アレもコレもとヤッテいるうちに、纏まりがつかなくなった。今回は久しぶりのメルマガなので、レポートは中断して、筆慣らしの漫談に切り替えたい。

時間を一月前のヤンゴン出発前に戻す。

屋根裏部屋の出来事である。ひとり女子大生が授業を受けに来ていた。いつもは優秀な娘で、素直な授業態度だが、今日はヤケに落ち着かない。盛んに、ケータイを覗いている。問い詰めると、もう直ぐ妹が来るはずだ、と言う。遅れているようだ。

しばらく経って玄関のドアがトントンと小さく叩かれた。
女子大生は失礼にもドアを開けてくださいと、年長者の私に頼み込んだ。
仕方無しに、ドアに出ると、“♪ハッピー・バースデイ・ツー・ユー♪”の大合唱がはじまった。続いて、生徒の何人かが、ゾロゾロと部屋に入ってきた。

先頭の妹が大きなバースデーケーキを両手で抱えている。

生徒たちの手際は素早い。

丸テーブルの上をさっと片付けると、その中央に大きなケーキを置いた。真ん中には赤い蓮の花がツボミのように挿してある。姉の女子大生が、ツボミの先端に火を灯すと、一瞬、間を置き、小さなローソクが八本ケーキの上で一斉に開花した。

そして全員で“ハッピーバースデイ!!”と手を叩いて祝ってくれた。

見事な手際だ。部屋の中がローソクの灯りで一段と明るくなった。
実にハッピーなサプライズであった。
目の前が霞んできた。日本男児として恥ずかしいことだが、涙腺がウルウルになってしまった。この年齢になると止めようがない。鼻をかんでごまかした。

どうもおかしいと思った。
彼らの一人が、私の誕生日を聞いてきた。暫くすると、もうひとりが、何歳になるとしつこく聞いてきた。

私の古臭いジョークを披露する。私は前の大統領テインセイン、そして今の国家相談役のド・スーと同じ年の生まれだ。それは広島と長崎に原爆が落とされた年でもある。だが、テインセインは4月生まれで、スーチーは6月生まれ、私は2月生まれで、この二人と比べても最長老に当たる。年長者を大事にするこのミャンマーでは、元大統領、現国家相談役であろうと、この年長の私には敬意を払うはずだ。

またしても、別の学生が再確認する。
それじゃ、今年の誕生日は日本ですね、と別の学生が聞いてくる。どうもおかしいと思った。それに気付かなかった自分も迂闊だったが、学生たちの悪巧みは、その時点で明らかに芽生えていたようだ。

彼ら自身は、英国の植民地時代を知らないが、祖父母から受け継いだDNAは、間違いなく孫たちに遺伝している。“老獪学”を知らないのは日本人だけで、彼らはすでに“老獪学”を実践していた。

親不孝の私は、母親の死を見取ったのが奇しくも私の誕生日である。
それ以来、自分自身の誕生日は厳重に封印して来た。だが、今回の祝福は素直にありがたかった。日本人がビルキチになる理由はさまざまだと思うが、私は新世代のビルキチである。若者たちには本当に感謝している。



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03: ムスレムの会合

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実は今回祝ってくれた学生たちは、カレン州パーアンに旅行した仲間たちである。
そのとき、高速バスの中で、学生の一人が知り合いだと、ある青年を紹介してくれた。

ムスレム系のジャーナル誌の編集者で取材に来たと言う。俄然好奇心が湧き、これはオモシロイと思った。ムスレムしては珍しいが、編集者は英語が苦手だった。学生が通訳してくれて、通り一遍の挨拶をして、ヤンゴンに戻ったら、また会いたいねと、彼とは別れた。

すっかり忘れていた。
この編集者がある会合に来ないかと我々二人を誘ってくれたと言う。
場所は中堅どころのホテルである。ゲストハウスより格上で、軍事政権時代、何度かスーチーの仲間たちが利用したところでもあり、前にも書いたがプロスティテュートを連れ込んだ日本人が問題を起こしたホテルでもある。

会合の趣旨は不明瞭だったが、このホテルのオーナーはムスレムである。
再び好奇心に火が点いた。

二つ返事で、この学生と行ってみた。受付でパンフレットをもらい、ホールに入ると、すでにかなりのイスラム教徒が着席している。装束からして男性も女性も上流階級と分かる。これほど大勢のイスラム教徒が男女揃って集まると壮観である。いつもは前の席に座るが、今回は全体を俯瞰するために後方の席を選んだ。バードウォッチングの要領で試算すると、参加者総数は200人から250人か?
あとからも続々入ってきたので、300人を越えたかもしれない。

壇上には10人ほどが、椅子に座り、そのうち2人が女性だ。本日のメイン・スピーカーたちで、順番に演台に立ち、何かを語り始めた。話し言葉は大半が彼らの言葉で、ビルマ語も混じっていると隣の学生が説明してくれる。でも諦めてはいけない。21世紀の今の世の中、時折英語が挟まれている。英語のプロを目指す学徒としては、ソコに集中した。

ロンドン、ニューヨーク、アフガン、バングラデッシュに出向き、イスラムのコミュニティと頻繁に連絡を取っているという学者先生の話もあった。メッカに何度も赴きカーバ神殿に巡礼した信者も何人かいた。彼らの言葉がウルドゥー語かベンガル語か分からない。だが、ペルシャ、ペシャワール、カイバーなどの地名は聞き取れる。

ミャンマーで成功したムスレムの実業家は多い。特に建築関係は圧倒的で、一大技能集団を形成している。ミャンマーのフリーメイソンと言って良いだろう。中堅ホテルのオーナーにもムスレムは多い。彼らは目立たずに商売を成功させるのが得意だ。目立てば潰される。これはミャンマーの伊呂波で鉄則だ。

伝説のストランド・ホテルを英国系と誤解している日本人は多いが、創立者はペルシャ第三の都市イスファハーンから移住してきたアルメニア人のサーキーズ兄弟である。シンガポールの超高級ホテル、ラッフルズ・ホテルを創建したのもこのサーキーズ兄弟である。そこのバーで名物シンガポール・スリングを飲み、札束を切っても、歴史を知らない日本人は老獪な英国人からはバカにされる。彼らのビジネスはミャンマーでもシンガポールでも常にロー・プロファイルである。

話を戻そう。

隣に白いヒゲを生やした爺さんが座った。英語は喋れるかと聞くと、少しはと答えてくれた。まずは「サラーム・アリコム」と挨拶すると、「アリコム・サラーム」と返してくれた。イスラム教徒かと問われたので、フリー・シンカーだと答えた。すると、達者な英語で、スピーチの合間に、今回の趣旨を小さな声で語ってくれた。この爺さんは日本人が忘れてしまった謙遜と言う言葉も知っている。

今日の寄り合いは、最近の新政府は反ムスレムの動きをとっているように思える。それに対してヤンゴンに住むイスラム教徒はどうすればよいか、という問題を話し合うために集まった、と説明してくれた。

無手勝流の私だが、右隣の学生、そして左隣の爺さんで、話がかなり見えてきた。
このホテルのオーナーが用意したというパサパサのサンドウィッチと紙パックのヤギの乳をこの爺さんが廻してくれる。この会合は本日夕方まで続くという。
彼らの組織が中途半端ではなく、具体的にかなり国際的であることも、はっきりと見えてきた。

私はいかなる宗教・政治に対しても偏見を持たないようにしている。
ノンポリのメルマガ編集長としては、ミャンマーの今を直視する上で、かなりの収穫があった。
そこで、白ヒゲの爺さんに(パサパサの)サンドウィッチとヤギの乳は美味かったと丁重に礼を述べ、午後の会合は失礼することにした。

外に出ると昼飯時である。友人でもある優秀な学生を誘い、評判の中華レストランに赴いた。
ウワサにたがわずミャンマービールと焼きブタは実に美味であった。白ヒゲの爺さんを招待できないのが、心残りだった。



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04: ほろ酔い気分の日本旅行

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私の日本行き旅行かばんは二個とも空っぽだ。友人へのお土産とする掘り出し物の海賊版DVDは手荷物として機内に持ち込む。そして、成田〜ヤンゴンへの旅行かばんは自宅の本棚からの書籍と古本屋で見つけた書物で、いつも重量制限ギリギリである。

今回もヤンゴンに戻る前日、浅草の浅草寺に行ってみた。
そこには両親・双方の祖父母の永代供養をお願いしてある。
だが、ご開帳は月一回の特定日であることをすっかり忘れていた。それではと、方針変更して「どぜうの飯田屋」へ行ってみた。11:30分から開店で、まだ早すぎる。外は寒いので中で待たせてもらっていると、女将がでてきて少し早めに座敷に上げてくれた。昼間の熱燗とどぜう鍋は最高だ。

ほろ酔い気分で電通院の裏を通り地下鉄に戻る途中で営業60年という古本屋を見つけた。場所柄か、私好みの落語師匠の演芸本が多数揃っている。中には、幕末・明治の英語学と副題のついた「日本英学のあけぼの」というオモシロイ本も見つけた。前野良沢も、フルベッキも、福沢諭吉、ヘボン、シーボルト、ジョン万次郎も出てくる。元の定価は1200円だが、値札は2400円。これは安い。中を読めば読むほど、英語のプロとして、これは買いだと思った。私のアディクションは死ぬまで直りそうに無い。

人間としても古本の部類に入る下町のおばチャンが店番をしていた。
「屋根裏部屋の床が抜けそうなんだが、面白い本は見過ごせない」というと、おばチャンは話に乗ってきた。世間話をしていると、背の高い西洋人が流暢な日本語で、この本は幾らですかと訊ねてきた。浅草は表通りも裏通りも、今外国人に占拠されてしまった。この西洋人の丁寧な日本語を聞いていると、単なる観光客ではない。日本文化にタップリ浸った西洋人である。時代がダイナミックに変っていることに気づく。

なんとなく国会中継をラジオで聞いていると、日本人の政治家だけが旧態依然のような気がする。それも逆行している。ダイナミックな時代の変革に気付かず、逆方向に日本を導こうとしている。危険な兆候だ。“Amazing Grace”の海賊版DVDを粉末にして煎じて彼らに飲ましてやりたい。

老獪な英国は、経済大国になろうとしていた1797年前後に、目先の利益には逆行する奴隷貿易を廃止した。非常に複雑な物語であるが、それによって英国は、奴隷貿易は人道に背く悪徳であると、歴史書にかろうじて名誉を残すことができた。



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05: 尻切れトンボのご挨拶

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今回は日本で学んだことを書こうと思ったが、あまりにも内容豊富で、纏まりがつかない。
ミャンマーの若者たちにも、どうやって説明したものか、頭の中が混乱している。

それから逃避するために、四六時中DVDを見まくっている。疲れると、持ち帰った本を片っ端から読みふけっている。ミャンマービールももちろん旨い。DVD三昧、読書三昧、そして冷えたビールで、酔生夢死となる。
しばらくはメルマガはお預けとなるかもしれない。

日本でお世話になった皆さんには、一部は礼状のメールを出せたが、まだ半分もこなせない。
その方たちには、“お世話になりました”と、この紙面を借りてお礼申し上げます。

中途半端な途中経過報告でした。



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