******************************

<ミャンマーで今、何が?> Vol.315
2019.6.28

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

******************************


━━【主な目次】━━━━━━━━━━━

■ラグビーから刑務所まで

 ・01:大西鉄之祐著「ラグビー 荒らぶる魂」

 ・02:スポーツ談義から戦争談義に!

 ・03:ラグビーの指導者は、教育の原点を語っている

 ・04:刑務所ツアー

 ・公式ツイッター(@magmyanmar1)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━



=============================

・01:大西鉄之祐著「ラグビー 荒らぶる魂」

=============================


前回はヤンゴンでの音楽会だった。
今回はスポーツの話である。
これも、話を無理矢理ミャンマーにこじつける老獪学の実践だ。

2019年の水祭り、ゴールデンウィークは、終わってしまえば、遠い昔の話だ。
だがその間、日本から持ち込んだ大量の書籍の一部を読了した。
その一冊に、大西鉄之祐著「ラグビー 荒らぶる魂」がある。

この赤表紙の岩波新書で、いつも気になっていることがある。
表紙をめくったところに、改めて表題の著者名、そして本のタイトルが印刷してある。
その全体を大きく四角のイラスト画で囲ってある。

その四角の角に、火が燃えているようなモヤモヤした塊がある。
よく見ると、吹き出した風のようである。しかも風神だ。
なぜ断定できたかというと、小さく、しかも虫眼鏡で見るほど小さく、書いてある。
右上から時計回りにeurus⇔⇔notus⇔⇔zephyrus⇔⇔boreasとなっている。

どうして私が落第人生を送ってきたか、お分かりいただけるだろう。
片っ端から英和辞書、国語辞書はもちろん、そして百科事典も引く。
こんなことをやっても学校の成績には関係しない。
世の中は知らないことだらけと認識し、その小宇宙に没頭する。

そうやって英和辞書を引くと、この4つの単語は:
順番に「東風」、「南風」、「西風」、「北風」を表す。
しかも古典の定番、ギリシャ神話の神様らしい。

大発見だ。「東西南北」研究所の出典はこれだと誤魔化すことも出来る。
言ってみれば弊研究所のゴッドファーザー(*名付け親)と空とぼけることも出来る。
特に軍事政権から、地獄の拷問を受けたときの逃げ口上ともなる。
頭の固い軍事政権が、このメルマガを、最も嫌う報道活動と勘違いした場合の備えだ。

ギリシャ神話を持ち出せば、逮捕されても西側のマスコミは支援してくれるかもしれない。
そうなってくると岩波書店様様だ。
ついでに最後のページ、裏表紙をめくったところに「岩波新書・・創刊の辞」が書かれている、それも熟読した。戦時下に、日本文化に寄与する意気込みを語っている。

同様の辞は、角川にも、講談社にも、その他文庫本を見ると、宣言してある。
日本文化がいかに懐深く、多様性があるか、見て取れる。

畏くも宮中晩餐会で、自国の歴史も知らないトランプに万葉集のレクチャーをさせるなどもってのほかである。岩波新書の一冊でも読んで、日本文化の奥行きの深さを勉強するよう、外交筋を通じて申し入れるべきではなかろうか。

話はまたしても逸れてしまった。
こうやって私の寄り道人生は、いつものことだが、肝心のラグビーの話まで辿り着かない。
落第人生には違いない。
だが、それを落伍人生と読み替え、さらには落語人生と翻訳し、それを楽しみたい。



=============================

・02:スポーツ談義から戦争談義に!

=============================


その調子だから、素直にスポーツの話とはならない。
寄り道が、私の人生だからだ。

著者・大西鉄之祐は早稲田大学ラグビー部の監督として、大学の対抗戦、そして実業団にも競り勝ち、たびたび全国制覇を成し遂げ、海外試合でも日本ラグビーの名前を世界に轟かせた。その著者が自分の半世紀を振り返ったのがこの書である。

同大学のラグビー部には部歌が二つある。ひとつは「北風」、もうひとつは「荒らぶる」である。何の関係もないが、枕に使用した「boreas=北風」がこの本に登場する偶然に。私はまたしても驚かされる。人生は至るところに一期一会の出会いがある。

私はヤンゴンに住み着き、何も知らなかったビルマ戦線の記事が、気になっていた。
だから、まさかのラグビーの本で、次の記事に出くわし、目が釘付けになった。

著者は「仏印(現在のベトナム)、タイ、マレーシア、シンガポールと各国を転戦した・・戦争に敗れたとき、僕はスマトラにいました、占領以来スマトラでは警備隊長をしていた・・、だからそろそろ年貢の納め時かなという気持もあった・・」と語っている。

そうか大西鉄之祐は「アーロン収容所」を書いた会田雄次と同年代だった、とラグビーとは関係ないところで私は感激してしまった。彼はビルマではないが、同じ時期にインドネシアでPOW捕虜収容所も経験している。

彼の話にこういうくだりがある。
「戦犯調査を担当する英軍少佐に呼び出された。自分の所属した部隊長について尋問された。『オマエの部隊長はオランダ人の女を囲い、虐待していたのではないのか?』居場所を含めて知っていることを白状しろという。偽証すれば絞首刑だという。しかし知らないと最後まで言い張った。尋問最後の日、切腹も覚悟して正装して尋問に臨んだ。」

大西鉄之祐の言う正装とは、早明戦に二連勝したときの記念のラグビーボールのメダルを腰につけることであった。
少佐はそれに目を留め「オマエはラガーマンか?と訊いた」。少佐も軍隊でラグビーをやっていたといって、ひとしきりラグビー談義に花が咲いた。ラグビー談義のあとで、「オマエの言うことを信じる」とこの少佐は言った。

このように話の分かる、英軍将校もいたということに私は注目した。

ラグビーは1823年11月、英国の名門パブリック・スクール、ラグビー校で、エリス少年の劇的プレーが起こったとされている。学校のフットボール試合でルールを無視して、ウィリアム・ウェブ・エリス少年が、突然ボールを腕に抱えて走り出したという。同校校庭のレンガ塀にはめ込まれた碑石には、サッカーからラグビーが誕生したエピソードが刻まれている。

とにかく切腹もせず、帰国してラグビー部監督として名を馳せた、その後の大西がある。

この書にもうひとつ付箋を付けた個所がある。
1987年の第一回ワールドカップで優勝したNZ代表のオールブラックス。
試合開始前にNZ先住民族マオリの勇壮な戦いの儀式「Haka」でも有名である。
1968年5月、大西は日本代表チームを引き連れてそのNZに遠征した。

試合後、太平洋戦争中に日本軍の捕虜となったNZの元軍人から次の手紙を受け取ったという。
少し長いが、そのまま引用する。

「僕は日本の捕虜となって、ひどい残虐な目にあった。僕の日本に対する憎しみは言葉に表せない。その憎むべき日本のラグビーチームがNZへ来ることを知った。僕はその日本チームをどんな気持で向かえればよいのか、ひどく煩悶した。しかし、僕はファイトに溢れたフェアなプレーを見せた、この試合を見て、今まで抱いていた終生忘れぬ憎しみが、今はすっかり流れ去った。このようなチームをつくり出す日本は素晴らしい国に違いない。僕の気持をぜひ日本選手に伝えてほしい」

この遠征チームが対戦したのが、オールブラックスJr。
ジュニアといってもレベルが高く、本体のオールブラックスが世界一なら、ジュニアは世界第二位だといわれるほどだ。

そのオールブラックスJrに、格下と見られた日本遠征チームがまさかの23対19で勝ってしまった。
NZ人は、日本の大相撲と同じく、ラグビーには熱狂する。このニュースは世界を揺るがした。
だからこそ、元日本軍の捕虜すらも日本に対するイメージを変えてしまった。



=============================

・03:ラグビーの指導者は、教育の原点を語っている

=============================


大西鉄之祐の哲学と言ったら良いのだろうか。
まだ、ひよこ同然だった日本のラグビーを世界が瞠目するまでに育てたのには、それなりの工夫と努力があった。

その中で、私が付箋を付けたところが何ヶ所かある。
「よく人の技術を盗めというが、これが一番大切ではないでしょうか。真似るのはダメ、僕は盗めといっている。上手いやつのを見てそれを盗む。選手が伸びていく、その上でそれが一番重要なことではないだろうか。それも感受性と非常に関係がある。感受性の強い天才みたいな人だと、パッと見たら、二日ほどで自分の物としている」

「例えば、カール・ルイスのような超人が走ると、それを一生懸命ビデオに撮る。あとで何ぼでも見れれますという。アホタレ、そんなもん実物と違うわい、と僕は言う。本物の訴える力と、映像の訴える力では迫力が違う。その本物の迫力を盗めと言うんです」

「戦法を持って指揮官の指揮で、全軍が動く。信頼とチームワーク、自己犠牲の精神が必要など、その限りにおいて、ラグビーは戦争と表面的には似ている・・、飛行機の編隊飛行などはラグビーにそっくりである」

「兵法常住の身、常心兵法の身を信条とし、例えば、トイレのスリッパを脱ぐにしても、後から入る人が履き易いように揃えて脱げ。それはパスを受け易いように投げる心に通じる。」

「練習をシッカリやるというのは当然だが、個々の選手が、練習に対する心構えと、態度を真剣に自らやっているチームこそが、本当の強さを発揮できる。だから、練習というのは僧侶の修行と同じだ、練習は修行だと思えと、常々学生たちに語っている」

戦後20年代には英国のオクスフォード・ケンブリッジの混成チーム、そして30年代になると、豪州、NZ、カナダ、英国などから海外チームがやってくるようになった。
だが、日本はぜんぜん勝てない。

日本のラグビーは伝統の精神的規範を守ることのあまり、すでに因習化し、技術的には固定化と画一化の方向を辿ってしまった。
私がこの本を買ったのは、1988年11月21日の第一版である。
21世紀の今読んでも、正に日本の現状ソックリではないだろうか。ラグビーの話ではない。

そこで大西は海外の原書を読み漁り、独自の理論をつくり上げていった。
その理論を練習に取り入れ、目標に向かい、技術を磨いていく。それを合理的に理屈に合った科学的にやっていく。ひとつの技術には何か理屈がある。科学的、合理的に練習をやって、そしてそれを実際のゲームで検証していく。

大西は早い時期から、日本のラグビーが外国勢とどう闘うかを熱心に研究していた。
体力の違いを充分に認識して、接近戦を挑み、サイドステップでタイミングをずらし、揺さぶり戦法でかく乱する、その積み重ねが、先ほどのオールブラックス・ジュニア戦に繋がっていくのである。

日本代表監督の日比野弘が若き学生時代を思い出す。
「早明戦の前には、タックルダミーに明治のジャージーを着せて練習をする。大西監督がオマエの対面は誰だと質問され、当時の超スーパースターの名前を答える。オマエはそれにタックルする時、どこを見ている。目を見てますと答える。大西監督は怖い顔をして、ヘソを見ろ!ヘソは動かないと教えられた」

元日本代表の主将・横井章は語る。
「試合中、監督は口出しできない。それがラグビーのルールだ。監督は試合中は全面的に選手を信頼した。勝つと、これは“君たちの手柄だ”と言ってくれた。教えたとおりに選手が動かず負けることもある。すると大西は、これは“監督の責任だ”と言っていた」

日本のチームは兵隊に教えるように一律に教えるので、あるレベルまでは強くなる。あるレベルまでは行くが、それ以上には行かない。それを越えれば勝てるのである。15人のメンバーの何人かの光る個性を見出し、その個性を伸ばしていくかはコーチーの仕事である。その才能を見出す能力を持ったコーチを育てていかねばならない。日本の教育は一様に兵隊教育にしてしまう。

この言葉はミャンマーの若者と共に学んでいると、奥行きが深く、グッと来る言葉である。



=============================

・04:刑務所ツアー

=============================


この作者はインドネシアでの戦争捕虜の話を語っている。
その関連で話すと、先日駐ヤンゴン・インド大使館の図書室からアンダマン・ニコバル諸島の日本軍占領時代の本を借りてきて読んだ。

1942年3月23日、日本軍艦の一隻からその首都ポート・ブレアに一斉射撃が始まった。
それは12時深夜から明け方の4時まで続いた。
ただし陸側からは一切応戦してこなかった。ただし、無線設備の整った施設で大爆発が起こった。

このあと、大小合わせて約320の島からなるアンダマン・ニコバル諸島で日本軍の残虐行為が行われるのだが、これは別の機会に譲りたい。

そして、帰り道で、マルコの酒蔵と看板を掲げた洒落たレストラン・バーを見つけた。まだ早い時間だったので、客は誰もいない。このマルコは当然、マルコ・ポーロのマルコである。そこを通り過ぎ、書店で“INSEIN CHRONICLE”という320ページほどの新刊を入手し、帰宅した。

実は、今、ヤンゴンの刑務所に夢中になっているところである。
同様に図書館から借りた“Living Silence”という本でもミャンマーの歴史が見えてくる。

この刑務所もスーチーの言うとおり複雑で、当初はビルマを支配した英国がビルマ全域に40以上の刑務所をつくり、反政府活動の学生たちを次々にぶち込んで行った。アウンサン将軍の仲間たちも多数ぶち込まれた。

だが、時代が巡り巡って軍事政権の時代になると、その刑務所がネウィン・タンシュエなどの軍事政権に反対する学生デモ、仏教徒デモを片っ端からぶち込んでいくのである。その代表がヤンゴン郊外のインセイン刑務所である。レンガ造りの建物は、これも立派なコロニアルビルディングである。そういえば、網走刑務所もレンガ建てだったはずだ。

その歴史を知らない欧米のマスコミはイギリス建築技術の粋であるレンガ建てを忘れて、軍事政権の残虐性のみを批難するものだから、歴史は歪曲されて、イギリスの残虐性は若者に伝わらない。

もう暫く資料集めに没頭するので、上手くまとめられれば、刑務所ツアーにでもご案内したい。


========================================

公式ツイッター(@magmyanmar1)

========================================


<ミャンマーで今、何が?>の公式ツイッター(@magmyanmar1)をはじめました!


今月よりアカウントを取得し、<ミャンマーで今、何が?>の
公式ツイッター運用を開始いたしました。

公式ツイッターでは読者のみなさまからの感想などをツイートしていただけると
嬉しいです。

ツイッターをご利用の方はぜひ『フォロー』をお願いいたします。

現在のところリプライには対応しておりませんので、
質問等は下記メールアドレスまでご連絡ください。

お問合せ:magmyanmar@fis-net.co.jp 

公式ツイッターをぜひご覧ください。


■公式ツイッターはこちら

https://twitter.com/magmyanmar1




東西南北研究所




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ご意見、ご感想、ご要望をお待ちしております!
 http://www.fis-net.co.jp/Myanmar
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
※「ミャンマーは今?」の全文または一部の文章をホームページ、メーリングリ スト、ニュースグループまたは他のメディア、社内メーリングリスト、社内掲示 板等への無断転載を禁止します。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
※登録解除については下記のページからおこなえます。
○購読をキャンセル: http://www.fis-net.co.jp/Myanmar
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
発行元:ミャンマーメールマガジン事務局( magmyanmar@fis-net.co.jp )
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━