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<ミャンマーで今、何が?> Vol.318
2019.7.5

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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━━【主な目次】━━━━━━━━━━━

■2019年末日を彼岸行きと仮置きして考えた

 ・01:Living Silence=軍事政権下の国民、黙して喋れず

 ・02:イビツなミャンマーの教育ブーム

 ・03:Defense Service Academy

 ・04:シュエマン情報そして休刊宣言

 ・公式ツイッター(@magmyanmar1)

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・01:Living Silence=軍事政権下の国民、黙して喋れず

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理想郷の彼岸往き漫遊旅行は一旦中断した。

いつ再開できるか決めかねる。この世でヤルことが次々に出てくる。困ったものだ。

突然ですが、<日刊英字紙に集中豪雨の状況が、報じられております。
九州地方の皆様、恙無きことを、お祈りしております>東西南北研究所長敬白

インド大使館の図書館から借りてきた。
「Living Silence: Burma under Military Rule」(CHRISTINA FINK著)がオモシロく夢中で読んでいる。オモシロくとは語弊がある。実に読みごたえのある著書と言い直そう。

Dr.Christina FinkはUCLAバークレー校(*蛇足だが、孫正義が学んだ米国西部の有名大学)の女性文化人類学者である。軍事政権下のビルマで現地調査を行い、大勢のさまざまな階層の人たちにインタビューしてこの著書を出版した。発行は2001年にロンドン、NY、タイ、バングラデッシュでとなっている。2001年当時、軍事政権下のミャンマーでは出版できなかった。

最初の第1頁でスーチーがこの書を高く評価し、序文を書いている。
そのコメントは短いが、正鵠を得ている。
稚拙な和訳で、ご紹介したい。

「この著書は軍事政権がビルマ人に及ぼした心理的効果について語っている、特に貴重な研究書である。ビルマにおける真の闘いとは、権力の要求に屈する安易な選択をしたくなる気持と、情け容赦なく襲い掛かる政権側の脅しと武器に抵抗する厳しい決意との間の闘いである。広範囲にわたる歴史と社会的な背景を通して、ごくごく普通の人々の生活を脅かす軍の統治体制の影響を踏査することによって、クリスチーナ・フィンクはビルマの人々が、今この瞬間直面している問題と選択の根本原因を理解するのに、貴重な貢献をした」

植民地以前の土侯王国の時代から調査は始まり、英国支配の時代、独立を経て、軍事政権の勃興へと続く、ビルマの歴史的レガシーを最初に紹介している。

ネウィン時代、抵抗の時代、軍事化の強化、おびただしい数の死体、恐怖の徹底化、共同体内部の猜疑心、反政府活動家の理由なきレッテル、家族の離散そして崩壊、社会の分断、意見を表明する危険、残虐と逃亡、軍事諜報活動の始まり、終身刑、軍が徴用した強制労働、“人生大学”の刑務所、女性囚、軍事政権時代の教育、密かに全国を駆け巡り、半年一年後に持ち主へ戻る“Floating Books”、路上喫茶と大学のトイレ、仏教と政治、キリスト教への迫害、ムスレム狩り、ビルマ政治の国際化、外国政府と企業そしてメディア、ビルマの未来展望、そして最後に、ミャンマーはもはや沈黙の場ではないと結んでいる。

この本は2001年に発行された。

非常に感心し驚いたことがある。
スーチーの序文コメントで、軍事政権がビルマ人に及ぼした心理的効果という表現がある。
稚拙な和訳よりも、原文の“Psychological effects”の方がもっと迫力がある。

前のメルマガで、タンシュエの若き将校時代について触れた。
ソ連に留学しKGB(*米国のCIAに匹敵する、ソ連国家保安委員会)が運営する士官学校でIntelligence、すなわち諜報活動を学んだと紹介した。

まさに、その諜報活動こそが国内を恐怖に陥れ、国民は金縛りとなった。国民は“沈黙”に陥り、その呪縛から解放するためスーチーは苦悩し、解決策を模索した。

スーチーは1995-1996年、日本の毎日新聞に「ビルマからの手紙」と題した週刊コラムを掲載した。スーチーはその事情を詳しく伝えている。
この連載は日本側の支援で実現したと著者は書いている。

もう一ヶ所、同書から引用しよう。
刑務所に送られる前、猛暑の季節に尋問センターで受けた拷問の話である。

「真っ裸にされ、殴られ開いた傷口に塩がすりこまれる。飛び上がるほどの痛みだ。彼だけでなく50人の同僚も同じことをされた。太陽で熱くなった鉄板に裸足で立たされ、跳びあがっても逃げ場がない。足の裏が焼け爛れていく。中でも電気ショックは酷かった。あそこに直接ヤラれた。屈辱的だが、我々の生殖器はすべて原型をとどめていない」

話は続く。
「刑務所に送られても拷問は続く。政治犯ではなく、犯罪人にされた。刑務所の尋問室で、飛行機やバイクに乗っている格好をさせられた。もちろん強制敵にだ。子供のようにはしゃぐよう要求される。不在中の自宅で妻が他人に寝取られた話を、繰り返し聞かされる。これで多くの囚人は、肉体的にも精神的にも、ボロボロとなった」

女子学生などの女囚には、もっと酷い運命が待っていた。
これはここでは書かない。

スーチーが昨日の新聞第一面に、“ミャンマー女性の日”に祝辞を述べた記事と写真が掲載された。スーチーは軍事政権が行った無数の悪行を知るだけに、行間にスーチーの気迫が漂う。

スーチーが自宅監禁から解放され、国会議員となり、スーチーの政党NLDが雪崩現象で大勝利を得て新内閣を組閣した。そして大統領の上に君臨するようにもなった。

それでも、スーチーは政治の素人だからとか、あろうことか日本の民主党まで持ち出し、スーチー軽視の声を多数聞かされた。

とんでもない。スーチーニ国会議員の経験こそなかったが、この著書の序文でも分かるとおり、スーチーはミャンマーの現状を冷静な眼で把握し、ずばり問題の核心をシッカリ分析している。

スーチーの堅い信念はネルソン・マンデラに匹敵すると言って良いだろう。その真価が日本のマスコミに理解されるには、2020年の総選挙に勝利を得て、その後となるかもしれない。



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・02:イビツなミャンマーの教育ブーム

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先日、学生に連れられ、とあるホテルで行われた“傑出した優等生”の表彰式を覗かせてもらった。若者教育は私の究極の関心事である。

スーチーも新政権も子供たちの“教育”には真剣に取り組んでいる。
だが、軍事政権時代に仕込まれた“考えることをさせない、暗記教育”は先生陣にも、両親にも、可哀想に子供たちにも徹底している。その結果、イビツな教育システムが形成されていた。

学制は基本的には旧宗主国の英国式である。 
高校10年生卒業時の3月に全国一斉に大学入学資格試験が行われる。
6月にその合格が全国一斉に発表される。

これはミャンマーの大イベントとなっている。何番街に住む何々君、何々嬢は合格、不合格が町中のウワサとなり、両親までが鼻高々組と落胆組の二つに分かれる。

この表彰式には金縁の招待状が印刷され、表彰される優等生とその家族が招待される。
試験科目は、国語(ビルマ語)、英語、数学、化学、物理、生物学の合計6科目で、6科目すべてに高得点を得た生徒がひとり、5教科がひとり、4教科がひとり、と合計6人がOutstanding Studentとして表彰されました。

それがまとめてではなく、国語部門、英語部門と別々に表彰されるので、6教科表彰者は6回ステージに呼び出される。そのたびにトロフィーが授与され、受賞者はニッコリとカメラにポーズする。ミャンマー式授与式儀式は延々と続く。

そして6科目制覇、そして5科目制覇の学生は、医学部、工学部、など人気上位学部への入学資格を得たことになる。出された食事を楽しみ飲料水を飲みながら、状況説明をしてもらった。

今回の表彰式は、プライベートの補習校を非合法に経営する女性経営者がスポンサーという事実に驚いた。この補習校は高額な授業料と、毎年、多数の合格者を出すことで町内に名が知られているらしい。

その経営方法は、それぞれの課目に有能な教師を雇用し、エアコンの利いた自宅教室で授業は行われるるらしい。ステージでトロフィーを授与するのが、これらの先生方である。
貧乏家庭の子供では授業料は払えない。この経営者はリッチ・ミセスとしても町内では評判らしい。

この女性経営者には子供が二人いて、長男は現在シンガポールで大学生、妹も今回全6科目制覇の最優秀学生とのこと。この9月には長男同様に妹もシンガポールの大学へ留学することに決定との情報も得た。

この女性経営者は英語は喋れず、入り口でニコニコ挨拶されたときは、彼女の娘の表彰で学生と私も家族の友人として招待されたものと、勘違いしていた。私は初対面だが、近所なので彼女は私を知っているという。食事をしながら、そのニコニコの彼女が補習校の経営者と判明し、ビックリした。

会場では私の学生が情報を仕入れ、断片的に解説してくれる。
この補習校ビジネスは非合法で、当局には内密で経営しているらしい。だが、政府の学校教育が不十分なため、補習校ビジネスはヤンゴン・マンダレーなど大都市では絶対に必要な補完教育機関となっているそうだ。

軍事政権時代からのシステムはこういうことだ。
政府が運営する公立学校の先生の給与はベラボウに安かった。そこで先生は、肝心なことは教室では何一つ教えなかった。知りたければ、学校が終わった後、自宅に来なさいと先生は子供の親に耳打ちする。

そこで先生はソコソコの金額で自宅塾を開くようになった。
学校の大半の生徒が来るので、先生は生活が安定するようになった。
欲張りな先生は、土・日まで開講して、裕福な生活が出来るようになった。

この方式は、瞬く間にミャンマー全土に広がったという。

だが、この女性経営者は自分が教えるのではない。
自宅を開放して、6科目全教科のプロフェッショナルな先生を雇用して、リッチな家庭の子供を集めて、ビジネスとして私塾を経営している。しかも、自分の子供二人をシンガポールで大学に行かすという離れ業までやっている。非合法とはいえ、立派な企業家である。

話を戻すと、これもスーチーが語る、ミャンマーの複雑さである。
学校改革も必要で、塾からは税金も徴収したい。
だが、これを一気にやると、自宅塾を開催している先生からのブーイングが全国規模で湧き起こる。

スーチーの新政権が苦労するのは、空っぽの国庫だけではない。
軍事政権がつくり上げてきた、悪弊はいたるところで露見し始めた。
それを意図的にスーチーに押し付けた軍事政権の老獪な悪意さえ見えてくる。

それを見抜けぬマスコミや外交団は、苦情をすべてスーチーに持ち込む。
そしてドナルド・トランプ同様に自国ファーストの利益誘導で、投資委員会に難癖をつける。
繰り返すが、スーチー新政権が発足して、まだ僅かに3年経過したばかりだ。

三年という短期間で、各国政府は、スーチーに文句を言うほど、自国で立派な国家運営をやっているのだろうか?

話はさらに変わる。
例の女性企業家に興味が沸いたので、しかも同じ町内ということなので、私の学生には、一度自宅に招待して、娘さんも含めて夕食でもしながら、ビジネス談義でもしませんかと申し入れている。進展があれば、メルマガのネタとさせてもらうかもしれない。



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・03:Defense Service Academy

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日本語を話す友人が、英語を話せると彼の友達を連れて遊びに来てくれた。
友人は各種車両を運転手つきで貸し出す業務をやっており、その友達は友人の顧客で大量に車を借りてくれるという。

その友達の身元調査を始めた。
欧米の保険会社のマネージャーをやっているという。
英語が達者なのでどこで勉強したのと聞くと、ピンウールィンの士官学校出身という。
こういう経歴は私の好奇心の餌食となる。

手持ちのビールを飲み干し、続きは近くの中華レストランへと誘った。
メルマガに書いたタンシュエ老化の話をしてみた。
アナタはどう思うかと訊いてみた。
「そんなトップの話に自分の意見は述べられない。命令に従うだけが自分の任務だったからだ」とキチンと応えた。

晩飯には少し早いが、周りのテーブルはすでに埋まっている。
こういう話を人前でするのは迷惑かと聞いてみた。
「今は、まったく問題ない」と声を潜めることもなく堂々と応えた。
やはり軍人あがりだ。30歳そこそこの若さだが彼が気に入った。

詳細は書かないが、犬も歩いて棒に当たれば、ミャンマーの風向きを探ることもできる。
超大物の孫とはどのクラスで一緒だったとの耳寄りな話も聴かしてくれた。
少しはこちらを信用してくれているようだ。

最後には、飛行場のセキュリティを含め、各方面に友人のネットワークがあるので、何でもお役に立てると言ったが、初対面での安易な申し出には、動物的本能で曖昧に返事しておいた。
だが、オモシロイ男なので、メルマガの情報源として電話番号を交換し、またの再会を約束した。

日本語を話す友人は、別れ際に、私の知らない友達の裏話を、今日は沢山聞かせてもらったと、変な感心をされた。


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・04:シュエマン情報そして休刊宣言

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昨日7月4日のMT紙に珍しくシュエマンの動きが出ていた。
タンシュエ健在時、マウンエイに続いて最高位将軍序列の第三位にふんぞり返っていたシュエマンが記者に語った。

話は遡るが、1990年5月27日の日曜日、30年振りにビルマでは、自由な国民選挙が行われた。
だが、国民の誰もが信じられないコトが起こった。

全体の80%を上回る議席をスーチーの率いる野党NLDが獲得した。
さらには、ミャンマー国民のみならず注目する世界が信じられないコトが起こった。
ミャンマーを牛耳っていた軍部が、政権の委譲を拒否し、選挙結果を無視したのである。

シュエマンが記者に語ったのは、この1990年の選挙結果を無視して、政権の委譲を拒否したTatmadawは間違いであった、と公に表明したのである。
国軍を引退した将軍がTatmadawを批難するのは、非常に稀なことだとMT紙も説明している。

Tatmadawとは陸・海・空三軍を統合するミャンマー国防軍を指すビルマ語である。
コワモテの軍事政権時代は強固な一枚岩のように見えた。

だが、先に報じた頂点のタンシュエが老化してくると、強固な一枚岩が崩れるかもしれないとこのメルマガは分析した。

その最初の動きはひょっとしてこのシュエマンかもしれない。
しかし、一時はスーチーの信奉者のように見えたシュエマンが今年2月にスーチーと袂を分かち、自身の“Union Betterment Party”という政党を立ち上げた。それ以来、シュエマンはスーチーに敵対したことになる。

そしてここで、Tatmadawを公式に批難したことは、国軍を引退したシュエマンは今、新たに国軍を敵に廻したことになる。
このTatmadawの政治的求心団体は、シュエマンが一時議長を務め、内部クーデターで追い出された現野党のUSDPである。その現議長であるテインセイン元大統領は恨み骨髄であるシュエマンの宿敵、最大のライバルでもある。

国軍の元上級将軍で、シュエマンの上位に位置するのはタンシュエとマウンエイだけである。
そしてそれ以外を見渡すと、テインセイン、ミエンスエ、ミンアウンラインすべてシュエマンの下位である。マウンエイは年齢的にも気力的にも、配下の部下にしても、野心は失せたと見てよいだろう。するとタンシュエが老いぼれたとすれば、将軍の序列でシュエマンにとって怖い者はいない。

だとしても、シュエマンが、スーチーを敵に廻し、国軍を敵に廻したことが読めない。スーチーにしろ、国軍にしろ、現在は大きな権力を保有している。
シュエマンには僅かな同志はいるが、元将軍としてのシュエマンの戦略が読めない。

スーチーの指示に従い、7月19日の殉難者記念日の準備を淡々とこなす、山の如く動かない副大統領のミエンスエの方が、不気味には見えるが、賢明な元将軍ではなかろうか。ビルマ人の中で苦労したモン族の叡智がそうさせるのだろうか?

タンシュエはそう長くはないだろう、ここはむしろ熟柿が落ちるまで待つ戦略が、賢明なのではなかろうか?

メルマガの次の一手を指すのに、長考を要する場面のようだ。
こういう複雑で難しい問題は、今月ヤンゴンにやってくる友人とジックリ相談の上、結論を出したい。

メルマガは長考のため、勝手ながら二週間ほど休刊とします。


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