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<ミャンマーで今、何が?> Vol.347
2019.12.26

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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━━【主な目次】━━━━━━━━━━━


■日本語学校 特別クラス

 ・01: 教科書も、辞書も、教師も、不要の理想的授業

 ・02: 日本語は初体験、だが秘策はある

 ・03: 日本人並みに時間厳守の生徒たち

 ・04: ずぼらなホストは何も準備せず

 ・05: 敵は本能寺

 ・06: またまた生徒から学ばせてもらった

 ・公式ツイッター(@magmyanmar1)

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・01:教科書も、辞書も、教師も、不要の理想的授業

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12月3日(火)にスタートした実験日本語クラスは昨24日(火)が最終授業となった。
週二回火曜日と木曜日を担当し、当地の暦では全部で7日間である。朝10時から午後4時まで。昼飯1時間。

日本語を教えた経験はまったくなく、すべてはゼロからの出発だった。
日本で作成された分厚い日本語教科書二冊を手渡された。一通り目を通したが、気に食わない。このとおりに教えたら、多分学生は勉強が嫌になるのではと予感した。

日本語のタウン誌では、素人歓迎、お暇な時間に日本語を教えてください、良い副収入になります、と教師募集の広告が載っていた。日本人が若きミャンマー人を食い物にしている。

教えると言う意味では、英語の経験はある。独特の授業方法で英語の授業なら自信がある。だが教えるのは英語ではない。英語の学び方(Self-learning)を教えるのである。
最初の一ヶ月間、Phoneticの発音だけを繰り返し、フラフラになるまで、徹底的に教える。

意味など考えさせない。間違っても文法など教えない。教科書もない。持参したノートに自分で教科書を作成させる。ノートの取り方も独自のノウハウである。
生徒がドロップアウトするのは文法を教えるからだ。ネイティブが話すときに、文法など決して思い出さない。

生徒が我慢できずどうしても意味を知りたいと思ったら、多分機が熟したのだろう。辞書のアプリをスマホにインストールさせる。先生や授業を当てにしない生徒に育てることが目的だ。そのために現代の武器を徹底的に活用させる。

与えられた分厚い日本語の教科書は突き返した。
依頼してきた大社長に、実験日本語教室をやってみたいので生徒をモルモットにする。授業料は免除の無料とする。授業内容は私の好き勝手にやらしてもらう。日本語試験のN2、N3、N4とかは保証しない。信じられないコトに、この大社長はソレを吞んでくれた。

老獪術を実践中のワナに大社長が引っかかった。そして生徒も。



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・02:日本語は初体験、だが秘策はある

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英語の場合だが、ABC・・・XYZのアルファベットが基本である。たった26文字である。これを“ABC”と教えたら単純すぎる。NATOのアルファベットを借用した。日本人は“ナトー”と発音するが、これは通じない。英語では“ネイトー”である。ご存知「北大西洋条約機構」のことである。

例えば“A”は“AlphaのA”、“B”は“BravoのB”、“C”は“CharlieのC”で、“X-rayのX”、“YankeeのY”、“ZuluのZ”まで続く。
これは欧米の白人社会では常識で、航空会社でも、豪華客船でも、鉄道の駅でも通じる。

アナタの貧相な英語が通じないとき、例えば“L for Lima”“R for Romeo”と言えば、LとRの違いも説明できる。
日本で言えば、“朝日のア”“いろはのイ”“上野のウ”の要領だ。

私のクラスでは、このNATOのアルファベットで授業は開始する。
実際にこれをマスターすれば、例えば海外の国際空港のアナウンスが自然と耳で聞き取れる。

授業内容は工夫・考案の極秘の極秘だが、たった一ヶ月間受講すれば、英語の発音が見違えるほど変化する。ローカル発音を矯正せずに、文法に突入すれば、砂上の楼閣でしかない。日本人の英語とミャンマー人の英語は共通して同じ欠陥がある。ここに高等戦術の秘策が隠されている。

まったく英語が通じなかった新聞屋の娘が、英語での通訳を買って出てくれるようになった。だから英語の授業はプロだと自負している。

試行錯誤というよりも失敗の積み重ねが英語学のプロに育ててくれた。
その経験を日本語の授業に応用することにした。



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・03:日本人並みに時間厳守の生徒たち

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もうひとつ仕掛けをした。
土曜日の昼間3時間。生徒9名と大社長を拙宅の屋根裏部屋に招き、忘年会・クリスマスを兼ねたパーティを企画した。

スーチー流に従って、すべてトランスペアレンシーで抜け駆けをせず、大社長の了解を取り付けてのことである。ミャンマーでは、ここだけの話しは通用しない。“ウワサ”ネットワークでは大先進国である。これで失敗する日本人上司は多い。

生徒は全員男性で20歳以上。授業中に聞いてみた。全員ビールは飲むという。唯ひとりだけ自分は飲まないという。敬虔な仏教徒である。家庭の躾が見えてくる。これは尊重せねばならない。ひとりMビール330mlx2缶を限度として用意した。もちろんジュース、コーラも用意した。大社長の許可が大前提だ。

遅れて駆けつける大社長も、自家用車の運転と、このあと外国人と約束があると、ジュースを所望された。

予定の15分前に生徒の一人から電話が鳴った。全員ビルの前に集まってますと言う。
「タイム・イズ・マネー」の指導が効き過ぎたようだ。予定時刻の15分前である。
バスタオルを巻き、ネコの額のベランダから、手を振り上階の位置を確認させた。

シャワー中だと納得してもらい。約束時間の午前11時ちょうどに屋根裏部屋に上がって来いと指示した。スマホは実に便利だ。その機能を生徒から教えてもらうのが、この老獪パーティの隠された目的のひとつである。

私自身はすっきりしたが、部屋は乱雑放題だ。
9人を招きいれたが、そのうち3人は背が高く、屋根裏部屋の梁に頭が届きそうだ。
これは記念写真にピッタリのモルモットだ。

全員にワンルームの室内を案内した。冷蔵庫の中にはMビールが2ダース以上冷えている。勝手に開けて取り出すように頼んだ。本棚および海賊版DVD棚は私の貴重な資料室である。閲覧しても良いが、必ず元の場所に戻すようしつこく頼んだ。

指示はビックリするほど厳格に守ってくれた。生徒とのコミュニケーションが取れていることに新米教師は満足した。

毎年、この屋根裏部屋にはインド人の聖歌隊がやってくる。
孤児の少年・少女、ギター・タンバリンなどの若者奏者たち、それに中年のオバチャン先生を加えて合計30名ほどである。

用意したクリスマス・ケーキ、みかん・りんごなどのフルーツ、手づかみのキャンディ、などをひとりひとりに手渡す。そして全員で記念撮影。オバチャン先生には心ばかりの現金を包んだ封筒を。

この季節は彼らにとって稼ぎ時である。
例年ヤンゴン市内の彼方此方から声が掛かる。私は無宗教のフリーシンカーだが、むさくるしい屋根裏部屋が一瞬クリスマス気分に満たされる。アンデルセンのマッチ売りの少女やディケンズのクリスマス・キャロルの世界に包まれる。

私の大好きなホセ・フェリシアーノの“Feliz Navidad”をアンコールでリクエストする。迷惑かもしれないが、入り口のドアを開けっぱなしにしておくと階段を伝わって上階・下階に流れるのだろう。今晩だけは許してくれたようだ。その証拠にはご近所さんの母娘がドアの外から室内を覗いている。部屋はほぼ一杯だが、中に入ってもらう。

こうやってトロピカルのミャンマーにもクリスマスがやって来る。
気掛かりがある。今年はまだ聖歌隊の注文取りがまだやってこない。一方、私のスケジュールはどんどん埋まっていく。どうしょう。



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・04:ずぼらなホストは何も準備せず

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大柄の生徒を含めた生徒9人が突っ立っているのはむさくるしい。
先ずは生徒たちをそれぞれ椅子に座らせた。
そして思案どおりに、生徒を3人ずつ3班に仕分けして、リーダーを決めた。

A班は買い物係、B班は部屋の掃除及び食器の準備、C班がPCおよびスマホ指導係。
実は老獪パーティのターゲットはC班で、その操作を習うのが本来の目的である。

A班3人には10万チャットを手渡し、必ず3人で相談して、鶏肉、豚肉、魚、野菜などバランス良く選択すること。ただし一品最高1万チャットのメニューで、時価など選ばないように釘を刺した。

これらの指示もA班だけでなく全員に向けて話し聞かせた。
例えば日本では、おカネの清算で信用をなくすことがある。必ずバウチャー(領収書)をもらうこと、サイカーなどの余分な出費は、バウチャーの裏面にその明細を記すこと。

そして10万チャットを受け取るとき、目の前で金額をチェックし、確かに10万チャット受け取りましたと口頭確認すること。そして最後にバランス金額をメモ書きし、残金を私に戻すこと。これが日本人から信用を獲得する方法のひとつである、と近所で評判の中華料理屋を指定して3人を追い出した。

部屋に残ったのは6人である。
私はずぼらで部屋の準備はできていない。次に出動するのがB班である。
用意してある真っ赤なエプロンを三人につけさせた。新潟の燕三条で銀食器とともに仕入れてきたものである。

意外なところで3人がはしゃぎだした。部屋の中で写真をとって良いかと聞かれた。
口頭確認は生徒との間で、コミュニケーションが取れているということである。授業の成果は上がっている。そこでセルフィーでの撮影会がはじまった。予期しないこのような反応が、ミャンマーを知るには、そしてミャンマー人を知るに、文化人類学的に興味を引くところである。

客人を招いたというのに、部屋は一行に片付いていない。フロアーもテーブルの上も、大袋幾つかにまとめさせた。これでダイニングテーブルの上が片付いた。濡れフキンの使い方を3人に教えた。

食器棚から11人分の皿と銀食器を用意させた。大きな器と皿は20人位を限度にパーティ用にヤンゴンの中華街で揃えてある。これらをダイニングテーブルの上に並べ、念のために、紙ナプキンで拭いた。あとは買い物係が持ち帰る10品を盛り付けるだけである。あとは各人セルフで自分の皿にすきなだけ盛り付ければよい。



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・05:敵は本能寺

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彼らには内緒だが、A班・B班はサクラである。
残る3名のC班こそ今回の本能寺である。

授業中に撮影した動画を、大画面のデスクトップで見せてくれた。
白板の脇に立つ自分が恥ずかしいほどアップで映っている。そして白板に書いた“江戸いろはガルタ”が鮮明に読み取れる。合計32GBの要領で、かなりの分量だ。

パーティがお開きになったら、ジックリと反省も含めてヤンゴン寺子屋塾のシステムを確立したい。これは年初にかけての大プロジェクトになりそうだ。
ヤンゴンの若者世代に自力でビジネスを立ち上げる企画が頭の中で動き始めた。

狡猾で老獪な頭は、たったの10万チャット(日本円で10万円にもならない)で、その核心を生徒たちから盗み出すことが出来た。



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・06:またまた生徒から学ばせてもらった

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最後に大社長から「先生、この椅子に座ってください。」と言われた。そして生徒たち全員が絨毯の上に跪き、叩頭の礼をとってくれる。叩頭とは頭を床にすりつけてお辞儀をすることである。このミャンマーで何度か経験はあるが、チョット驚いた。

大社長によれば「生徒が納得がいかないという。心ばかりですが、すでに用意してきたので受け取ってください。」と子供たちが封筒に包んだ金子を私に差し出す。
躊躇したが、ここで話が違うと断るのは大人気ない。この乞食坊主は、心からありがたく恵んでもらうことにした。

涙腺が緩みそうになって困ったが、気を取り直して、「この善意は、ミャンマーの次世代の若者教育基金として積み立てる、その元金とさせてもらいます。」と大社長から生徒たちに伝えてもらった。

実はこの9人のうちで、一人だけ、教室では私と目を合わさず、いつも静かで前の席の生徒の後ろに隠れるようにしていた生徒が気になっていた。極力その生徒を名指しして白板の前に立たせた。

例えば、京都いろはかるたから「ぶしはくわねど たかようじ」と白板にかかせる。
すると後ろを振り返り仲間に助けを求める仕草をする。私は容赦なく、残りの生徒全員に助けを出すな!と厳命する。

一番最初は私が驚いたが、マジックペンを持つ手が小さく震えている。マジックペンを元に戻させた。そして私はワザと大声で「ぶしはくわねど たかようじ」と叫び、それを真似させた。

「もう一度大声で!」「もう一度!」「イイネ!Very Good!もう一度大声で!」これをしつこいくらいに繰り返す。「もう一度!」「もっと大声で!」、私も「ぶしはくわねど たかようじ」とその都度大声で繰り返す。ここまでくると生徒と私の真剣勝負だ。生徒にオドオドする暇は与えない。

生徒の額から汗が噴出す。
「もう一度!」元気な声が戻ってくる。「私のイントネーションを真似して!」「もう一度!」、日本語の特色は5・7調の最後にアクセントがある。この例だと「ど」と「じ」にある。それをオーバーなほど、私が怒鳴る。

私が編み出した語学はスポーツと音楽で、そしてモノマネである。という哲学は間違いで無いと確信している。幼児が母親から修得するネイティブ言語は、多かれ少なかれ、こうやって自分の母語となるということを、これまでに旅した世界各国で観察して来た。

そしてもう一度マジックペンを握らせると、震えが止まっていた。
そしてこんどは“ひらがな”での書き取り練習だ。「ぶしはくわねど たかようじ」
生徒が何人いようが、私の授業はマン・ツー・マンである。

気になっていた九分の一が、屋根裏部屋では積極的に働き、ときには笑い声まで出すようになった。ひょっとしたら、赤いエプロンの効果かもしれない。あるいはビールのせいだったかもしれない。私の誤解かもしれないが、彼の欠点のひとつが克服された。

一番最初のクラスで、全員にA4サイズ一枚を渡し、最初に自分の名前、生年月日、出身地、趣味などなど、それから君たちの家族を紹介して欲しいと頼んだ。最後に電話およびEmailの連絡先も記入してください。もちろんすべて“ひらがな”でOKです、と宿題を出した。

この気になる生徒の宿題には「わたしのいいところはどんなことでもあきらめないことです」と書いてある。日本の基準では彼は切り捨てられるかもしれない。だが、私の見立てでは、このような生徒こそ大きく伸びる余地を残している。

その気になる生徒が、赤いエプロンをつけたまま、時折外に出て行ったような気がする。
多分タバコを吸いに行ったのだろう、とあまり気にかけなかった。

Party is overの午後2時。本日出た大量の生ゴミは街角のゴミ箱に捨ててもらおうと算段していた。もうすべてゴミ箱に捨てたと言う。犯人はあの気になる生徒だった。

これだけではない。使用した大皿も、銀食器も、すべてきれいに洗い、しかも布巾で拭いて、すべて食器棚に戻してある。

狡猾で老獪なホストが企んだ想定外の作業をしてくれた。だらしなかった部屋が今は、ピカピカに磨かれている。ミャンマー人をバカだチョンだという外国人が居たら、私は激しく抗議したい。彼らは実に優秀である。

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