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<ミャンマーで今、何が?> Vol.355
2020.01.31
http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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━━【主な目次】━━━━━━━━━━━


■日本のテレビや新聞は不要!

 ・01: ミャンマーで夢を見る

 ・02: 想定外のワナ

 ・03: 地図が立体的に見えてくる

 ・04: カチン州のミッゾーンダム

 ・05: 休刊宣言

 ・公式ツイッター(@magmyanmar1)

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・01:ミャンマーで夢を見る

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ランドクルーザーでヤンゴンを離れ、イラワジ河沿いに、北へ北へと連れて行ってもらった。
友人のセンスの良さは、同じ道を戻らずに、ミャンマーをグルッと廻ってヤンゴンに戻ってきた。そのときミャンマーの広大さを楽しませてもらった。ミャンマーに来たばかりの頃だ。

山中で樹木が疎らになり、突然真っ白な砂地に出た。あたり一面延々と続く。最初は順調に走っていたが、タイヤが砂地にのめり込み空回り。一歩も動かなくなった。万事休すである。人っ子一人通らないようだが、はるか視界のどこかで人の気配がする。運転手が大声で叫ぶと、犬を連れた姉弟のような子供が二人やってきた。犬は我等一同に牙を剥き吼えまくる。引き綱などもちろんない。

友人は子供たちにキャンディーを与え、村から助っ人を呼んでもらおうと頼んでみた。だが会話が通じない。同行者は友人の工場のスタッフで少数民族もいる。何人かが試したが埒が明かず、結局は運転手が少女と一緒に彼女の村まで同行することになった。何十分いや、何時間かかるのかそれも分からない。

こうなると持久戦である。木陰を探し友人は藪の下を払いゴザマットを敷いた。友人とワタシを取り囲むようにスタッフが腰を降ろした。女性にはジュースが配られ、我々は冷えたビールだ。一見ピクニック気分だが、太陽光線は強い。それが作る影で東西南北は判断できる。

だが面白い地形だ。これまでは黒土・赤土の山中だった。それが当たり一面、真っ白な砂地だ。しかもなだらかな傾斜を描いている。水さえ流れていれば、かなり川幅の広い川である。そういう目で見れば、川底にはかなり大きな石が転がり、ここはまさに枯山水の風景だ。そして木立までが生えている。

そうかこれがワジ(Wadi)と呼ばれる涸れ川か、と気付くと感激した。イラワジ川の“ワジ”である。降雨の季節には一時的に水流が発生し、普段の乾燥季には表流水は地下に潜り水無川となる。植物相も大きく変わっている。アラビアのロレンスを思い出す風景だ。

スタッフのひとりはUFL日本語科を卒業した才媛で、ワタシは彼女が頼りだった。
思わぬときに「油断大敵」とか、「旅は道連れ」ですねと言われ、ビクッとしたこともある。
社長である友人とは片言の英語、その他のスタッフとは話がまったく通じなかった。それでも
かなり親しくなることが出来た。

ヤンゴンに戻ってから、この“ワジ”について調べてみた。その延長線上で“Quick Sand”という言葉に出会った。浮砂あるいは流砂と訳されるが、人や動物がその上に乗ると、自重で徐々に底へ吸い込まれていく危険なトラップである。

第二次大戦でインド・ビルマに従軍したアメリカ人にとっても非常に珍しかったのだろう。戦後彼らが映画製作者や脚本家となり、そのシーンを多くのハリウッド映画に取り入れている。確かジョンウエインかマーロンブランドの映画もあったはずだ。

興味のある方は、多分YouTubeでも実写が見れるはずだ。例えば巨象が沈んでいくシーン、同様に小象が沈んでいくのを村人が助け出すシーンなどである。日本では地震のときに発生する埋立地の地盤液化現象で批難ごうごうとなる。だがハリウッドではそれを密林のはらはらドッキリ冒険映画に仕立て上げる。ディズニーの世界も同様だ。大人でも夢を見ることが出来る。



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・02:想定外のワナ

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話しは横道に逸れたが、太陽がかなり傾きかけた3時間後に、村人10人ぐらいを連れて運転手が戻ってきてくれた。子供たちの部落では人手が足りずに隣村まで行ってきたという。タイヤに噛ます木枠・ゴザ・ロープまで持ってきた。村長さんも一緒だ。

この人海戦術であっという間に危険な“涸れ川”は渡ることが出来た。
友人は村長さんと交渉して、助っ人全員に行き渡る、大盤振る舞いをしていた。その日の夜は大河イラワジ川の畔にある結構優雅なホテルに宿泊できた。

各人シャワーを浴び、他に客のいないベランダで地元料理と地元の酒をたっぷり楽しんだ。
それ以上に楽しんだが外語大卒業の通訳を通しての皆との会話だった。

村長さんの話しが面白かった。例の現場はほとんどの車が往生するという。乗用車は絶対にダメで、四輪駆動車でも中ほどで必ず断念するという。だから村人にとってはありがたい現金での臨時収入となる。そのために木枠・厚手のゴザ・太いロープなどは村で常備したという。

だが雨季のシーズンで鉄砲水が出ると、二三日は足止めを食い、濁流を越すなど村人も数日待つという。村長さんの夢は、この大河の両岸に簡単な宿泊施設を作りたいとのことだった。そしたら隣村から女性の手を借り、食事の用意も出来るという。ウン!ミャンマーでは日本人でも夢を見ることが出来る。その夜は浮世絵が思い浮かんだ。箱根の山を越える、そして大井川の渡しと、五十三次の旅だ。



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・03:地図が立体的に見えてくる

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子供の頃から地図を眺めるのが好きだった。

今の地図は精巧でうまくできている。特に色刷りのアンジュレーションが見事で、平野部は緑色、山岳地帯は濃い黄土色、谷底を流れる川は鮮明な水色、高原も湖も分かる。そうやって高緯度の山岳地帯に踏み込んでいく。

そこに神経を集中すると今の地図から立体的なジオラマ(Diorama)が浮き上がる。
そのトポグラフの目でこの国を眺めると、ビジネス一辺倒だけでないミャンマーが見えてくる。
アンダマン海に突き出したイラワジ地区、その最先端が英国人の船乗りが名付けた“エレファント・ポイント”、海面すれすれの海抜ゼロ地帯である。そしてヤンゴン川への入り口が“モンキー・ポイント”である。

船乗りが指標とする海図は世界の海を制した大英帝国に負うところが大きい。彼らが沿岸測量を始めた頃は、このビルマの地はエレファントとかモンキーが一杯いたことだろう。
ラドヤード・キプリングの「ジャングル・ブック」や、ジョージ・オーウェルの短編エッセイ「象を撃つ」を髣髴させる歴史である。

歴史散歩の途中、“ストランドホテル”でアフタヌーン・ティーを楽しむのも悪くない。
そこのロビー裏には、ほとんどの日本人に見過ごされているが、古典海図が大型木枠に納まっている。そこで“エレファント・ポイント”と“モンキー・ポイント”を見つけるのも楽しい。

そこから広大な沖積平野が北へと伸びていく。パテインを中心とした東南アジア随一の米どころである。エジプトのナイル川と同じで、イラワジ川(英語読みだと“エイヤワディ川”)が運んできた肥沃な濁流が積み重なって出来た大平野地帯である。飛行機で南からヤンゴンに向かうと海岸線はイラワジ川が吐き出す黄土色に染まっている。

ミャンマーには西側から東に順にイラワジ川、チンドウィン川、サルウィン川と三本の大河が川の字に並んでいる。すべて北から下流の南に流れている。当然川は地上の一番低いところを流れるので川の両側は山岳あるいは丘陵地代である。暇で興味のある方は地図を眺めて欲しい。

今回の話はイラワジ川に絞りたい。
ヤンゴンからマンダレーを通り、高度を一気に駆け上がり、ヒマラヤ山系東端にあるカカボラジ山にまで水源は辿れる。カカボラジ山はカチン州の最北端にあり8千メートル級の氷河地帯である。
ヤンゴン・インド・バングラデッシュで見る川の色は黄土色であるが、カチン州にまで海抜を上っていくと、そこは日本と同じく透明な清流となってくる。

だからカチン州は高原の山岳地帯である。ヒマラヤの一滴が幾つもの谷底をえぐり、清らかな水源となっている。



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・04:カチン州のミッゾーンダム

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話しは突然、軍事政権時代のマンダレーに戻る。
ワタシがヤンゴンに赴任した20年前は、中国がマンダレーまで押し寄せてきた、とウワサされていた。マンダレー以北の町中の表記は中国語とそれに付け足すようにビルマ語であった。

ビルマの元首であったタンシュエは毎年、西暦新年になると北京詣でを欠かさなかった。歴史を知る人は朝貢外交と呼んだ。文化面だけでなく、軍事も、経済も、政治までもが、中国に牛耳られると誰もが怖れた。中国によるミャンマー全土の支配およびカンボジア化を怖れた。最も怖れたのは国防軍トップのタンシュエであった。

日本では中国というと、一括して習近平一人を批難する無邪気さがあるが、それこそ島国的モノの見方である。ミャンマーで中国という場合は、北京政府もあれば、国境を接する雲南省政府の威力も強大で、独自に経済活動を行う巨大な人民解放軍組織もある。

ビルマ国防軍の覇権勢力はミャンマー全土には及んでいない。特に中国と国境を接する辺境地帯では、オートノミー(中央政府から分離した自治)を目指す少数民族の武装蜂起が頻発してきた。その最大の反政府軍が“Kachin Independence Army”(すなわち“KIA”である。安っぽい自動車会社の名前ではない)。そこに目をつけたのが、人民解放軍である。

最新鋭の武器弾薬を与え、ビルマ政府軍の弱体化を図った。見返りは無尽蔵に死蔵しているJade(ヒスイ)などの宝石類と高原地帯で栽培されるアヘンである。グローバルなビッグビジネスである。それに最近はレアメタルが加わっている。

スーチーが憲法上、自国の国防軍を掌握できていないと言うが、北京政府も、人民解放軍および雲南省政府の肝心な動きについては掌握できていない。中国および共産主義は島国が思うほど、単純で小さな国家組織ではない。習近平の国賓訪日を阻止したところで、中国の大きな底流は何一つ変わらない。

そういう背景で話を進めたいのですが、気に入らない方は、無料メルマガの購読中止をお願いします。

1962年にクーデターを起こしたネウィンも、停戦交渉を行ったキンニュンも、この辺境地帯の制圧には成功していない。
2011年に民主化を標榜して登場したテインセインが大統領に就任した3ヵ月後、国防軍は停戦協定を破りカチンのゲリラ地区を襲い戦闘状態に入った。

このとき最大の厄介な事が、ビルマ・中国両国政府の間で問題になった。
両国共同で建設する予定になっていたMyitsone(ミッゾーン)ダムの問題である。
連綿と続くカチン州の山並みの多くの村落が湖の底に沈む。そして住民は強制的に代々住み慣れた村落を追い払われる。反政府組織の“KIA”は住民の不平不満を知り、武器を取りダム建設に反対の実力行使に出た。

軍部のトップは住民の強制疎開などミャンマー全土で行ってきたことで、安易に中国の要求を吞んだのだろう。その見返りは巨額のリベートが動いているはずである。
だがミッゾーン水力発電の総面積は300平方マイルで、水を溜めるダムの壁は500フィートの高さになるという。世界中でネガティブのニュースとなった三峡ダムの何倍もあるとという広大さである。

調査の結果、前例のない環境問題が取り上げられた。自国のミャンマーが電力不足で悩む中、ミッゾーンダムで生産される電力の90%が中国へ送電されるという。この工事に従事する労働者はすべて中国本土からやってくるという。

さらには裏情報として、この厖大で広大な敷地で採掘される土砂岩盤は、すべて精査分類されてヒスイ宝石の類、ゴールド金鉱、ウランなどの核燃料、中国が最も関心を寄せるレアメタルなどを中国がミャンマーから搬出するのが、もうひとつの隠されたプロジェクトであると囁かれている。

これらはすべて無知で、ノー天気な、軍事政権が引き起こした、売国的な大事件である。
そしてスーチーの民主政権が登場する前のテインセイン大統領は、このミッゾーンダムの工事は国民の反対意見を聞き、自分が大統領である期間は中止すると宣言した。

表面的には中国に歯向かって勇気のある発言と思えたが、厄介なお荷物をスーチーに押し付けたに過ぎない。日本のマスコミも、歴史を知らずに、スーチーを攻撃する。ガンビアが音頭をとった今回のラカイン問題も同様である。ヤンゴンに駐在する外交団も、調査機能を本当に備えているのかと疑いたくなるような発言が多すぎる。

だが事実を鋭く見るジャーナリストもいる。
残念だが日本のジャーナリストではない。



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・05:休刊宣言

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2020年に突入し、一月も終わってしまう。
新年はあと11ヶ月しかない。いや、まだ11ヶ月もある。
もうすこしユトリのある生活に戻したい。

すこし草臥れたので、一ヶ月ほどメルマガは休刊にしたい。


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