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<ミャンマーで今、何が?> Vol.359
2020.05.01

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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━━【主な目次】━━━━━━━━━━━


■和式居酒屋では聞けない話

 ・01: 街中がパダウに包まれた

 ・02: アインシュタインに挑戦?!?

 ・03: ケーススタディを実践してみた

 ・公式ツイッター(@magmyanmar1)

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・01:街中がパダウに包まれた

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予測されたとおり、女性はPadauk(パダウと発音)の花を誇らしげに後ろ髪
に飾っている。黄色い小花が小枝に密集し匂いが芳しい。ヤンゴン野郎は老
いも若きもこれをなまめかしいオンナの匂いだという。

真正ローズウッドの親戚で、南洋ではシロホン、オルガン、マリンバ、ギター
などの楽器、そして欧米では高級乗用車のダッシュボードにも使用される。
中国では伝統的な家具、それから皮膚病にも効果的なハーバル薬品にも転用
される。

この数日間の土砂降りで、街路に並ぶパダウの花が一斉に開花した。これこ
そ水祭りシーズンのトロピカル風物詩である。

散歩の途中で、顔見知りのオバチャンから、パダウ満開の小枝を何本かプレ
ゼントされた。アッと思いつき、何本にも枝分かれした大枝を、私も買って
帰った。そして面倒を見てくれるお隣さんにもお裾分けした。

アッと思いついたのは、久しぶりに畑仕事に精を出していたからである。勢
いのある葉っぱや蕾を切り落とし大振りの枝、小振りとトリミングする。こ
うやって鉛筆サイズの茎を何本か作りあげた。下部の切り口を蜂蜜の液で覆
い、ウェットティッシューで巻き込んだ。一日冷蔵庫で寝てもらい、翌日一
本一本をガラスの小瓶の実験農場に挿し木した。ラッキーだったら、そして
過去の悪事が咎められなかったら、うまく根を生やしてくれるだろう。神は
この世にいないと信じるが、神に祈った。

ヤンゴンは熱帯ゾーンである。私の畑仕事はキッチンの一隅に新聞紙を広げ
たインスタント農園である。アグリビジネスの極秘テストが試行錯誤されて
いるのを誰も知らない。世界の食糧危機を救うためである。成功も失敗もあ
る。この話は気が向いたら丸秘で公開するかもしれない。

今シーズン初のひと雨現象は三日間続いた。そして四日目の4月29日。今か今
かと待機した。空が暗くなる、だがお湿りどころか遠雷も聞こえなかった。
気がつくと暗雲は遠ざかり、西の空にはあかね雲が眩しく輝いている。



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・02:街中がパダウに包まれた

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そして4月最後の30日。昨日の事だ。今日も朝から日差しが強い。暑いを通り
越して、熱い一日になりそうだ。どこのビルも、ベランダには布団や毛布、
ロンジー・Tシャツなどが満艦飾だ。この町内がロックダウンで、主婦たちは
洗濯に余念がない。洗っては干し洗っては干す。ベランダや小窓ありとあら
ゆるスペースが洗濯物で占領される。

今の季節は太陽光線がスーパーホッテストだ。ウルトラ紫外線で煮沸消毒さ
れた洗濯物が、ひと雨くるころにはきれいに折りたたまれ整理整頓される。

このとき、アッと思いついた。
アルバート・アインシュタインは常識を嫌った。その点だけは私も天才的で
ある。
YouTubeからは世界中の大合唱が鳴り響く。“STAY-AT-HOME!”“STAY-IN!
”“外へ出るな!”“家に居ろ!”。違うのではないか?ビルマはアウンサ
ン将軍の時代から列強国に屈して、相手のテーブルで闘おうとした。

違うのではないか?
弱小国なら弱小国としての戦略・戦術があってしかるべきではないか?自分
のテーブルで交渉するのである。

“自分のテーブルって?”
この街がロックダウンに入る数日前に、学生の一人が三段重ねのランチボッ
クスをぶら下げて陣中見舞いに来てくれた。

そのときの質問がこれである。
“自分のテーブルって?”
二人の会話に少し希望が見えそうである。

だが彼女はこのとき大きな悩みを抱えていた。今日はこの話を取り上げたい。

だからアインシュタインの話しは別の機会に譲ろう。



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・03:ケーススタディを実践してみた

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ビルマはヤンゴンと名前が変わってからも膨張している。
首都がネイピドウに引越してからも、商都として大きく拡大した。
旧市街であるダウンタウン(下街)やシュエダゴンパゴダを中心に、郊外に
貧しい家族が不法に住み着き、中心地の都会に働きに通った。ラインタヤー、
ダラー、タケター、ティラワと見事なドーナツ型の住宅地となった。

その労働力を活用せんと、シンガポール、タイ、華僑、印僑、韓国系のビジ
ネスマンたちが先を争って地価の安いこの地に工場を建て始めた。ウワサを
聞いてミャンマー全国の村落からジョッブレスが続々と集まってきた。こう
やってヤンゴンのドーナツは巨大化していった。

この学生もそのヤンゴン郊外に住んでいる。
今年の初めごろだっただろうか、彼女に異変が起きた。この地区で最小単位
の世話役ともいえる名誉職に彼女は選出された。小とはいえリーダーである。
だが選出された理由と経緯は何度聞いても良く分からない。

彼女はヤンゴン郊外にある生徒数何千人もの大学で法律を学び、教授の指導
を受け、市民法律相談などの手伝いを活発に行っていた。その事実が知れ渡
り選出されたのかも知れないと彼女は想像する。オッチョコチョイの私は、
実態が分からぬまま、バスで大学に連れて行ってもらったり、彼女の家族が
住む地区も訪ねた。私のフィールドワークである。

話を新型コロナ騒動に切り替えよう。
スーチー政権はこのコロナ騒動に真剣に取り組み、連邦政府、地方政府、政
府系医療機関、民間団体などにも精力的に激を飛ばしている。

日を追うに従いコロナ感染者の危機は近辺に迫ってきた。
ロックダウンは考えていないと言っていたスーチーも、医療関係者の結論か
ら封じ込めが必要と即座に判断した。だがミャンマーにはミャンマー独特の
考え方があり、伝統がある。

この国では私財を投げ打ってのドネイション(献金・拠出)というシステム
が伝統的に存在する。積善の家には余計ありとばかりに、あの世で、地獄の
苦しみどころか、ハッピーになれるという思想である。カネ勘定ばかりの今
の世の中で、これは世界に誇れるミャンマーの慣習ではなかろうか。

だから大事故、天災、天変地異が起こると、ミャンマーの人々は自発的に食
料・医薬品・水・現金などを届ける。貧乏人でもそれなりの金額を献金する。
これは政府でも、軍関係の家族でも同様である。

これらを前提条件に学生の話を聞いてみよう。
その前にミャンマー語の“オカタ”という便利な言葉を覚えておいて欲しい。
その発音から私は勝手に“親方”と翻訳している。会社の社長などボスに使
用しても良し、町内会の世話役の親分と理解してもOKだ。一般的に“オカタ
”と呼ばれるのを好み、「いやいや私はオカタではない。私は副社長だ」と
返事が返ってくる場合もある。

ヤンゴンの地方政府から、コロナ騒動で仕事がなくなった家庭に、米・飲料
水・料理用油・現金などを供出したい。ついてはそれに該当する家族のリス
トを提出しろと指令が飛んだ。
ミャンマーでは前軍事政権時代から、ひょっとして大英帝国あるいは一時的
に占領した大日本帝国時代の遺物かもしれないが、住民全世帯を把握する向
こう三軒両隣式の監視システムが機能して、現在もそれは続行されてきた。

当然学生の住むこの地域でもピラミッドの頂点にいる“オカタ”から、この
ドネイションを必要とする家族のリストを早急に提出せよと、学生の小単位
にまでその指示は発布された。学生はいつまでにこのリストを提出すればよ
いか、そして家族数に制限はあるかと“オカタ”に質問した。応えは“時間
がない、直ぐ提出せよ”だった。

困った彼女から夕刻電話が掛ってきた。本当に便利な世の中だ。
彼女の説明はこうだ。
彼女の周りは貧しい環境で衛生状態も問題がある。その中でも自分の家を建
て、自家用車を持っている家族も何人かいる。その家族は自分たちもリスト
に加えよと、彼女の家に怒鳴り込んできた。それに刺激され、周り近所一帯
がオレもオレもと懇願してくる。
その一方で本当にどうしようもない、物乞いに近いような家族も泣きついて
来る。

私が読んだ英字新聞の情報では、本当に困窮した家族に政府は手を差し伸べ
ると書いてある。
情に流されず、小金持ち家族の脅しに負けず、だが近くに住む自分の親戚関
係はすべて排除して、リストをつくることができるかと、学生に訊ねた。
暫く考えて、彼女はやってみると応えた。

オカタを含めて町内会の役員は得てして、警察・消防署・軍関係の下っ端で
退役した連中が多い。そして親切を装って個人的な便宜を図って私腹を肥や
してきた。これらキツネや狸を相手にこの学生はあまりにも世間知らずで、
イノセントである。

彼女は20何世帯を必死にリストアップして、その日の夜“オカタ”に届けた。
“オカタ”はリストを見ようともせず、タイムアップだとばかりに、受け取
りを拒否した。
そのニュースは即座に町内を駆け回った。

リストに計上された貧乏家族のみならず、小金持ちグループも深夜に彼女の
家に押しかけた。彼女の両親も頭を抱えているという。
私の仕事はフィールドワークである。ありがたいことに彼女はその状況をケー
タイで事細かに説明してくれた。続きは明朝電話で話し合うこととした。

翌朝電話が掛ってきた。声が完全に嗄れている。
リストアップされた20何世帯の貧乏家族は、政府の支援を受けられねば子供
たちが死んでしまうと泣いている。小金持ちグループは俺たちをリストに入
れれば、“オカタ”との仲を取り持ってやると、脅しにかかる。その他近所
も貰えるモノは貰いたいと欲の塊である。
このことを中国の優雅な言葉では四面楚歌というのであろう。

家族内で両親とも話したという。
母親の所有する僅かな金銀アクセサリー、ネックレス、指輪、ブレスレット
など金製品を売り捌けば20何軒かの貧乏所帯に地方政府相応の品々を揃える
ことが出来る。そして自分はこの地区のリーダーを辞めたいと語った。

昨晩、私もビールを呷りながら考えた。
その答えを伝えた。
キミの考えに全面的に反対だ。

この国は日本と比べたら、正直言って本当に貧乏だ。
アウンサンスーチーはノーベル賞をはじめとして、世界各国から多額の賞金・
副賞を貰い、この国ではずば抜けた金持ちだ。だからと言って、それらのカ
ネを貧乏な国民にばら蒔いてもこの国は金持ちにはならない。だからド・スー
はそんな馬鹿なことはやらない。

今回の発端は、地方政府がコロナ被害にあった家族に救いの手を差し伸べる
ということだ。
だがキミの敵は、それらを取り仕切る“オカタ”である。
キミの近くにはド・スーの政党NLDの役員はいるかい、と訊ねた。父親が昨夜
訪ね相談したという答えが返ってきた。私もこの父親を知っている。その性
格も知っている。

失礼だが、キミのお父さんは知的ではない。話が論理的ではなく、感情的だ。

もう一度、キミ自身が行ってNLDの責任者に相談することが出来るかと訊ねた。
話す内容も順を追って問題点を強調した。私が彼女を評価するのは、物怖じ
しないことである。だが“オカタ”に対しては老獪なので決して楯突くなと
釘を刺してある。

かなりの時間やきもきし、次善の策は何があるか再考してみた。
私は結論が出た後でも英語の“Think twice”という言葉が大好きだ。“もう
一度考えろ”ということである。

ビールに手を出したとき、電話が掛ってきた。
声が弾んでいる。
だがNLDでは何も出来ないと言われたと話し始めた。だが、事務所に来ていた
幾つかのNGO団体が替りに、その20数家族にドネーションをしてくれることを
約束してくれた。それだけではなく同じ町内の慈善グループが献金してくれ
ると申し出てくれたそうだ。
このところ私は涙もろくていけない。

人生“ネバー・ギブ・アップ”ということを、今回ミャンマーの人たちから
学ばせてもらった。


◆追伸:

この学生には60歳代のアシスタントが一人ついている。
このアシスタントは彼女を側面からよく支えてくれた。先日この小単位の地
区で現金と生活必需品をリストに掲載した本当に貧しい20数家族に引き渡す
式典が行われた。
その翌日このアシスタントのオジサンは辞表を出し、役員を辞任した。心身
共々疲れたという。

この学生は引き止めなかった。
そして役員会でも彼女のサイドに立ち若いリーダーを引き立ててくれたこと
を感謝した。

この学生も“オカタ”に辞任を申し出た。だが老獪な“オカタ”は辞表の受
理を拒否して、今は緊急事態である。この問題が片付いたら受理するかどう
か検討すると回答した。
日本のお役所仕事も込み入ってますが、ミャンマーも至る所に複雑怪奇な手
続きが潜んでいるようです。


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