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<ミャンマーで今、何が?> Vol.56
2013.8.8

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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■“ヤーニ”からミャンマーの未来を占う

  01:ヤンゴンの雨季、特にその長い夜を楽しく過ごす方法
  02:前奏曲(Prelude)
  03:タージ・マハルと紫禁城(故宮)を口説き落としたライブ演奏
  04:“ヤーニ”という男
  05:ヤンゴンで大ブレーク
  06:“ヤーニ”を無理やりミャンマーにこじつける
  07: 日本では2−3年前は誰も知らず、そして今でも?
  08:後奏曲(Postlude)

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01:ヤンゴンの雨季、特にその長い夜を楽しく過ごす方法

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ミャンマーの今は、モンスーン雨季の真っ只中である。

まぶしい太陽光線が容赦なく照りつける熱帯のインド洋、そしてベンガル湾では海水が異常にボイルする。沸騰した海水は蒸気となり、空中高く猛スピードで上昇していく。水滴をたっぷりと含んだ雨雲が上空一帯に浮かび、海面には空気の薄い低気圧地帯が残される。トロピカルの海洋でバランスの崩れた不安定なスポットだ。これが南西から吹き付ける暴風雨となり広大なアジア大陸を襲う。日本の梅雨は夏の前のせいぜい1ヶ月間。ミャンマーでは6月から9月までほぼ4ヶ月間モンスーン雨季は延々と続く。

このモンスーン季節風は帆船を利用した昔の船乗りには重要な動力源で、アラブでは航海術が発達した。そして、米作をはじめとする農耕民族にとっては干天の慈雨となる。

だが、この4ヶ月間、道路は水浸しで、最近異常に増えたビジネススーツに革靴の外国人など、ヤンゴンでは非常識に映る。だから、通常勤務の国軍兵士が軍服に足元だけスリッパは、見ていて滑稽だが、実は敵を知り己を知った正しいスタイルなのである。

そうは言っても、買ったばかりのパンの耳にうっすらとカビが生え、洗濯物は生乾き、書類が湿気を含み、室内の湿気天国にモスキートが異常発生と、うっとうしい季節でもある。

もしあなたが今ヤンゴンにお住まいなら、そんな時“ヤーニ”の音楽をお勧めしたい。特にシリーズの内で“トリビュート”が良いだろう。路上のDVDなら500チャット(円貨50円)、だが演奏途中でフリーズしたり、何らかのトラブルが発生しやすい。安物買いの銭失いだ。今回は清水の舞台から飛び降りた積もりで1,600チャット(円貨160円)のブルーレイ版DVDを捜し求めよう。どちらにせよ、中国でコピーした海賊版だ。27インチのフル画面で見ると映像が鮮明で、サラウンドスピーカーの重低音が心地よい。バイオリンの高音域もしびれる音色だ。やはり大金を投じた価値がある。あなたは中国のブルーレイ版コピー技術が一段と進歩したことに目を見張ることだろう。僅かにこの2・3年のことだ。この辺りからもヤンゴンがひたひたと変革していることを読み取ってほしい。


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02:前奏曲(Prelude)

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遠くに中国の桂林と思われる孤峰がいくつも連なり、夕焼を捉えた画面は赤っ茶けている。眼下では緑に覆われた田園風景がおもちゃの箱庭と写る。竹編みの三角帽を被った農夫がこちら側の岩に腰掛け、膝の前で手を組み、この光景を悠然と眺めている。その姿がシルエットとなり、農夫が一幅の山水画に溶け込んでいる。バックには笛の音が東洋的な旋律を奏で静かに流れる。ひょいと男がカメラを振り返り、笛の音が大きく躍動する。

そこでカメラはターンして、万里の長城をアップで捉え、ゆったりと鳥瞰していく。オーバーラップするように紫禁殿内の建造物を下から見上げる。間違いなく中国のイメージだ。悠久の歴史に迷い込んだ笛の音は中国の音色となっている。

顔にしみの出た古老の顔が画面いっぱいに映し出される。が、背景も服装も分からない。多分、市井の人だろう。中国人には間違いなかろう。真正面からしっかりとカメラを見つめ、目には笑みも悲しみもない。現実を諦観する真摯な目つきだ。

ビデオは笛の音に合わせてゆっくりとターンする。子供の顔をアップで捉え、子供もカメラを直視する。農村の子かも。その大きな瞳と顔つきは中国人ではない。インド風民族衣装をまとった農婦が風にそよぐ麦畑の中に佇んでいる。画面は象徴的な断面を切り取っていく。血に染まった夕空を背景に、男を乗せたラクダが影絵となりゆったりと砂漠を渡る。音楽は笛だけでなく、シンセサイザーも加わったようだ。画面は中国から西へと旅しているのだろう。アラビア風建築物と思われる丸いドームが夕日を背景に大きく写る。そのお堀端のこちら側でカメラは廻わっている。シルエットの手漕ぎボートが孤を描いてスーッとこちら岸に近づいてくる。鳥が一羽、右から左へ画面を横切り、音楽は急にテンポを高め、画面はタージ・マハルの正面を大きく映し出す。バイオリンが加わり、キーボードが加わり、音楽は一段と高まる。前面に設えた特設舞台のオーケストラを遠景に捉え、カメラは徐々にその中心にズームインしていく。リズムに合わせるように、それぞれの楽器の演奏者たちをカメラが紹介していく。


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03:タージ・マハルと紫禁城(故宮)を口説き落としたライブ演奏

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地図で見るとミャンマーの左上がインド、そして右上が中国。人口では世界のナンバーワンを競う両大国で、ミャンマーを明日の生産・製造国とすれば、世界最大の消費大国が2つも隣に控えている。その両国を象徴する文化遺産がタージ・マハルであり、そして紫禁城(故宮)である。この二つの文化遺産を舞台としたライブ演奏を両国家から許可された数少ない、あるいは唯一の西洋人芸術家が“ヤーニ”である。


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04:“ヤーニ”という男

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日本での表記はヤニーまたはヤンニとされているが、出演者たちおよび彼自身の発音を注意深く聞くと“ヤーニ”が正しいようだ。1954年生まれのギリシャ人。18歳で米国に渡り大学の生協で皿洗いをしながら英語を勉強しミネソタ大学で心理学の学位をとる。が、正式に音楽のレッスンを受けたことはない。自己流で音符を書き、ピアノやキーボードも独習だ。学生時代にロックバンドの経験はあるが、大学卒業後の1年間は音楽を続けたいと、地元のロックグループに参加、音楽に専念・没頭する。この間に自分の一生は音楽にありと決心したようだ。

1993年9月に故国アテネ・アクロポリスにある古代円形劇場でライブ演奏を行いYanni Live at the Acropolisを撮影し、このビデオは1994年に発売されテレビでも放映された。自分は舞台中央でキーボードを担当し、フルオーケストラをバックにこれまで顧みられなかった民族楽器の演奏者たちを際立たせる演奏形式は観客を魅了し、“ヤーニ”独特の音楽ジャンルが確立していった。ちなみにこのテレビ放映は65カ国で5億人が視聴し空前の人気を呼んだ。そしてその音楽ビデオはマイケル・ジャクソンのスリラーについで第2位の販売枚数を誇り、世界中で7百万枚が売れたという。


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05:ヤンゴンで大ブレーク

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そして誰もが不可能だという親切な忠告を裏切り、“ヤーニ”はインド政府、そして中国政府の了解を取り付ける。周りの誰もが“アンビリーバブル”とうなった。

1997年3月にタージ・マハルでライブ演奏。そして同年5月に紫禁城(故宮)でほとんど同じ選曲でのライブ演奏を行った。この二つのライブ演奏を編集して一枚のアルバムに仕上げたのが雨季の夜長にお勧めの“Tribute”である。

このライブがヤンゴンで大人気だとコンピュータの師匠がデスクトップにインストールしてくれたのが、2004−2006年ごろだったろうか。何がミャンマー人を夢中にさせたのかは分からない。

白人オーケストラの行儀正しい演奏も悪くないが、ビートの利いた黒人主体のジャズも乙なものである。だが、“ヤーニ”が選抜した演奏家たちはひとりひとりが世界で誰もが注目しなかった楽器の専門家たちで、これこそプロだと納得させる凄さがある。それが“ヤーニ”の舞台ではフュージョンして全員が一体となって踊り始める。しかも、演奏家たちが他の共演者の演奏を身体で楽しんでいる。人種の優越性などない、それをはるかに超越した次元で音楽が踊っている。

“One World, One People”(下手な訳だが、“世界はひとつ、そして人類もひとつ”)彼の偉大な哲学である。そして彼は付け加える。音楽は世界の共通語だと。


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06:“ヤーニ”を無理やりミャンマーにこじつける

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前にも書いたが、ミャンマーには136の民族が共存している。そしてロヒンジャーを137番目の市民として登録すべしと外野席が余計な騒ぎ立てをしている。

ジンライムを飲りながら誰にも邪魔されず“ヤーニ”の音楽を深夜に聞いていると、酔いが回るにつれ、人間の歴史は些細なわだかまりで厭きもせず国家間で争いを続けてきたことかと、21世紀になっても何一つ変わっていないと、少し剛毅な気分になってくる。

テインセイン大統領に、そして時期大統領候補とみなされるアウンサン議員、シュエマン下院議長にミャンマーの民族問題を解決する真のモデルは、この音楽アルバムに隠されていますよとお勧めしたくなる。

ミャンマー一国だけではない。アフガンでも、シリアでも、エジプトでもつまらぬ争いが続いている。ミャンマーで手に入れられるこの海賊版を大量に購入して、まずは国連事務総長に、そして米国のオバマさんに、そして中国の習さんにも、おっと忘れてはいけない。日本の安倍さんにも進呈したくなる。

このDVDを見ていると不思議なパワーが湧いてくる。国家意識などどうでも良い。それよりも自分自身をゼロから鍛え直したくなる不思議なパワーだ。


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07: 日本では2−3年前は誰も知らず、そして今でも?

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ブルーレイ版DVDが特定のショップにお目見えしたのは3年ぐらい前だろうか。もちろんヤンゴン市内での話しだ。

ヤンゴンを訪れた日本人にこのDVDを見せると、“ヤーニ”など知らないという。だが、欧米では知られていたようだ。当時、日本ではなぜか誰も知らなかった。ある音楽通の上品なご婦人など、あのヒゲが少しイヤラシイですわとコメントをいただいた。音楽をヒゲで判断する鑑賞方法もあったのかと、自分の狭量さと不勉強を恥じ“ヤーニ”なってしまったこともある。

それから、このDVDを探し出してきては日本の友人にお土産として押し付けてきた。かなりの数に上る。だが、ミャンマーのVIPにはまだ進呈していない。世界のVIPにもだ。

もしもの話。人生にもしもの話は意味ないが、テインセイン大統領がインレー湖上に特設舞台を新設して“ヤーニ”のライブ演奏を企画したら、ミャンマーの民族平和協定は意外と簡単に解決するかもしれない。それだけのパワーがあり、その気にさせるのが“ヤーニ”だ。もちろんバガンの古都でも、雄大なイラワジ河畔でも構わない。

そしてサミット参加の指導者たちに国益とか、経済問題とか、ちっぽけなことは語らせずに、“One World, One People”のカクテルでも飲みながら歓談させれば、世の中は少しはましな方向へ向かうのではと夢想する。ジンライムが効いてきたようだ。余計なことをしゃべりすぎた。酩酊が進むにつれ、屋根を叩く豪雨がショパンに聞こえる。


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08:後奏曲(Postlude)

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“ヤーニ”は楽器を主体に演奏会を組み立てるが、彼の鬼才はボーカルの起用にも発揮されている。女性歌手Vann Johnsonがか細い身体でLove is allを絶唱すると身体のすべての空気が排出されたことが誰にも分かる。その唱法は圧巻で、これぞプロとしか言いようがない。彼女は米国人だが白人系ではない。その彼女がこの瞬間の主役である。

そして祭典は終盤に近づく。Vann Johnsonと対照的なたっぷりと大柄のAlfreda Geraldが右手と左手からそれぞれに舞台の前面に降り立つ。アフリカ系顔つきのAlfredaも米国籍だ。ロンドンフィル、NYフィルとも競演したプロのオペラ歌手で、R&Bのバックコーラスも務める。そのビートの利いた迫力ある歌唱法はバックのオーケストラを凌いでいる。是非一度聞いてみてほしい。負けじとVann Johnsonが空気を振り絞って畳み掛ける。このステレオ競艶は圧巻である。それが最後の曲“Niki Nana (We’re One)”である。

タージ・マハルが踊り狂い、紫禁城(故宮)も踊り狂う。まるで同時中継のライブを見ているようだ。インド人が熱狂し、中国人が熱狂する。“ヤーニ”がインドを、そして中国を征服した瞬間だ。この世の政治家が出来なかったことを“ヤーニ”は舞台の上だけでなく、会場の全員を巻き込んで、自分も楽しみながら優々と成し遂げている。

どうです、テインセイン大統領、アウンサンスーチー議員、シュエマン議長。堅苦しい議論は抜きにしてモンスーンの夜長をこのDVDで楽しみませんか?
今では、YouTubeの“Yanni”・“Tribute”検索で視聴できると師匠は語っている。




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