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<ミャンマーで今、何が?> Vol.58
2013.8.21

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar


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■2015年の大統領選を展望

・AAA:(政治)
  A1:2015年の大統領選を展望

・BBB:(経済)
B1:コーヒー豆生産農家に行政指導

・CCC:(生活一般)
C1:著名な将軍が土地をめぐる紛争で農民に銃を突きつける

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AAA:(政治)

A1:2015年の大統領選を展望

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政治・経済・社会分野で改革の法制化が進展しているように報道されているが、肝心要の“憲法”で25%の指定席を無条件に付与されている軍人議員団が一致団結して拒否すれば、これまで進展してきた民主化が停滞することも考えられる。

今週はこの憲法改正から次期大統領選挙を見ていきたい。

先月109名の議員から構成される ‘憲法見直し委員会’が国会で結成された。その構成委員は最大与党USDPから52名、軍人議員団から25名の代議員、野党NLDから7名、全18の政党から最低1名がこの委員会の代議員に選ばれた。しかし、この‘憲法見直し委員会’はまだ一度も開催されておらず、いつ開催されるのかまったく不明であるとある委員は先週語った。

この委員会ではアウンサンスーチーを2015年の大統領選出馬から排除する第59(f)条の改正問題に焦点が集まっているが、同時に民主的な選挙を経ずに国防軍が自由に指名できる25%の軍人議席数の条項にも注目が集まっている。

2008年に軍部によって制定された憲法改正の手続きには国会議員の75%以上の賛成が必要で、場合によってはさらに国民投票を実施して過半数の同意が条件とされている。現実には、国会議員の構成はシュエマン下院議長が党首を務める最大与党USDPに問題の軍人議員団を加えると90%近くの現役・元軍人グループが国会の議席を占めている。

しかし、現役・元軍人グループといっても、テインセイン大統領は就任後これまでの2年半で改革派に転向した新内閣人事を断行し、側近として国家改造を企画する10名を超える大統領顧問団を最高専門職として、画期的な政治・経済・社会改革を猛スピードで成し遂げてきた。したがって、これらに参画あるいは賛同する人脈は当然ながら、改革派と呼べるが、彼らはその指名を受けた段階で国会議員の資格を返上し、国会での票決には加われない。これがひとつの問題点である。

これに加えて、国会を司る上院・下院の両院議長はテインセイン大統領と協調するように改革推進派として発言し、国内外の代表・識者からも改革派として認識されてきた。特にシュエマン下院議長は次期大統領職に強い意欲をみなぎらせているだけに、2015年の大統領選挙にスーチー議員が出馬できれば、彼女の最大のライバルとみなされ、国会議員の数の論理で闘うシュエマンと国民的人気で闘うスーチーとの国運をかけた一騎打ちが見所となるだろう。

そこでシュエマンという人物を評価してみたい。旧軍事政権ではタンシュエ・マウンエイ両上級将軍に次ぐ第3位の席次であった。だが、トップ2が政治の表舞台から引退した現在、軍服を脱いだとは言え、シュエマンは世代交代した国防軍に最大の影響力を揮える立場にあるとの見方が根強い。

しかも、旧軍事政権では自分より下位であったテインセインが直接タンシュエ議長より新政府の初代大統領に抜擢され、自分はそれを支える下院議長に指名されたことに大いに不満を表明していた。このため一時はテインセイン大統領との不仲説が取り沙汰された。だがテインセイン大統領の民主化改革が特に欧米諸国首脳から注目され高く評価されると、シュエマンは率先して改革推進派の旗手に豹変していった。多分、今のミャンマーにとって民主化が最大の武器になるということを、どの時点かで賢明なシュエマンは学習したものと思われる。そこで自分の権力を活用して軍部を説得し、議会内での改革派を増やし、結果的にはテインセイン大統領の側近を改革派で固めることに協力していった。その功績に報いたものと推測されるが、与党USDP党首の役割を大統領は自ら退き、シュエマンにその地位を譲った。これは東西南北研究所の憶測である。一方では、シュエマンが権力闘争でテインセインに勝ったとの見方もある。これはその政治スタイルが軍師であり、策士であることからくる観測である。

だが、大統領が次から次に繰り出す国家改革案が欧米諸国、ひいては日本・韓国・インドを含むアジア諸国から高く評価され、欧米諸国はその経済制裁を解除するのみならず、世界中の首脳および閣僚、国際機関代表がミャンマーを競い合って訪問し、各分野における経済援助、インフラ援助、技術援助、教育支援などを押売りのごとくに申し出ている。

これまでの歴史でこれほどに幸運な国がこの地球上に存在したであろうか。シバの女王の故事“アラビア・フェリックス”に倣って、“ミャンマ・フェリックス”と呼びたくなるほどだ。そしてその奇跡としか思われない申し出はシュエマン下院議長へも波及し、欧米をはじめとする各国議会からの招待が殺到した。そのひとつが今年6月に実現したシュエマン議長率いるミャンマー国会議員の米国公式訪問である。当然ながら、海外では欧米マスコミとのインタビューの機会も増える。

そこでシュエマン議長は、AP通信の質問に答えて、“同議長の率いるUSDPはスーチー党首のNLDとは協力して国会運営を行っており、2015年の大統領選挙でUSDPがNLDと連合する可能性も排除しない”と答えている。

これは実に意味深な発言で、シュエマン議長の政治家としての力量と巧妙さを窺わせる発言と解釈したい。

なぜならば、ひとつにはスーチー議員の大統領選出馬を容認した質疑応答であること。
第二番目に、1990年の総選挙におけるNLDの大勝は旧軍事政権のトラウマとして焼き付いており、2015年の総選挙を人気投票として捉えた場合、軍事政権に対する国民の反発、そしてスーチー人気は今でもカリスマ性を維持していると予測できること。

第三番目に、これまでの民主改革は旧国軍の組織力・統率力を徹底的に活用してはじめて達成できたものであり、仮に人気投票とITを活用した動員力でNLDが与党になれたとしても、多岐にわたる国家運営の実務でその膨大な仕事量をこなせる組織力と統率力、そして人材があるのだろうかという不安が残る。すべてが未知数である。NLDとしても最後は仮に野党となるUSDPの実績と経験にすがることになるのではないだろうか。この弱点をマスコミを通じて突いていけば、テインセイン大統領から地盤を引き継ぐシュエマンが2015年の総選挙で有利に立ち回ることが出来る。だが、一寸先は闇だ。それが政治だ。

第四番目として、ポリティカル・ゲームとして政治をもてあそぶのではなく、もっと高度なレベルで、しかも基本に戻ってミャンマーの政治を考えた場合、テインセイン大統領は口をすっぱくして国民が望むなら、国民のためになるならと、リンカーンに劣らぬほどの民主政治を説いてきた。そして時代は21世紀である。冷戦後のパワーゲームは米国vs中国を中心に移行しており、ミャンマーにはそのどちらかに肩入れするのではなくバランスを重視した対外政策が要求され、テインセイン大統領は実に巧妙な舵取りをこれまで行ってきた。そして時代は多彩で多極的な外交政策を要求している。中国とインドを世界最大の消費国として捕らえるとこの両国を隣国にもつミャンマーは地の利を得た幸せな国となる。両国とミャンマーを結ぶ経済政策および交通政策は非常に重要でこれらのインフラが急がれる。それだけではない。アセアン・東アジア・中東との外交、欧米・オーストラリア・NZとの関係、そして中南米・アフリカを視野に入れるとミャンマーを中心とした新しい経済政策・外交政策の確立が望まれる。これには相当の知識と知恵が求められるであろう。果たして、NLD一党でこれらの課題に挑戦するだけの組織・統率力・人材がまかなえるのかは実に大きな疑問である。

第五番目として、過去4年間の新政権の実績をこと細かに分析すると、天・地・人の配合が奇跡としてしか表現できないほどの結果を生み出している。スーチー党首に敵となる現与党であるUSDPの実績を冷静に判断する能力と度量があるのだろうか、そして自分たちの政党であるNLDの実力を底辺から見直すだけの度量があるのだろうか。国民の利益を最優先するならば、シュエマン下院議長が投げかけたUSDP・NLDの提携を真剣に考える度量が政治家として持ち合わせているのだろうか。彼女自身の口から“恨みを抱くな”と語っている。それが口先だけでなく、実行に移せるかどうかが、アウンサンスーチーという歴史上稀有な人物に投げかけられた問いだと思われる。

話題を最初の憲法改正に戻そう。

国会で90%以上を占める現役の軍人議員および制服を脱いだ旧軍人議員に大きな影響力を揮えるのは先述したがシュエマン下院議長である。だが、憲法改正に関して言えば、スーチー議員とはテインセイン大統領よりも自分のほうがより親しい間柄であると公言するシュエマンが、それは‘憲法見直し委員会’が決めることだ、と自分は一歩腰を引いた発言をしている。自分のさじ加減次第で旧・新軍人グループに影響を及ぼせる立場にいながらである。

そこでスーチー姐御がシュエマンに果たし状と題してお届けした週刊メルマガ第54号である。

もし元将軍のシュエマンが本物のサムライであるならば、正々堂々と私と真剣勝負をしたらいかがですかというスーチー姐御の恫喝である。しかも、国際的ジャーナリストを味方につけて首都ネイピードの国会内でおこなわれた記者会見の席上である。すでに2015年の大統領選挙キャンペーンは開始されたのである。

両者が何らかの問題で行き詰れば、テインセイン大統領の4年間の功績が評価され、テインセイン・コールが内外から起こるかもしれない。彼には憲法上もう一期4年間大統領職を務めることは認められている。あるいは他の地域、他の政党からダークホースが現れるかもしれない。政治の世界では一寸先は闇なのだから。

シュエマンが男っ気を出してスーチー姐御の大統領選出馬の環境作りに協力すれば、逆に彼の個人的人気がスーチー人気を凌駕するかもしれない。これはミャンマーのポリティカル・ゲームである。外国人投資法の逐条解釈でネイピードとヤンゴンを往復することも重要かもしれない。しかし、その大前提である憲法がどちらの方向に向かうのかを見極めることもミャンマーと長く付き合うのであればさらに重要では。


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BBB:(経済)

B1:コーヒー豆生産農家に行政指導

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ミャンマーのコーヒー生産はマンダレー地区のピンウールインとその近隣地区が有名だが、当局は2014年収穫季に合わせてコーヒーの栽培を開始せねばならないと語った。ピンウールインとその近隣地区には18,000エーカーの耕作地があるが、そのプランテーションに使用されているのはたったの40%で、しかも収穫レベルに達するのは5,400エーカーでしかないとしている。コーヒー計画は2001−02年から開始され、すでに10年以上経過した。コーヒー・プランテーションの認可を受けた投資家の一部は成果を挙げているが、一部はまだ耕作すら開始していない。したがって、当局は耕作を開始するように認可期限を設定した。だが、違反者を罰するのではなく、コーヒー生産の指導・訓練、成功したプランテーションの見学、コーヒー生産の作業委員会を設置するなどの行政指導を行っていきたいとしている。


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CCC:(生活一般)

C1:著名な将軍が土地をめぐる紛争で農民に銃を突きつける

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タンシュエ元上級将軍の私設秘書スタッフの一人である少将が7月5日土地をめぐる紛争で農民たちに銃を突きつけ脅迫した。当初農民の訴えを村の警察は退けていたが、7月末になって町区の警察署が証人の聴き取りに乗り出した。町区の警察署長は、調査の一部として10名の証人を尋問し、8月第3週には調査を終了すると8月13日に語った。証人の幾人かは病気や旅行で調査が遅れているが、ネイピード本局は調査と報告書の提出を指示しており、この報告書にしたがって本件を裁判所に持ち込むかどうかを警察本局は決定する。この少将はミャンマーの国土法に従い2010−2011年に所有者のいないこの土地を取得したとし、農民たちがこの土地を勝手に耕作したので繰り返し警告していたと語った。だが、銃砲で農民を脅迫したことは否定していない。一方、農民はこのオーナーは何らかの耕作を開始したという事実は公開しておらず、あくまでも不法に土地を取得したと反論している。

農民たちの訴えを聞いて地元代表のNLD国会議員がこの問題を取り上げ、当局が調査を開始したものである。

以上はミャンマー・タイムス今週号の記事で氷山の一角でしかないが、この記事が事実とすれば、新政府に交代するまでの旧軍事政権では、権力者およびその周辺に巣食う高官・財閥等が無法状態でいかに濡れ手に粟の自己利益の導入を図っていたかが分かる。これはほんの一例である。どうぞ行間を読み取ってほしい。




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