魚名の由来(オナガザメ科)Vol6−1

ハチワレニタリ マオナガ


ハチワレ は、オナガザメ科のオナガザメ属に属している。 日本からは5種の呼名が知られている。

呼名と使われている地方(◎和名.○別名)
呼  名地  方 呼  名地  方
◎ハチワレ バケ
オナガザメ ○バケオナガ
ドブネズミ九州地方

(全長500cm)


ハチワレ(和名)
鉢割(ハチワレ)説
ハチワレのハチは、頭蓋骨やその周辺を意味する鉢のことで、本種の頭部背面に 目後方から鰓域上部にかけて明瞭な溝があることより呼名されたものではなかろうか。
この呼名について、矢野(1976)は「ハチワレの名は、頭部に、割れた 鉢のような盛り上がりがあるからだそうだが、変な名前をいただいたものだ」 と述べている。
英名 Big-eyed thresher sharkは、大目の麦を打つような動作をするサメの 意味、Deepsea Bigeye thresherは、深海に生息する大目の麦を打つような動作をするもの という意味であろう。ともに本種の特徴をよく表している。
オナガザメ
尾長(オナガザメ)説
この呼名は、本種の尾鰭が極めて長いことに由来していると思われるが、本種の それは体長よりやや短く。多種と混称されている詳細はマオナガの項を参照のこと。
ドブネズミ
溝鼠(ドブネズミ)説
本種の背面が濃紫灰色で、尾鰭が著しく長いことより、人家の周辺や下水の 近くにすむネズミの一種であるドブネズミに似ているとして呼名されたものではなかろうか。
この呼名について、矢野(1976)は「オナガザメに似ているが尾鰭が 体長より僅かに短く、歯に鋸歯がなく目はやや大きい。体色はくすんだ紫灰色とでもいおうか。 このため九州ではドブネズミという」と述べている。
バケオナガ、バケ
化け尾長(バケオナガ)説
本種がマオナガに似ており、頭部の背面に溝があることより、マオナガと 区別する意味を含め呼名されたものではなかろうか。日本語では頭部に疵があるものを 化け物と称することがある。
この呼名について、矢野(1976)は「練製品にするが、オナガザメより 味は落ち酸味と苦味を生じることもあるとして、業者はマオナガと区別し バケまたはバケオナガという」と述べている。
この呼名は本種の別名として知られている。オナガの詳細はオナガザメの項を 参照すること。バケはバケオナガの転訛語と思われる。



ニタリ は、オナガザメ科のオナガザメ属に属している。日本では、 マオナガと同じ名で呼ばれることが多く、21種の呼名が知られている。

呼名と使われている地方(◎和名.○別名)
呼  名地  方 呼  名地  方
◎ニタリ ネズミザメ関東地方、大阪府、兵庫県
アイオナガザメ神奈川県 ネズミブカ関西地方、高知県、大阪府、山口県
アオオナガザメ ネズミブカ関西地方、高知県、大阪府、山口県
アオザメ和歌山県 ノウソウ福岡県、長崎県
オナガ富山県、東京都、千葉県、神奈川県、和歌山県、
高知県、福岡県、佐賀県、
ノオソウ福岡県、長崎県
○オナガザメ富山県、福島県、東京都、神奈川県 フカ新潟県
オナガワ島根県 ○マオナガ
オナガワニ島根県 ミジブカ沖縄県
キツネブカ石川県 モロ千葉県
ネズミ和歌山県、高知県 ヲナガザメ富山県、福島県、東京都、神奈川県

(全長330cm)


ニタリ(和名)
似魚(ニタリ)説
本種がオナガザメ科の代表種であるマオナガに、外見や生態等が似ていることより 呼名されたものではなかろうか。ちなみに、本種の英名を含むその他の呼名は、 マオナガとほとんど同じで混称されている。「リ」は、魚名語尾で魚を意味する。
本科では、以前はオナガザメとハチワレの2種が知られており、澁澤(1958)には、 オナガザメの学名として、Vulpeccula marina, Alopias Alopias pelagicus3種が記載され、 他の文献ではそのどれかが用いられている。しかし、現在、同科ではハチワレ、 ニタリ、マオナガの3種類が知られており、それぞれ学名はハチワレA.superciliosus、 ニタリ A.pelagicus、マオナガ A.vulpinusとなっている。
アイオナガザメ、アオオナガザメ
藍尾長鮫(アイオナガザメ)説
アイオナガザメは、藍尾長鮫の意味で、本種の背面が紫褐色で腹面は白いことより 呼名されたものではなかろうか。マオナガと混称されている。詳細はマオナガの 項を参照のこと。アオオナガザメは青尾長鮫の意味であろう。
アオザメ
青鮫(アオザメ)説
アオザメは青鮫の意味で、マオナガと混称されている。詳細はマオナガの項を参照のこと。
オナガザメ 別名
尾長鮫(オナガザメ)説
カドは、鰹(カツオ)を意味する方言と思われる。 オナガザメは、尾長鮫の意味で、本種の別名として広く知られている。マオナガと 混称されている。詳細はマオナガの項を参照のこと。
オナガ、オナガワ、オナガワニ、ヲナガザメ
尾長鮫(オナガザメ)の転訛説
オナガ他は、オナガザメの転訛語と思われる。詳細は前述のオナガザメの項を参照のこと。
キツネブカ
狐鱶(キツネブカ)説
キツネブカは、狐鱶の意味で、マオナガと混称されている。詳細はマオナガの項を参照のこと。
ネズミブカ、ネズミザメ、ネズミ、ネヅミブカ
鼠鱶(ネズミブカ)説
ネズミブカは、鼠鱶の意味で、マオナガと混称されている。詳細はマオナガの項を参照のこと。その他の呼名はその転訛語であろう。
ノウソウ、ノオソオ
サメ類の共通呼名説
ノウソウは、小型で性格がおとなしいサメ類の共通呼名と思われる。本種は、島嶼域の表層付近に生息する比較的 おとなしいサメで、人間を襲った例はほとんどない。本種の小型のものがこのように 呼名されたのではなかろうか。ノオソオはその転訛語であろう。ノウソウの詳細はサメ類の項を参照のこと。
ハタオリ
機織(ハタオリ)説
ハタオリは機織の意味で、ナオナガと混称されている。詳細はマオナガの項を参照のこと。
フカ
サメ類の共通呼名説
フカは、サメ類の共通呼名と思われる。詳細はサメの項を参照のこと。
マオナガ
真尾長(マオナガ)説
マオナガは、真尾長の意味で、マオナガと混称されたものではなかろうか。この呼名は本種の別名として 広く知られている。詳細はマオナガの項を参照のこと。
ミジブカ
水鱶(ミズブカ)の転訛説
ミジブカは、水鱶の転訛語で、ナオナガと混称されている。詳細はマオナガの項を参照のこと。
モロ
群棲(モロ)説
モロは、群棲の意味で、マオナガと混称されている。ナオマガの項を参照のこと。



マオナガ は、オナガザメ科のオナガザメ属に属している。日本からは 25種の呼名が知られている。

呼名と使われている地方(◎和名.○別名)
呼  名地  方 呼  名地  方
◎マオナガ ネズミブカ関西地方、高知県、大阪府、山口県
アイオナガザメ神奈川県 ネヅミブカ関西地方、高知県、大阪府、山口県
アオザメ和歌山県 ノウソウ福岡県、長崎県
オナガ富山県、東京都、千葉県、神奈川県、
和歌山県、高知県、福岡県、佐賀県
ノオソオ
バケオナガ
福岡県、長崎県
○オナガザメ富山県、福島県、東京都、神奈川県 ハタオリ宮城県
オナガワ島根県 ハタオリザメ宮城県
オナガワニ島根県 フカ新潟県
キツネブカ石川県 ホンオナガザメ神奈川県
ナガワニ島根県 ミジブカ沖縄県
ニタリ メマル和歌山県
ネズミ和歌山県、高知県 モロ千葉県
ネズミザメ関西地方、大阪府、兵庫県 ヲナガザメ富山県、福島県、東京都、神奈川県

(全長600cm)


マオナガ(和名)
真尾長(マオナガ)説
オナガザメ科の魚は、尾鰭が極めて長いことより呼名されたものであろうが、 本種の尾鰭は、その中では最も長く体長以上である。このことよりオナガザメの 代表種という意味で、マ(真)の字をつけマオナガと呼名されたものではなかろうか。
英名 Thresher shark は麦を打つような動作をするサメの意、Whip tail sharkは鞭のような 尾をもつサメの意で、共に長い尾鰭で海面を叩く習性から呼名されたものと思われる。 本種は魚群を発見したら、この長い尾鰭で海面を叩き魚群を海面付近に団子状に集め、 それに突入して食べるが、尾鰭で魚を叩きのめすこともあるという。
この呼名について、矢野(1976)は「英名は、水面を叩く習性から籾を叩き集める 脱穀機の意味で、 Thresher sharkと呼ばれる」と述べており、鷲田(1986)は「原船スレッシャー号の名は、 オナガザメの英名 Thresher sharkから名付けられたもの」と述べている。
アイオナガザメ
藍尾長鮫(アイオナガザメ)説
アイオナガザメのアイは、タデ科の1年草からとれる青より濃く、紺より淡い 染料の藍のことではなかろうか。本種の背表面が青黒色であること、尾鰭が著しく 長く、体長以上であることより呼名されたものであろう。
アオザメ
青鮫(アオザメ)説
アオザメは、本種の背面が青黒色であることより呼名されたものではなかろうか。
オナガザメ 別名
尾長鮫(オナガザメ)説
オナガザメは、ほんしゅの尾鰭が著しく長く、体長以上であることより呼名されたものではなかろうか。 この呼名は、以前本種の和名として知られていたが、現在は別名として用いられている。
オナガ、オナガワ、オナガワニ、ナガワニ、ホンオナガザメ、ヲナガザメ
尾長鮫(オナガザメ)の転訛説
オナガ他は、オナガザメの転訛した語と思われる。詳細は前述のオナガザメの項を参照のこと。
キツネブカ
狐鱶(キツネブカ)説
キツネブカのキツネは、食肉目の狐のことと思われる。狐と犬とは尾が太くて長いことで 区別される。本種の尾鰭が著しく長いことを、狐の尾に例えて呼名されたものではなかろうか。
英名 Fox sharkは狐鮫、Sea foxは海狐の意で、ともにこの呼名と同じような由来で呼ばれたものであろう。
この呼名について矢野(1976)は「英名でFox sharkと呼ぶ。石川県字出津での地方名もキツネブカという。長い尾がキツネに似ると見たのであろう」 と述べている。
ニタリ
似魚(ニタリ)説
ニタリは、似魚の意味で、ニタリと混称されたものと思われる。詳細はニタリの項を参照のこと。
ネズミブカ、ネズミザメ、ネズミ、ネヅミブカ
鼠鱶(ネズミブカ)説
ネズミブカのネズミは、齧歯目ネズミ科の小獣で、本種の尾鰭が著しく長いことを鼠の尾に例えて呼名されたものではなかろうか。
ちなみに、沿岸域に生息する小型の魚類には、イタチ、ヤモリ、イモリなど小動物の名称をつけることが多い。 その他の呼名は、その転訛語と思われる。フカの詳細はサメ類の項を参照のこと。
この呼名について、大島(1939)は「大阪方面で、これをネズミブカと云ふのは、その尾が鼠の尾に似ているからであろう」と述べ、田中(1933)は 「東京や神奈川縣三崎でオナガザメ、大阪方面でネズミブカと云ふ。東京で云ふネズミザメは、本種でなく、 ラクダザメのことである。本種は、鮫類中で尾鰭が最も長く、鼠の尾に似てゐる爲ネズミブカの名稱がでた」と述べており、 矢野(1976)も「関西のネズミと東北のネズミ(モウカ)とは全く別ものである」と述べている。
ノウソウ、ノオソオ
サメ類の共通呼名説
ノウソウは、性格がおとなしい小型サメ類の共通呼名と思われる。本種が、島嶼域の表層付近に生息する比較的おとなしいサメで、 人間を襲った例がほとんどないことより、このように呼名されたのではなかろうか。詳細はサメ類の項を参照のこと。
バケオナガ
化け尾長(バケオナガ)説
ハチワレの地方名と混称されたものではなかろうか。詳細はハチワレの項を参照のこと。
ハタオリザメ、ハタオリ
機織(ハタオリザメ)説
本種の尾鰭が体長以上と異常に長く、少し湾曲しており、その形状が機織(ハタオリ)の 道具に似ているところより呼名されたものではなかろうか。
フカ
サメ類の共通呼名説
フカは、サメ類の共通呼名と思われる。詳細はサメ類の項を参照のこと。
ミジブカ
水鱶(ミズブカ)の転訛説
ミジブカは、ミズブカの転訛語と思われる。本種の体色が青黒色で、海水が保護色になり、 あまり目立たなくなることより呼名されたものではなかろうか。
メマル
目丸(メマル)説
本種の目が、小さくて丸いことより呼名されたものではなかろうか。成魚の頭長は目の鉛直径の8.5倍、水平径の10.3倍である。
モロ
群棲(モロ)説
群棲する魚は、モロコ又はモロと呼名されることがある。このサメは魚とりの名手で、 魚群を発見したら、時には群れをなして長い尾鰭で海面を叩き、魚群を海面付近に 団子状に集め、それに突入し餌摂する。このように、本種が群れをなして餌を 捕獲するところが目撃され、呼ばれたものではなかろうか。